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不可思議事件録2 ~鋼鉄の支配を琥珀の絆で描き直せ。少年と巫女が綴る、街と家族の再設計~  作者: たくみふじ
第五章 白銀の迷宮、工藤の残党と弓の再生

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虚数(きょすう)の設計図、神域の龍と朱(あけ)の契約㈡

冷たい数式を温かな余白へ。少年と巫女が綴る、世界再設計のファンタジー

「……構いませんわ。……良亮さんが、命を削って『家』を描いたのです。……わたくしが、その家の『庭』を、この不浄な輩から守らなくてどうしますの!」


 竜子が朱の扇子を天に掲げ、一閃させた。


 ドォォォォォォォォォォ――ッ! 


 森の樹木が一斉に(うな)り声を上げ、誠司が設置していた観測機器や電磁波発振装置を、巨大な根が物理的な質量を持って粉砕していった。


「……ぐ、あああああ――ッ! 私の……私の大設計が……自然の暴力に……!」


 誠司は、自らの論理が「理解不能な荒ぶる神の意志」によって蹂躙(じゅうりん)される絶望に、正気を失いかけていた。


「今だ、良亮さん! あの男の持っている『指揮杖』……あれがこの森の地脈(レイライン)を歪めている急所ですわ!」


 竜子の叫びに、良亮は弓の手を離し、前方へと飛び出した。彼の右腕の痣が、誠司の杖に集中する「論理の収束点」を、真っ赤なエラーとして捉えていた。


「……終わりだよ、誠司さん! ……あなたが望んだ『完璧な世界』なんて、どこにもないんだ!」


 良亮は、痣に宿る全エネルギーを、右手の指先に集束させた。彼の指先が、誠司の指揮杖に触れた瞬間、良亮は自身の肉体が「鋼鉄の針」になったかのような感覚を覚えた。


構造統合(アーキテクチャ・シンクロ)……! 属性変更:『ただの枯れ枝』!」


 良亮が放った強力な「定義変更」のパルスが、誠司の杖を内側から破壊した。


 パキィィィィン――! 


 工藤一族の技術の結晶であった指揮杖は、良亮の言葉通り、ただの(もろ)い枯れ木へと姿を変え、誠司の手の中で粉々に砕け散った。

 杖に蓄積されていた莫大な電磁エネルギーが、制御を失って逆流し、誠司を青い火柱の中に飲み込んだ。


「……あり得ない……。……バグが……、バグが世界を……書き換える、だ……なんて……」


 誠司は、自らの信じた論理という名の牙城が、少年の「情熱という名のノイズ」によって崩壊した事実に打ちのめされ、そのまま深い森の闇の中へと、意識を失って崩れ落ちた。


 嵐が、去った。誠司が構築していた「白銀の迷宮」も、工藤の残党たちの軍勢も、伊勢の深い森の静寂の中に消え去った。東の空からは、十一月の凍てつくような、しかし澄み渡った朝の光が、木々の隙間を縫って差し込み始めていた。


「……はあ、はあ……、っ!」


 竜子は、神との契約を解くと同時に、その場に崩れ落ちた。彼女の透き通った肌は、あちこちが土と血に汚れ、その髪からは赤い霊気の残滓(ざんし)が、陽炎(かげろう)のように立ち上っていた。


「竜子さん!」


 良亮が駆け寄ると、竜子は少しだけ目を開け、いつものように不敵に微笑んで見せた。


「……おーほっ、ほっ……。……随分と……お待たせいたしましたわね、良亮さん。……美味しいお汁粉の約束、……まだ……生きておりますかしら?」


「もちろん、生きてるよ。……何百杯でも、(おご)ってあげるから」


 良亮は、竜子の冷たくなった手を握りしめた。その隣では、記憶の断片を取り戻し始めた弓が、朝日に照らされた「赤い鉛筆」を、不思議そうに見つめていた。


「……わたし、……わかったの。……この鉛筆は、……線をひくためのものじゃない。……だれかと、……つながるための……アンテナだったんだね」


 弓の瞳には、かつての冷酷な巫女の面影はもうなかった。そこには、自分の足で、自分の人生を設計し直そうとする、一人の少女の強い意志が宿っていた。


「……良亮くん。竜子様。……弓様」


 怪我を負いながらも立ち上がった宗介が、朝日に向かって一礼した。


「……工藤の拠点は壊滅しました。……しかし、ハルが遺した最期の言葉が気になります。……『巫女大会の真の決勝戦』……。……それは、この伊勢の地ではなく、工藤一族が最も恐れ、そして最も執着している、あの場所に設定されているはずです」


 良亮は、自らの右腕の痣を見つめた。痣の光は、今は優しく、琥珀色の拍動(はくどう)を繰り返している。「……河崎……。……僕たちの、街だね」


X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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