表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金髪コミュ症は勇者になれるのか  作者: やまたぬ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/41

第19話 「たくさん食べさせて……、あげてください」

「お前らなんのつもりだあ? 虫けらがいくら集まったところで虫けらなんだよお! 全員ぶっ殺されてえのか!」


 立ち向かう村人たちに対峙して、大男に先程までの勢いはない。

 必死に声を荒げてはいるが、俺を見下ろしていた時の笑みは消えていた。


 さすがの大男でも理解しているのだ。圧倒的に不利な状況、ピンチってやつを。


 基本的にどんな強者であったとしても、数の力には勝てない。

 まして、こいつはパワータイプだし、おそらくそこまでの強者ではない。


 目で追うこともできないスピードタイプや、風圧だけで吹き飛ばせるのなら話は違っていたが、こいつはそのどちらでもない。


 幸運だった。

 蜘蛛の糸ではなく、エレベーターだった。

 乗るだけで勝利確定の、激熱演出だ。


 賊が一人減っていて、残っていたのが大男。

 しかも武器も持っていないというおまけ付。

 勝利へのお膳立ては整い過ぎていた。


 

「くそが! ついさっきまでガタガタ震えて怯えてたゴミどもが、調子にのりやがって。弱者は弱者らしく地べたを這いずり回ってればいいんだよお!」


 巨体から発せられる虚勢に、誰一人として反応しない。

 大男が知っている、輝きを失った瞳で支配されるだけの村人はもういない。

 

 気圧された大男は、それを振り払うかのように突進の予備動作に入る。

 拳を握り直し、前傾。カタパルトにセットするかの如く、片足を後ろに引く。



 俺は知っている。もし子供たちを無事に助けられたとしても、歓喜と悲劇が同時にくることを。村人たちも、たぶんわかっている。


 村から引き離された子供たちが、全員残っているはずがない。

 

 人質をとって食料を献上させる。賊たちは食べることには困らなくても利益が出ない。

 当然、すでに奴隷として売られている子もいる。


 人質の役目を果たすには、一家族に対して一人の子供がいれば十分だ。

 

 だから、この闘いにハッピーエンドは存在しない。

 よくてビターエンドってところだ。



 村の人たちは何か悪いことをしたのだろうか。

 何かの因果に対しての応報なのだろうか。

 村のことについては何も知らないので、何かがあったのかもしれない。

 

 では子供たちはどうだ。

 子供たちに罪などあろうはずもない。

 

 不幸なんてものは運だ。

 災害も、犯罪も、被害に遭うのは運が悪かったのだ。


 被害に遭っている人を見て「かわいそう」って言う人間に虫唾が走る。

 これを口にする人間は大抵何もしていない。

 犯罪被害者のため、犯罪防止のために何かしたのか。被災地にボランティアに行って、自分の生活を切り詰めて募金をしたのか。


 その「かわいそう」は、「自分は無事だけど、あなたは運が悪くて『かわいそう』」を意味しているのではないのか。その中に「私は無事でよかった」をはらんでいるのではないのか。


 だから俺は「かわいそう」を口にしない。

 そんな言葉を口にする暇があるなら行動する。



 大男と闘って村人が死んでしまったとする。それは運が悪い。

 助けられた中にその村人の子供がいたとする。助かったが親は死んだ。

 それも運が悪い。

 運が悪い。

 運が悪い。

 運が悪い。

 ……。


 


 


 ――よかったな、俺がいて! 子供たちは運がよかった!

 「かわいそう」って言われる子供が何人か減る!



 発射した瞬間の大男の片足に飛びつく。

 もう動かないと思っていた体も、最後だと思えば意外と動くもんだ。


 俺に対する警戒をまったくしていなかった大男は、予期せぬ抵抗にバランスを崩して倒れ込む。いくらパワー自慢でも、不意に成人男性の全体重がしがみついたら転んでくれる。


 勢いが死んでいない大男は、地面に前面を擦りつけてしばらく滑る。俺という重りを足に携えたまま。



「かかれーーーーー!」


 天どころか、太陽系の端まで届きそうな号令が大気を揺らす。

 

 小屋の前にいた戦士たちが一斉に駆け出す。

 号令に感化されたのか、それぞれが思い思いの雄叫びを上げている。


「おい! 離せよ、カスがっ!」


 もう一方の足で躊躇なく踏みつぶしてくる。

 迫りくる村人に焦る気持ちが、腕を使うという選択肢を隠しているようだ。


 引き剝がされないように、一層力を込める。

 

 ――意識がある限り絶対に離さん! もうすでに全身ボロボロで痛いのかどうかもわからん!

 つまり、無敵!


 垂らされた蜘蛛の糸にしがみつくように、全身を使って絡まる。

 この足こそが、村人が無傷で勝利するための蜘蛛の糸なのだから。



 数えていないので、もう何発蹴られたのかはわからない。

 無敵状態にも制限時間があるんだぞ、などと思っていた時、目を瞑っている俺の耳にようやく一発目の鈍い音が届く。

 一発目を皮切りに、どんどんと音は増えていく。

 音が積み重なるほどに、大男の足から力が抜けていくのがわかる。



「やめ! もういい! 死んじまうよ!」


 もう大男の足は意思を失っていた。


「殺すんじゃない! 『死』なんて慈悲を与えちゃいけないよ!」


 今気づいたが、指示を出しているのはハンナだった。

 その口調は、本心は別のところにあるような苦々しいものだった。

 

 村人たちは荒い息を整えながら、少しずつ集団から個体へと変容していく。

 勝鬨かちどきは上がらない。

 当然だ。

 この男を倒したからといって、なにひとつ勝ってなどいないのだから。

 失わなくてもいいものを、失い続けてきたのだから。



 一方、俺は、汚い抱き枕を抱えたままだ。

 正真正銘、もう指一本動かせない。

 離したいけど、離すことすらできない。

 死後硬直ならぬ、死前硬直が始まったのかもしれない。


 頭にもやがかかってきて、意識が薄れてきたのを感じる。

 

 今日だけで何回目だ? ミストに殴られた時、水に一服盛られた時……、なんだ、まだ三回目か。許容範囲、許容範囲。仏だって三回目まではセーフなんだし。



 俺の脳が最後の仕事とばかりに、忘れていた重大事項を思い出す。


「ハンナさあん! ハンナざんはい゛ますかあ゛?」


 体は動かない。喉も何かが詰まっているのか、声が響かない。

 

 足音がする。

 小走りで誰かが近づいてくる。

 もう俺の目は、ほとんど機能していない。


「いるよ! ここにいる!」


 顔はわからないが、確かに彼女だ。

 俺が唯一名前を知っている村人だ。


「あの……、あっちの木の陰に……、ミス……、あの子が寝てます。……目を……覚ましたら、……パンを……たくさん食べさせて……、あげてください」


 やり遂げた俺は満足して眠りについた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ