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女神の異世界転生案内所 〜二度目の人生はいかがされますか〜

作者: たまユウ

テンポ感早めです!


「……はぁ。本日も無事、業務終了ですね、ミカエル」



「はい。お疲れ様です、アリア様」



 真っ白で、どこまでも続く『転生者選定の間』。

  神々しいんだか、ただの手抜きなんだか分からないこの空間で、私こと女神アリアは、一日の業務(という名の面談)を終え、ふかふかのソファに深く沈み込んだ。



 私の仕事は、異世界転生アドバイザー。



 地球と呼ばれる世界で、様々な理由によりその一生を終えた魂をここに呼び出し、次の人生を送るのにピッタリな異世界へと送り出す、いわば地球風で言うところの『異世界専門のハローワーク』の職員だ。



「お疲れ様です、じゃないですよ。アリア様、本日の転生希望者リスト、承認印がまだです」



「えー! あとででいいじゃん! ミカエル押しといてよ」



「なりません。貴女の承認なしでは、正式な転生プロセスに移行できないのです」



 私の補佐役である堅物天使ミカエルが、銀縁メガネの奥から冷たい視線を送ってくる。 彼がいなかったら、この部署はとっくに破綻しているだろう。いつもお世話になっております。


「だってさー。最近来る人、みーんな『チート能力で無双したい』とか『美少女ハーレム作りたい』ばっかりなんだもん。ワンパターンで飽きちゃったよ」



「人にはそれぞれの望みがあるものです。アリア様のように『面白そうだから』という理由で“物理チート(筋力9999)”を“乙女ゲームの世界”に送り込む方がよほど問題です」



「うっ……あれは、悪役令嬢を片手で投げ飛ばす主人公とか、新しいかなって……」



「あちらの世界のパワーバランスが崩壊しかけました。始末書ものです」



 ミカエルの正論が痛い。



 そう、私、女神アリアは、ちょっとおちゃらけていて、どこか抜けていると評判の女神なのである。



ピンポーン♪



「おっと」



「……残業ですね、アリア様」



 間の抜けたチャイムの音(私が設定した)と共に、空間の中央がふわりと光り、一人の男性の魂が姿を現した。



「……あれ? 私……は?」



 そこに立っていたのは、くたびれたスーツを着た、40代半ばくらいの男性。クマが深く刻まれた目元、薄くなった頭頂部。絵に描いたような「お疲れのサラリーマン」だ。



「はじめまして、山田太郎さん」



 私はソファからすくっと立ち上がり、彼に向き直る。ここからは、女神様のお仕事モードだ。



「私は担当の女神アリアと申します。……落ち着いて聞いてください。貴方は、先ほど、地球での生を終えられました」



「え……あ……」



 山田さんは、まだ状況が飲み込めていない様子でキョロキョロしている。無理もない。



「えーっと、山田太郎さん、45歳。株式会社ブラック・アンド・ブラックの営業課長……っと。死因は……過労、ですね。3徹明けの会議中に、尊厳溢れる土下座のポーズのまま、魂が……」



「ああ……そうだった……。あのクソ上司……! 会議資料、あと5ページだったのに……!」



 山田さんは、今際(いまわ)(きわ)を思い出したのか、ガックリと膝から崩れ落ちた。


 私はそっと彼の隣にしゃがみ込む。



「……本当にお疲れ様でした。貴方のその勤勉な魂は、次の世界で報われる権利を獲得いたしました。もう、あんな風に働く必要はないんですよ」



「……あ……ああ……」



 私の言葉に、山田さんの目から静かに涙がこぼれた。 ミカエルがそっとハンカチを差し出している。



 しばらくして、少し落ち着きを取り戻した山田さんが顔を上げた。



「あの……それで、私はどうなるんでしょうか?」



「はい! つきましては、第二の人生、どんな世界でどんなふうに過ごしたいか、ご希望はありますか?」



 よし、ここからは私の腕の見せ所だ!



「……もう、今までみたいに徹夜して働きたくないです……」



「うんうん、わかります」



「……のんびり、スローライフがしたいです……」



「はいはい、王道ですね!」



「……できれば、可愛い女の子に『お帰りなさい』とか言われて、縁側でお茶とかすすって……」



「欲望に忠実! いいですね!」



 私はテンション高くカタログをめくった。



「それなら、こちらはいかがでしょう! 世界A-42、通称『剣と魔法のフロンティア』! 自然豊かで空気も美味しい! 確かに魔王軍がちょっと攻めてきたり、ゴブリンが村を襲ったりしますけど、その分、冒険者ギルドから高額な討伐報酬が……」



「アリア様」



 ミカエルが、絶対零度の声で私の言葉を遮った。


「山田様のご希望は『スローライフ』です。なぜ過労死された方を、即戦力として戦場に送り込もうとするのですか」



「えー、だって、スローライフって言っても、お金は必要じゃない? ほら、山田さん、営業課長だったしギルドの運営とか村の防衛組織のマネジメントとか、向いてるかなって!」



「それは『危険の伴う仕事』です。スローライフではありません」



「ええ~、やりがい搾取……(小声)」



 山田さんは私たちのやり取りを見て、青ざめた顔でブルブル震えている。



「ひぃっ! ご、ゴブリン!? 魔王軍!? い、嫌です! 私、パソコンは打てますけど、剣なんて握ったこともありません!」



「あ、大丈夫ですよ! 転生特典で『剣聖』スキル、サービスしときますから!」



「そういう問題じゃありません!」



「……はぁ」



 ミカエルが深いため息をつき、山田さんの前に進み出た。



「山田様、失礼いたしました。こちらの手違いです。アリア様は無視していただいて結構です」



「え、私、担当女神なんですけど!?」



 ミカエルは私を華麗にスルーし、別のカタログを山田さんに見せた。



「山田様には、こちらがよろしいかと。世界C-115、通称『豊穣のアグリカルチャー』。戦闘や魔法といった概念が一切存在しない、農業特化型の世界です。四季折々の豊かな自然の中で、動物たちと触れ合いながら、穏やかに暮らすことができます」



「の、農業……」



「はい。貴方の魂には『土いじりの才能』が眠っていると記録されています。きっと、素晴らしい野菜や果物を育てられますよ。もちろん、その世界には『自動で農作業をしてくれるゴーレム』を召喚できるスキルを付与いたしますので、ご自身が前のように徹夜するなど体を酷使して働く必要はありません」



「ゴーレム……!」



 山田さんの目が、死んだ魚のような目から、生き生きとした輝きを取り戻した。



「それだ! 私が求めていたスローライフはそれです! 適度に働いて美味しい作物ができて、可愛い村娘が『今日の収穫、すごいですね!』とか言ってくれる! それにします!」



「かしこまりました。『世話焼きの村娘』が幼馴染として生まれてくる村にしておきましょう」



「ミカエルさん……! 貴方こそが本当の神だ……!」



 感涙にむせぶ山田さん。

  私は、その後ろでソファにふて寝していた。


「……いいもん。ミカエルのバカ。人の楽しみを奪うなんて。私だって、ちゃんと考えて……」



「アリア様」



「な、なによう」



「次の転生者様がいらっしゃいます。ソファから起きてください」



「……はーい」



 笑顔に溢れた山田さんが光の柱に包まれて転送されていくのと入れ違いで、またチャイムが鳴った。



  まったく、神様も楽じゃないんだから。



ピンポーン♪



 次に現れたのは、制服姿の女子高生だった。 ツインテールがよく似合う、元気いっぱいな感じの子だ。



「え!? え!? どこここ!? え、もしかして、これって噂の転生!?私、死んだの!?」



 すごいテンションだ。 私は苦笑いしながら、彼女に向き直った。



「はい、その通りです。鈴木花子さん。ようこそ、『異世界転生ハローワーク』へ」



「マジで!? やったー! ついに私も異世界転生!?」



 まさかのガッツポーズ。



「え、喜んでる? 死んじゃったんだよ?」



「いいんです! どうせ私の人生、平凡でつまんなかったし! それより、女神様ですか!? うわー、本物! 超カワイイ!」



「えへへ、ありがと~! キミもカワイイね!」



 きゃっきゃと盛り上がる私と女子高生。ミカエルは、こめかみを押さえて「頭が痛い……」と呟いている。



「えーっと、お名前は、鈴木花子さん、17歳。死因は……、横断歩道で飛び出してきた小さな子どもを咄嗟に抱きかかえて助けようとして、自分が車にはねられてしまった……と。」



「あ、そうそう!! あの子どもは大丈夫だった!?」



「ええ、貴方のおかげで小さい子どもは無事だったわ。自分よりも他人を優先できる貴方のその優しい性格に対して、異世界転生という新たな人生のプレゼントをさせていただきます」



「はぁ〜、子どもちゃん無事でほんとによかったぁ。よし、そしたら私も前の世界に心残りなんてなし!!異世界転生できるなんて最高じゃん!女神様!異世界転生の説明早く早く!」



 とても優しい子だけど切り替え早いわね…。うん、まあ、本人が幸せそうだから良しとしよう。



「わかったわ。そしたら花子ちゃん! どんな世界に行きたいとか、希望はある?」



「あります! めっちゃあります!」



 花子ちゃんは、カバン(魂にカバンが付属してるのも珍しい)から、分厚い手書きのノートを取り出した。



 表紙には『私の考えた最強の転生ライフ☆』と書いてある。



「私、悪役令嬢になりたいんです!」



「お、いいねいいね! 定番!」



「それで、破滅フラグは絶対回避して!」



「うんうん」



「断罪イベントでは、逆に王子様をぎゃふんと言わせて!」



「言わせちゃえ!」



「最終的には、王子様も、騎士団長も、魔術師も、なんなら魔王様まで私にメロメロになって、逆ハーレムを築きたいんです!」



「最高じゃん!」



 私と花子ちゃんは、ハイタッチを交わした。



「……はぁ。アリア様、楽しんでいるところ申し訳ありませんが、業務です。速やかに世界選定を」



「わかってるってば。もー、ミカエルはノリが悪いなあ」


 私はカタログをパラパラとめくり、とっておきの一冊を花子ちゃんに見せた。



「じゃーん! それなら、世界B-22、通称『プリンセス・コンフリクト ~薔薇の断罪台~』はいかがでしょう!」



「え!? まさか、それって……!」



「そう! 花子ちゃんがやり込んでた、あの乙女ゲームの世界だよ!」



「きゃーーーー! 神! 女神様、マジ神!」



「もちろん、転生先は一番人気の悪役令嬢、イザベラ・フォン・ナイトシェイドで設定しとくね! 破滅フラグ(物理)もてんこ盛り、攻略対象のイケメンも勢揃いだよ!」



「やばい! テンション上がってきた! 待ってろよ私の逆ハーレム!!」



「……ちなみに、鈴木様。その世界は現在、転生者様の人気が集中しておりまして、バグ修正が追いついておりません。シナリオが原作通りに進まなかったり、攻略対象が予期せぬ行動(例:突然、筋トレに目覚める)に出

たりする可能性がありますが、よろしいですね?」



  ミカエルが、淡々と注意事項を読み上げる。



「え、バグ? ま、いっか! むしろ燃える! 私の力で、全員まとめて幸せにしてやんよ!」



「その意気やよし! 花子の優しさで皆んなを虜にしちゃえ」



「はい、女神様! 行ってきまーす!」



 嵐のように現れ、嵐のように去っていった花子ちゃん。 彼女が消えた光の柱を見送りながら、私はミカエルの肘をつついた。



「ねえねえ、ミカエル。あの子に付与するスキル、こっそり『魅了(ただしイケメン以外にも有効)』にしといてもいい?」



「ダメです。ただでさえカオスな世界が、さらに混沌と化します」



「ちぇー。ケチ」



 まったく、堅物なんだから。

 神様だって、たまには遊びたいのだ。




―・―・―




 その後も、何人かのお客様(転生者)を見送った。


 親から虐待を受け続けて、最期は妹を守って死んでしまった高校生のお兄さんには、「とにかく最強のチートを」と願っていたので、『武神SSS』のスキルを。力で虐げられている人たちを助けたいと言っていた。


 海外を飛び回り貧困の子どもたちを助けて回っていたOLさんは、「種族の差別の無い世界で可愛いモフモフに囲まれたい」と願っていたので動物たちが人間の言葉を話す優しいファンタジー世界を。



 次から次へと来る転生者を捌き、さすがの私もちょっとお疲れモードになってきた頃。 本日最後のお客様がやってきた。



ピンポーン♪



 現れたのは、穏やかな笑みを浮かべた、白髪のおじいさんだった。 腰は曲がっているけれど、その魂は、澄んだ水のように静かで、綺麗だった。



「……ほほう。ここが、噂に聞く『あの世』というやつですかな?」



  おじいさんは、物怖じする様子もなく、私とミカエルににこやかに会釈した。



「ようこそ。田中権蔵さん。お待ちしておりました」



  私は背筋を伸ばし、彼を丁寧にお迎えする。



「えーっと、88歳。死因は……老衰。眠るように、大往生ですね。生前は多額の寄付を行い、貧困の方への支援や介護施設や児童館等の施設の建て替えに尽力。多くの人達ためにその人生を捧げたということですね」



「いえいえ、そんな大層なことはしておりません。私は、私のできることをしたまでです。最期は家族と、孫と、ひ孫にまで看取られて。……思い残すことは、何もありませんわい」



 そう言って笑う権蔵さん。



  今までの転生者とは、明らかに空気が違う。未練や後悔、あるいは過剰な期待といった「濁り」が、彼には一切なかった。



「権蔵さんは、本当に素晴らしい人生を送られたんですね」



  私が素直にそう言うと、権蔵さんは「いやいや、大したことありませんよ」と首を振った。



「それで、権蔵さん。これから第二の人生を送っていただくわけですが……ご希望はありますか? 例えば、もう一度若返って、青春をやり直すとか?」



「ふむ……青春、ですか。それも楽しそうですな」



 権蔵さんは、少し考え込むように天井を見上げた。 真っ白で何もない天井だ。



「……女神様。ひとつ、叶わぬとわかっておりますが、お願いしてもよろしいですかな?」



「はい、なんでしょう?」



「わしには、60年連れ添った妻がおりましてな。……フミ、というんですが。10年前に、わしより先に逝ってしまいまして」



 権蔵さんの目が、ふっと遠くを見る目になった。



「もし、もし叶うものなら……もう一度、あのフミに……会いたいですな」



 権蔵さんの言葉に、私は胸がキュッとなった。 いつもはおちゃらけている私だけど、こういうのには弱い。



「……権蔵さん」



 私は、そっと彼の前に歩み寄った。



「残念ながら……私たちのシステムでは、特定の魂と、特定のタイミングで再会させることは、原則として禁止されているんです」



「……そうですか。やはり、叶わぬ夢でしたな」



 権蔵さんは、寂しそうに笑った。

 その笑顔が、私の心をチクチクと刺す。



 ダメだ。

 こんなの、女神様の名が廃る。



  私はミカエルの方を振り返った。ミカエルは、黙って私を見つめ返してきた。 その銀縁メガネの奥の瞳から葛藤と期待が見てとれた。



 まったく、この堅物天使は。

 たまには素直に「助けてあげましょう」とか言えないのかしら。



「……ミカエル、ちょっと『フミ』さんの転生記録、調べてくれる?」



「……かしこまりました」



 ミカエルは、一瞬だけ口角を上げると、すぐに無表情に戻って空中にウィンドウ(もちろん神力製)を展開した。



「えーっと、田中フミ様。10年前に転生済み……転生先は、世界G-333、通称『風と音楽のシンフォニア』。……ああ、あそこですか」



「シンフォニア? どんな世界なの?」



「はい。魔法や戦闘は存在せず、人々が“歌”や“楽器”に魔力を乗せて、自然と共生する、非常に穏やかで美しい世界です。フミ様は生前、コーラスを趣味にされており

ましたので、その適性が認められたのでしょう」



「そっか……フミは、今もそこで歌ってるんだ……」



 権蔵さんは、目を閉じて、懐かしむように呟いた。



「あいつは、本当に歌が好きでのう。わしが仕事から帰ると、いつも鼻歌まじりに夕飯を作ってくれたもんじゃ……」



 権蔵さんの脳裏に、フミさんの思い出が溢れているのが、私にも伝わってくる。 決めた。



「権蔵さん!」



 私は、権蔵さんのシワシワの手を、両手でぎゅっと握った。



「フミさん本人に会わせることはできなくても、フミさんが愛した世界に、権蔵さんを連れて行ってあげることはできます!」



「え……?」



「その『風と音楽のシンフォニア』に、権蔵さんも転生しませんか? そこに行けば、フミさんが愛した景色や、フミさんが口ずさんだかもしれないメロディーが、たくさん溢れているはずです」



「……」



「フミさんが見たものを権蔵さんも見て、フミさんが感じた風を権蔵さんも感じる。……それって、もう一度フミさんに会えたことと、同じことになりませんか?」



 権蔵さんの目が、ゆっくりと見開かれていく。

 その潤んだ瞳に、私の顔が映っていた。



「……女神、様……」



 権蔵さんは、私の手を握り返してきた。その力は、見た目によらず、とても強かった。



「……ありがとうございます。……わし、そこへ行きます。フミが愛した世界で……もう一度、生きてみます」



 権蔵さんの頬を涙が伝う。

 でも、その顔は今までに見た誰よりも幸せそうだった。



「決まりですね! じゃあ、スキルはどうしようかなあ。権蔵さん、何かやりたい楽器とかあります?」



「わしは、ハーモニカが得意でしてな。フミの歌に合わせて、よく吹いたもんじゃ」



「素敵! じゃあ、『神級ハーモニカ奏者』のスキルをプレゼントします! きっと、権蔵さんの音色が、この世界を、そしてフミさんの魂を、優しく包んでくれますよ!」



「……アリア様。貴女は、やはり、最高の女神様ですな」


「えへへ、それほどでも~」



 光の柱が、権蔵さんを優しく包み込んでいく。 権蔵さんは、最後まで深々と頭を下げて、消えていった。




―・―・―




「……ふう。今日もお仕事、頑張ったなあ、私」



 最後のお客様を見送り、私はソファにどさりと倒れ込んだ。 ミカエルが、温かいハーブティーを淹れてくれる。こういうところ、気が利くんだよね。



「お疲れ様です、アリア様」



「ミカエルもね。……ねえ、ミカエル」



「なんでしょう」



「権蔵さん、フミさんが愛した世界で、幸せになれるかな?」



「……なれますよ。貴女が、そう願ったのですから」



  ミカエルは、珍しく、ふっと笑った。



「女神の仕事は、ただ転生者を右から左へ流すことではありません。その魂が、次の世界で最も輝けるよう、背中を押してあげること……。貴女は、それを誰よりも理解している」



「……なにそれ、急に褒めたりして。キモチワルイ」



「本心ですよ」



「……ありがと」



 たまにデレる部下を持つのも、悪くない。




 こうして、私たちの仕事は続いていく。



 チートを望む者、平穏を望む者、そして、愛する人の面影を追う者。 色んな人生が、この真っ白な部屋を通り過ぎていく。



 それは、ちょっと退屈で、でも、とっても尊い仕事。



 ……なんて、たまには真面目なことを考えてみたり。



「さーて! 今日の業務は終了! ご飯食べに行こ、ミカエル! 今日は焼肉の気分!」



「アリア様、魂は食事を必要としません。それに、まだ報告書が……」



「いいからいいから!」



 私がミカエルの腕を引っ張って、事務所のドアを開けようとした、その時。



ピンポーン♪



「げっ、まだ来るの!?」



「残業はまだ終わりそうにないですね、アリア様」



 空間に現れたのは青い作業着を着た、強面のトラック運転手だった。



「……あれ? 俺……さっき、ガキを避けようとして……。って、うわ! 女神様!? もしかして、俺も異世界転生キターーー!?」



「あ、貴方は……! (いつも転生者を生み出してくれてる、ある意味、神様サイドの人間……地球の二次創作の異世界転生系って高確率でトラックに轢かれてるのよね)」



「え? 俺のこと知ってるんですか??」



 どうやら、今夜はまだまだ長くなりそうだ。 私はミカエルと顔を見合わせ、深いため息をついた。



 ーーそれでも。



 新しい人生を示すことができる女神のお仕事を、私はなんだかんだ気に入っている。







ここまでお読みいただきありがとうございます!


異世界転生した後のお話はよくあると思うのですが、異世界転生を案内する女神にフォーカスがあたっているお話をあまり見たことがないので書いてみました!


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よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ちょっぴり残念な女神アリア、で思い出したのはゲーム「ヴィー〇ス&ブレイ〇ス」ですね。 面白かったなぁ、本編も良いけどクロニクルも好きだった。 乙ゲーも嗜みますが、個人的に逆ハーはあまり好きやないんで、…
 時々暴走しかける女神と天使ミカエルのコンビが良いですね。悪役令嬢志望の花子ちゃんが転生した乙女ゲームの世界って、もしかして物理チート君が送り込まれた世界なのでしょうか。  転生先が何処もかしこも「魔…
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