スイカ畑の少女
遠くから。
とても遠くから、牧村美由紀の声が聞こえた。
「なに、なに、何の音? 洋館で鳴り響く一発の銃声? ここはどこ? わたしはメイド? 教えておじいさま。わたし、クララを殺してしまったの!」
寝ぼけているらしい。ぼくは依然としてのたうちまわりながら、やがてばたばたと駆け寄ってくる足音を聞いた。
「ちょっと、ヨコマチさん! だいじょうぶ? だいじょうぶなんですか?」
だいじょうぶなわけがない。
洗濯機に内臓をぶち込まれ、ぐるぐる掻き回されているようだった。
「し……ぬ……」
美由紀はぺたんと座りこみ、ぼくの手を握った。涙が、はらはらと頬にふりかかった。その感触だけが、焦熱地獄に降る雨のように心地よかった。
「すぐに救急車を呼びますから。ね。すぐに来ますから。もうちょっとのしんぼうですから!」
立ち上がろうとする彼女の手を、ぎゅっとつかんだ。
「きゅ……救急車は……だめ、だ」
「でも」
「ほ、保険証が、ないんだよ。わかってくれ……美由紀、ちゃん」
「お金なら、わたしが何とかしますから!」
再び腰を浮かそうとした彼女の肩ごしに、ドアが開くのが見えた。パジャマ姿のユキトが顔をのぞかせた。どうやらもの音に気づいて、様子を見に来たらしい。目をまるくしているかれに向かって、ぼくは手を伸ばし、声をしぼり出した。
「ユキト……頼む。救急車だけは、よ、呼ぶな。ぶ、武士の……情け、だ」
世界が暗転した。
奇妙な夢をみた。
ぼくはスイカ畑をさまよっていた。
地を這うようにして、青々と茂る葉の中に、まるまると実った緑と黒の縞模様が見え隠れしていた。空は雲ひとつない青空。なのに、太陽がどこにも見えず、それでなんとなく、夜のような印象がぬぐえなかった。
ヒトさまの畑だ。ここにいてはいけないという思いとは別に、どこか見覚えのあるような、故郷に戻ってきたような、居心地のよさをおぼえた。畑の真ん中には、丸太で組んだ、高床式のいびつな番小屋が建っていた。
やはり、むやみに近づくべきではない。ひょっとすると、スイカ泥棒と間違われて、面倒なことになるかもしれない。それはわかっているのだが、帰り道を尋ねる方法が、ほかに思いつかない。番小屋には、赤い服を着た少女が一人、ぽつんと座っていた。
十二、三か、そこいらだろうか。
花のようなワンピースは、どこかの民族衣装をおもわせた。黒髪を耳の両脇でたばね、少女らしい、生真面目な顔で、じっと前方を見つめていた。足音に気づいたのか、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。大きな目。小動物的な、愛くるしい顔だち。
少女の額には、巻貝をおもわせる、一本の小さなツノが生えていた。
「ごきげんよう」
声をかけると、少女は赤い莟のような唇をほころばせた。そうして、たしかにこう言ったようだった。
「腹ペコなんですねえ。飯にしましょう、ご主人」




