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負けヒロイン

作者: 神人
掲載日:2026/09/10

最後まで読んでみてください

私は負けヒロインだ。

夏の暑さが残る9月下旬の夕方、またそんなことを考えながら私はとある場所に向かっていた。

目的地に着いた私は受付を済ませ、彼がいる部屋へと向かった。

部屋に着くとベットに上半身だけ起こし横たわりながら寂しさと悲しみを感じるような顔で窓の外を見ている彼がいた。

ここは病院である。

彼は神谷凪かみやなぎ私の幼馴染で初恋の相手である。

「今日も来てくれたのか!」

彼の病人とは思えない元気な声が静かな病室に響き渡る

「言ったでしょ、必ず毎日来るって。てか病人なんだから大人しくして」

彼は、はいはいと拗ねたような顔をして言った。

私は、そんな凪を横目にベットの横にある椅子へと腰掛けた。

彼は高校2年という若さで膵臓癌にかかってしまい余命残り1ヶ月と宣告を受けたばかりであった。

でも私はきっと大丈夫だと信じている。

「よしじゃあ今日も、、、」

いつものが始まった

「あっち向いてホイ!」

「イェーイ今日も俺の勝ち!」

あっち向いてホイだ

私は右を向いて凪は右を指していた。

この遊びが始まったのは病院に凪が入った日からだ特に辞める理由もないので何となくそういうものだと思って相手をしている。

希粋きすいはとことん弱いよな笑」

「凪が強ぎるんじゃん、私今まで何回もしてるけど勝った覚えがないもん」

余命が1ヶ月を切っている人がいるとは思えない楽しい雰囲気が病室の中を明るくしていった。

その後もいつも通り学校であった話などの他愛もない話をして面談終了の時間を迎えた。

「また明日ね」

「おう!今日もありがとうな!」

凪はいつも通り元気な返事を返してくれた。



怖い

そんな事を思いながら残り少ない人生の中、俺は窓の外を眺めていた。

夏休みも終わり、新学期の始まったばかりの時だった。

夕食を食べ終え自分の部屋に戻りインスタグラムの投稿を見ながらいつも通りの日常を送っていた。そんな当たり前の日常の一コマの中あまりにも急にそして残酷にその瞬間は訪れた。急に息が苦しくなり咳が止まらなくなった。目の前が真っ暗になり意識が遠のいていくのがわかった。

目が覚めると病室にいた。

横には涙ながらに俺が目覚めた事を喜んでいる母と何も言わずにただ下を向いている父親がいた。その反対側には純白の白衣を着て真剣な顔をしている医者がいた。

目覚めてから少し時間も経ち自分も両親も落ち着いてきた時のことだった。医者が口を開いてこう言った

「慌てずに聞いてください、君は膵臓癌のレベル4だということがわかりました。

どう頑張っても残り1ヶ月が限界です。」

「、、、???」

意味がわからなかった。目の前にいる変にすかした白い服を着たジジイが俺に変な嘘をついてきやがる。面白くない。ふざけやがって。

嘘ではないという事は横にいる両親と医者の目線と雰囲気で何となくわかっていた。

けどなんで、けど何で俺なんだ。

そんなことばかり頭によぎり何も考えられなくなった。気付かぬうちに目から涙が溢れていた。そして俺の病院での残り1ヶ月という本来の人生で見ればほんの一瞬であるはずだった俺の余生がスタートした。

次の日早朝から希粋が病室に駆け込んできた。

泣いていた、幼馴染で小中高全て同じで、ずっとそばで見てきて見慣れているはずのあいつが少し新鮮だが見覚えがある顔で泣いていた。

「、、、」

沈黙が続いた。

その沈黙を切り裂くように希粋は口を開いて言った。

「なんでなのよ」

その辛そうな声とどこか懐かしさを感じる顔を見て思い出した。

幼稚園の頃友達もいなくずっと1人だった。そんな俺の味方は家にいたいつも優しいおばあちゃんだった。

おばあちゃんはいつも1人で寂しそうに泣いている僕の味方をしてくれた。

そんなおばあちゃんはある日泣いて帰ってきた俺にゲームをしようと言ってくれた。

「あっち向いてホイ」

俺は急に始まったゲームに慌てて何となくで下を向いた。おばあちゃんを見ると下を指していた。

「私の勝ちだね笑」

おばあちゃんはそう言い、続けて言った

「このゲームはねその人の気持ちを表してるのよ、下を向くときは悲しい時、上を向くときは嬉しくて人生を楽しんでる時、右を向く時は、自信がある時、左を向く時は迷いがある時。

だからこのゲームはその人の気持ちがわかるゲームなの、凪ちゃんはもし今の凪ちゃんみたいに下を向いて悲しんでる人がいたらどうする?」

俺は答えた

「上を向いてくれるように楽しくさせてあげる」

おばあちゃんは笑って答えた

「じゃあ凪ちゃんも笑って楽しんでみんなを笑顔にしなくちゃね」

そんな話を聞いた後俺は泣いてた理由なんか忘れておばあちゃんにくっついて上を向いて笑っていた。

そんな出来事があった次の日の幼稚園。

1人で泣いている女の子がいた。

希粋だ。

俺はおばあちゃんの話を思い出して迷わず希粋に話かけて元気いっぱいの太陽のような声で言った

「ゲームしよ!」

「急に何?」

その時の悲しそうな声と顔だ

今病室で希粋が俺に向けている物はこれだ俺はそんな昔話を思い出しながら、俺は希粋に話しかけた。

「なぁ、ゲームしようや」

「???」

戸惑う希粋を横目に俺はあの時のおばあちゃんのように言った

「あっち向いてホイ!」

希粋は下を向いていた。

俺も下を指した。

希粋は言った

「何これ」

そう言いつつ笑っている希粋を見てもう一度言った。

「あっち向いてホイ!」

希粋は上を向いていた。

そして俺も上を指さしていた。

幼稚園の頃もそんな事したなとデジャブを感じながら俺は希粋に言った。

「俺の勝ち!」

希粋は訳がわからなそうにしているが顔は確かに笑っていた。

俺は堂々として言った

「明日もしよう!泣かなくても死んでからでも毎日してやるよ!」



1ヶ月後、、、

凪は死んだ。

私は凪が亡くなる最後の日まで病院に通い続けた。

私は涙が止まらなかった、苦しくて寂しくてどこにも行き場のない悲しみを噛み締めていた。

亡くなった報告を聞いた後もいるはずのないのに希望を捨てきれなくて最後に病院に向かっていた。もうすっかり寒くなり厚着をしていた。

病院に着き受付をしたが空室だから行くのは無理だと断られてしまった。

そりゃそうだよなと思い諦めて帰ろうと振り返った時病院の人に呼び止められた

「前回その病室にいらした人がもしもう一度誰か部屋に来る人がいたら渡して欲しいと言われていたものがありますので、これをどうぞ」

私は分厚いノートをもらった。

急いでそれを家に持ち帰り自分の部屋に行き開いてみた。

ノートの1ページ1ページに上向きの矢印が書かれていた。

どういうことかわからなかったが、最後のページを見て全てを理解した。

最後のページにはこう書かれていた。

「どうせ下を向いてるだろうから今日の所は負け覚悟で上を書いといてやるよ!

だから下向かず上向いて笑って俺の分も楽しんで人生すごせよ!!」

私は思った。最後の最後までしてやられて負け続けた自称ヒロイン、負けヒロインだったなと。

おわり

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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