first encounter
能力を駆使して空を飛んでいたらとんでもない場面に出くわしてしまいました。
私もこの街に来たのは初めてなので詳しくは知りませんが、貴族の屋敷と思われる場所から獣人の女の子が逃げていくではありませんか。
それも扉からではなく、2階の窓から。
獣人でなければ危険な高さ。
それに外見的特徴からまだ10代前半なのが伺えます。まだ体が育ちきってない体で無茶をしますね⋯⋯。
必死な表情で逃げいく様子が気になり、後を付けること10分。獣人の少女が、ゴロツキのような服装の男に捕まったところで彼女が奴隷である事が判明しました。
異世界作品でよくある話ではあるのですが、この世界には奴隷制度とやらがありました。はい、過去の話です。
現在は多くの国で奴隷を禁止しているのですが、一部の国や権力者たちが金にものを言わせて奴隷を所持しているようですね。
彼女は運が悪い事にその一部の国で捕まってしまったようだ。
さて、どうしましょうか?
非常に悩ましい。別に助ける義理もないですし、スルーしても彼女が屋敷に連れ戻されるだけで終わります。逃げた事による折檻はあるでしょうけど、殺されはしないでしょう。
逆に助けるメリットはありますか?
見たところ獣人以外に特徴と言える特徴は⋯⋯。
「へぇ⋯⋯なるほど、実に面白い」
能力を駆使して彼女の記憶を読む事で面白い事実を知ることが出来ました。
上辺部分を読んで汚いおっさんの陰部がドアップになった時は吐き気がしましたが、彼女と姉のやり取りを聞いているとこの姉妹が特殊な出生がある事が分かります。
「国を追われた王族⋯⋯逃げた先で奴隷狩りに捕まってしまった、と」
獣人の国の事情は私も詳しくは知りませんが、家臣たちが王権簒奪を企み彼女の親たちはそれを阻止する事が出来なかった。
国王と王妃である両親と次期国王である兄は殺害され、叔父の手引きによって命からがら逃げ落ちる事が出来た。
されど、運の悪い事に逃げた先で奴隷狩りに捕まり⋯⋯今に至ると。これが5年ほど前に起きた出来事のようですが、私も知らなかったですね。
しかし、私の記憶違いでしょうか?
獣人の国の現国王の名前が彼女たちの叔父の名前と一緒⋯⋯おや? なるほどなるほど。私が知り得ていないだけで陰謀は動いていたりする訳ですか。
なら、彼女たちを現国王にぶつけるのはどうでしょうか? 彼女たちの立ち位置は主人公、もしくはヒロインポジションとも言えます。
このまま奴隷のまま終わるなんてもったいないない!貴女方にはポテンシャルがあるんです!
『まさか、叔父が黒幕だったなんて!』とか真相を聞いて驚いて欲しい。そんな一場面が見たくして仕方ない。
なので、私は彼女たちを助ける事にしました。ただ、私はヒーローでもなんでもないただの裏方。直接的には助けはしません。
現状を変えるのは当人の意思。彼女たちに前へと進む覚悟がなければ意味がない。
私が見たくて仕方ない光景も彼女たちが現状に甘んじていたら見れないのです!奴隷の立場から抜け出し、そして真相に辿り着きなさい!
さて、介入するとしましょうか。
神ちゃんから貰った能力───『能力作成スキル』を発動する。能力とスキルが同じ意味で重複している気がしますけど、神ちゃんが名付け親なのでスルー推奨です!
私の能力は名前の通り能力を自由自在に作れるというものです。作った能力は自分で使う事も他者に渡す事も可能。
こんな能力を私に渡して大丈夫なのかと心配になりましたが、何かあったら神ちゃんが対応してくれるそうなので気にせず使いましょう!
私は現在、『空を飛ぶ能力』の『透明になる能力』の二つを使用しています。
これに加えて『時を止める能力』と『怪しい人物に変化する能力』を新たなに作り、そのまま発動。
ゴロツキが少女を放り投げ、歩み寄っている途中で固まりましたね。このゴロツキだけではありません。私と、私が指定したモノ以外の時が止まり固まっている筈です。
なので、今この場で動けるのは私と獣人の少女だけ。
「力が欲しいですか?」
雰囲気を出す為に『テレパシー』の能力を新たに作り、彼女の脳内に直接話しかける。
不意に頭に過ぎった『ファミチキください』は雰囲気をぶち壊すので、言わないようにします。
「運命を受け入れますか?それとも抗いますか?」
頭の中に響く私の声に戸惑っているのがよく分かります。なんだが、楽しいですねこれ。
「貴女が抗いたい言うのならば、力を与えましょう。今の立場から逃れる事が出来る力を。大切な者を護る力を」
嘘はついていませんよ。貴女たち姉妹が望むのなら能力を授けます。使い方次第では現状を変える事ができるでしょう。
奴隷の立場から抜け出し、新たな道を辿る。できる事なら叔父の元までたどり着いて欲しい。
「貴女の想いを私に聞かせてください。さすれば私はその想いに応えましょう」
ここで心が折れて力なんていらない等と言われればそれで終わりです。主人公やそのヒロインポジションに収まるのであればここで輝きを見せてください。
そうでなければ貴女たちは真相に辿り着けない。
「力が欲しい!奴隷から逃れられる力が!姉さまを護れる力が!!」
───ボクたちを助けて!!!
そんな幻聴まで聞こえるようでした。合格です。満点と言っていいでしょう。
「素晴らしい!!」
『透明になる能力』を解いて、拍手しながら登場するという如何にもな大物ムーブをかましながら、少女の元へと歩み寄ります。
能力によって今の私は怪しさ満載ですが、それでも逃げる様子はありませんでした。
いいですね。先程まで怯えていたのが嘘のようだ。彼女たちならきっといい活躍をしてくれるに違いない。
「私が助けてあげますよ。だからその想いの限り、抗ってみせなさい」
現状を打破する能力を貴女たち姉妹に授けます。奴隷の立場から抜け出し、黒幕まで辿り着いてみせなさい。私はその様子を観客として見させて貰います。
あ!ちなみにですが、叔父の方にも能力を与えておきますね。私、黒幕の方が好きなのでちゃんと強化しておきます。
姉妹で手を合わせて頑張ってくださいね?
あくまでも私は観客ですので、そんな崇拝するような目で私を見ないでください。お願いします。