表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

追放されし者たちの話

盾兵は追放された。なぜなら彼の正体は〇屋だったから。

作者: J坊

お盆前に書けて良かったです。

「盾使い、お前を追放する」


 魔王討伐のために旅をする、ある勇者パーティー。

 そのリーダーである勇者が、盾使いにそう言い放った。


「そ、そんな、どうして!?」

「おい、いきなりなにを言い出すんだよ⁉」

「悪い冗談はやめてください‼」

「お前はなにを考えているんだ⁉」


 勇者の突然の発言に、当事者である盾使いはもちろん、メンバーである武道家・聖女・賢者も抗議の声を上げる。

 しかし、勇者は「もう、決まったことなんだ」と一蹴。

「お前をこれ以上、このパーティーに置くわけにはいかない」と聞く耳を持たない。


「ふざけるな勇者‼ お前は仲間をなんだと思っているんだ⁉」

「盾使いさんがどれだけ、私たちを助けてくださったと思ってるんですか⁉」

「我らの防御の要をパーティーから外すとは……それが、どれだけの損害になるか考えていないのか?」


 勇者から盾使いを庇う仲間たち。

 だが、勇者は退かなかった。なぜなら、それでは盾使いのためにならないからだ。


「……みんなの気持ちは分かった。しかし、このまま魔王城へ行けば盾使いは確実に命を落とすだろう」

「なん……だと……⁉」

「気がついていないと思ったか? 僕を舐めるなよ?」

「ど、どうしたんだ、二人とも!? なんの話だ⁉」


 勇者の言葉に動揺する盾使い。

 のっぴきならない理由があると察した仲間たちが尋ねると、勇者は真実を語り始めた。


「みんなも薄々気がついているだろうと思うが、実は盾使いは僕たちに重要な隠し事をしているんだ」

「な、なに⁉」

「そうなんですか⁉」

「いったいなにを隠しているというんだ⁉」

「盾使いの盾をよく見て欲しい」


 そう言って、勇者が盾使いの持っている“盾”を指す。

 盾と言うにはあまりも青々とし、い草の臭いが香り、和の雰囲気を感じさせる盾を――




「これ、どう見ても畳じゃね?」

『ッッッッッ⁉』


 勇者の指摘に仲間たちの間に電流が走った。


「いや、普通気づくよ?」


 衝撃の事実を告げられたかのようなリアクションに、思わずツッコミが入った。

 そう、なんてことはない。盾使いの象徴とも言える盾は盾ではなく、単なる畳だったのだ。


「そんなバカな……」

「嘘、ですよね?」

「冗談だと言ってくれ」

「本当にそうだよ」


 ショックを受ける仲間たち(勇者以外の)を前に、盾使いは観念したのか、絞り出すように事実を告げた。


「すまない、みんな……俺は、実は盾使いじゃないんだ。本当は畳屋なんだ……ッ‼」

『ッッッッッ‼』

「知ってた」


 今まで全員についていた嘘。

 それを暴露し、再度ショックを受ける一同(勇者以外)


「そんな……この俺の眼を以てしても見抜けなかったなんて……」

「節穴なだけだろう?」

「そんな盾使いさんが畳屋さんだったなんて……言われてみれば確かに、その盾、寝心地が良かったり、盾にしては緑っぽいなと思っていたり、どことなくわびさびを感じたけれども……‼」

「そこまで違和感を感じてるのに、なぜ気づかない?」

「賢者である僕の眼を欺くとは……畳屋! 恐ろしい子‼」

「賢者だったら早々に気づいて欲しかったなぁ」


 お前ら全員眼科に行け。いや、本当に。逆になんで今まで気づかなかった?

 ちなみに勇者は国王から魔王討伐を命じられた時から気づいていた。

 第一印象から「いや、なんでこの人、畳なんか装備してんの?」とツッコミを入れたくらいだ。

 で、その理由を出立直後に尋ねようとしたのだが……


「あのさキミ、手に持っているのって、それ盾じゃない――」

「おぉ‼ お前、盾使いなのか⁉ 俺は武道家‼ 前衛同志仲よくしようぜッ‼」

「私は聖女です。けがをした時はいつでも言ってください!」

「僕は賢者だ。後方支援は任せろ」

「――あぁ、よろしく頼む‼」

「……ま、いいか」


 ……和気藹々と指摘できる空気じゃなかったので、そのままスルーしていた。

 その後も、指摘する機会は何度かあったものの、畳でも敵の攻撃は防げたのでそのままにしてしまっていたのだ。


「くそぉ‼ 盾使い――いや、畳屋ぁ‼ なんで俺たちを騙していた!?」

「武闘家さん‼」

「落ち着け‼」


 盾使い――否、畳屋の胸倉を掴む殴ろうとする武道家を必死に止める聖女と賢者。

 そのテンションは「実は魔王軍のスパイだった」とか、そういう場合の熱量だろうと、勇者も武道家を宥めて引き離す。


「畳屋にもなにか理由があるはずだ‼ そうだろ!?」

「そうですよ‼ それに彼は今まで、身を挺して、私たちを守ってくれたじゃないですか‼」

「それに、気づいて黙っていた勇者にも責任があるだろう‼」

「そもそも、なんで新しい盾を買ってあげないんですか⁉」

「たしかに――‼ テメェ、勇者! ふざけんなよ⁉」

「怒りの矛先が俺に来た」


 畳屋から標的を変更し、勇者に詰め寄る仲間たち。

 いや、だからお前らが気づかないのも悪いんだろう?


「みんな‼ やめてくれ‼」


 その時、畳屋が叫んだ。

 仲間たちが争う光景に胸を痛めた彼は、悲痛な表情で「勇者は悪くない……全部、俺が悪いんだ……」と真実を語り始める。


「……俺が今まで盾使いと偽り、畳で戦ってきたのは、勇者パーティーで戦う盾使いがいなかったからなんだ」

「どういうことだ?」

「この国は今、魔王との戦いの真っ最中だ。国境付近では、常に小競り合いを行っている。そのため、兵士は万年人手不足。その中でも、前線で敵の攻撃を防ぎ、推しとどめる盾兵は特に手が足りない……」


 勇者パーティーを結成したのも、その人材不足を補うためだ。

『勇者』と言う派手な的をぶら下げた、身軽に動ける囮兼暗殺兼遊撃部隊。

 魔王軍の眼をそちらに向け、兵力をわずかでも分散させるというのが勇者パーティーの役割なのだが……


「当日になって、配属予定の盾兵が前線に行ってしまって……仕方なく、義勇兵の中から俺が選ばれたんだ」

「選考理由は?」

「なんか人事部曰く『鍋のふた持った奴よりは面範囲で攻撃防げそう……いや、ほんと、ごめん……』だかららしい……」


 一応、それなりの理由はあったのか。人事部も人手が足りない中、頑張って選考した形跡が見える。


「みんなに黙っていたのは悪かった……けど……みんなとの冒険が楽しくって……言い出せなくって……」


 嗚咽をこらえながら、真実を語る畳屋。

 すると武道家は「そうだったのか……」と滂沱の涙を流しながら畳屋を力強く抱きしめる。


「お前もつらかったんだな……気づいてあげられなくて、ごめんな……」

「武闘家……」

「お前、胸倉掴んでただろ」


 男同士で抱き合う暑苦しい光景に、勇者を冷めた目で見ながら勇者はつぶやいた。




「……で、畳屋を首にする理由なんだが、さっきも言った通り単純に力不足だからだよ」

「ち、力不足だと⁉」

「うん。魔王城が近づくにつれて敵も強くなってきたし、ここら辺が潮時かなって……」

「そんな! 今まではちゃんと戦ってこれたじゃないか‼」

「でも、この間、ドラゴンのブレスでローストされかけたじゃないか」

「…………………………」


 事実を指摘され、畳屋はなにも言えなくなった。

 先日、魔王城への道を塞ぐドラゴンとの戦闘で、畳屋はブレス一発で沈んでしまった。

「ヌア―――――ッ‼」ともろに直撃を喰らい、畳を炭に変えられ、大やけどを負った姿は今でも脳裏に焼きついている。


 ちなみにその前もゴーレムに踏みつぶされ「ヌア―――――ッ‼」ってなった。

 その前もミノタウロスにバックブリーカーをかけられ「ヌア―――――ッ‼」となった。

 その前もローパーに関節技をかけられ「ヌア―――――ッ‼」となった。


「これ以上『ヌア―――――ッ‼』ったら、いい加減、畳屋の身体がもたないんだよ……」

「ぐっ……否定できない。このまま『ヌアーーーーー』り続けたら、命を落とすかもしれん……」

(『ヌアーーーーーる』ってなんだろう?)


 敵の攻撃を防ぐのは盾役の役目。その過程で第三者からはかませ犬っぽく映るのは、まぁ、しょうがない。

 しかしである。畳でさばき切れないほどの攻撃力を持った敵が増えてきた以上、専門家でもないやつに盾役をやらせるのは危険すぎる。

 ぶっちゃけ、これ以上は命の危機だ。


「……むしろ、今までよく畳で防げてきたよな」

「ファイアーボールとか弾き返せていたんですがね……」

「それだけ敵も強くなってきたってことか」


 本当によく頑張ってくれた。普通ファイアーボールだって弾けないだろう。

 っていうか、最近までは中級の火炎魔法も防げていた。マジかと思った。


「幸い国王と相談したら『今、こっちも盾兵不足だから、来てくれたら助かる。炎とかは中華鍋持った奴が頑張るから』と言ってくれたんだ。今後はそちらで頑張ってくれ」


 ちなみに得物が畳であることを教えると「た、畳!? 今まで畳で攻撃防いでたの⁉」とビビってた。

 騎士団長にも伝えると「畳屋? ご冗談を。そのような者がなんの役にたつのですか?」と笑われた。

 なので中級火炎魔法『グランドフレア』(半径約50メートルを火の海に変える魔法)を畳で防いでる動画を見せてみた。

「マジで……?」と驚愕してた。

 他の騎士たちも「嘘だろ……」「ヤベェ……」「冗談だろ……」とガチビビリしていた。

 妥当な反応である。

 中華鍋で防いでたやつも「ま、負けた」と膝をついて負けを認めた。


「でも、ここまで来てお別れなんて‼」

「このまま魔王と戦うことになったら、真っ先に犠牲になるのは畳屋だ。分かってくれ」

「今からでも普通の盾に変えることができないのか⁉」


 賢者の至極当然の質問に、しかし、畳屋は俯いたまま首を横に振る。


「実は影で普通の盾で特訓していたんだが、俺にはうまく扱えなかったんだ」


「一回、隠れてみてたけど、ホントド下手くそだったなぁ……」


 当時の様子を思い出し、二人は遠い目をする。

 通常の盾の練度は、スライムの攻撃でよろけるほど才能がなかった。

 毎日フラフラになるほど練習していたが、上達せず、ついには天から「この防具は装備できません」と幻聴が聞こえたくらいだ。


「逆に畳でなんであんなキレッキレッの防御が出来るのが謎なんだが?」

「やはり俺が畳屋だからか?」

「それはそれでおかしいと思う」


 スキルツリーどうなってんだよ?

 とにもかくにも、彼が勇者パーティーに同行するには力不足なのは明らか。

 仲間はみんな最後まで反対したが結局、命には代えられないということで、追放は受理された。




「畳屋、元気でやってるかなぁ?」

「それは言わない約束ですよ?」

「大丈夫。あいつなら元気にやっているさ」


 畳屋を追放して数か月が経過したある日。

 勇者パーティーは魔王城目前までたどり着いた。


「長かった、実に長かった……」

「色々、あったからな……」


 畳屋を転移魔法で王都に送り届け、送別会を行い、二日酔いで全員寝こみ、うっかり転移魔法で全然、違うところに転移し戻れなくなる。

 そこから魔王城へ、畳屋への退職金と送別会費用、餞別などで減った路銀を稼ぐためと、新しいフォーメーションの確認がてらにクエストをこなしながら向かい、途中で様々なトラブルに巻き込まれたりして、ようやくたどり着いた。


「追放した畳屋のためにも、魔王を倒そう」

『おうっ‼』


 そう言って、勇者パーティーは魔王城へ突入した。

 迫りくる魔族たちを鎧袖一触。四天王もワンパンで倒し、ようやく魔王の待つ玉座の間へ。


「よく来たな、勇者たち。ここが貴様らの墓場に――」

「ホーリーブレイド‼」

「剛破百裂拳‼」

「セイントランス‼」

「インフェルノ・ストライク‼」

「ちょっ‼ 最後まで言わせろや‼ ダーク・シールド‼」


 魔王の台詞を遮り、速攻で戦闘開始。

 勇者と武闘家の猛攻、聖女の補助魔法、賢者の援護。

 それらを必死で防御し、魔王は一瞬の隙をついて反撃する。


「死ねぇ‼ 勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 魔王の手刀が勇者を貫こうとする。

 だが、その時――


「⁉ な、なんだ⁉」

「アイテムボックスからなにか飛び出した!?」


 アイテムボックスから光が放たれ、勇者と魔王の間に割って入り、攻撃を防いだ。


「ヌアァァァァァーーーーー‼ う、腕がぁぁぁぁぁ!?」


 突然現れたそれにより、魔王の腕はへし折れた。

 勇者を守った物体の正体。それは……


「こ、これは!?」

『畳だ‼』

「なぜに!?」


 そこには一枚の大きな畳があった。

 おまけに裏面には畳屋からのメッセージが貼りつけてある。


『危険な状況になった時、キミを守れるような畳を作った。魔王討伐頑張ってくれ。幸運を祈る。 by畳屋』


「畳屋……ッ‼」

「粋な真似しやがって……ッ‼」


 メッセージを読んで、戦意を取り戻す仲間たち。

 畳はそのまま勇者たちの周囲に浮かび、まるで畳屋が戻ってきたかのように並びたつ。


「いや、絵面がおかしい」


 そんな勇者のツッコミを意にも介さず、再び戦闘を開始する。


「おのれ! デスフレア‼」


 魔王の火炎魔法が畳を焼き尽くそうとするも、畳屋の想いが詰まった畳がそれを防ぐ。

 しかし、所詮は畳。いくら頑張っても燃えない訳がない。

 徐々に焦げ跡が広がり、あちらこちらから火が点いてきた。


「甘い‼ その隙が命取りだ‼ 聖女‼」

「喰らいなさい‼ ホーリーランス‼」

「なに⁉ ぐあぁぁぁぁ‼」


 防御役が加わったことで、今まで防壁を張っていた聖女も攻撃に参加。

 四人――そして一枚の集中攻撃が炸裂する。


「今です‼ セイントバインド‼」

「しまった‼」


 聖女の起こした奇跡により、魔王は拘束され、その隙に勇者と武闘家が猛攻を仕掛ける。


『うおおおおお‼ 喰らえ‼』

「ぬぅぅぅぅぅん‼」


 さらに、後方から賢者が魔王と同じ魔法を放つ。


「お返しだ‼ デスフレア‼」

「おのれぇぇぇぇぇ‼」


 勇者と武道家が飛び退き、直撃を喰らう魔王。さらにそこに畳が燃え盛る炎の中に突撃し、魔王に激突。壁まで押し出し、そのまま圧し潰そうとする。


「ぐあああああ⁉」

「これで、とどめだぁぁぁぁぁ‼」


 駆け出した勇者の剣が畳ごと魔王を貫く。

 瞬間、畳は灰となりボロボロと崩れ落ちた。


「畳屋……ありがとうよ……」

「最後までキミは仲間だった……」

「今まで、ありがとうございます……」

「畳屋が死んだっぽく言うな。感謝してるけど」


 彼の残した畳が勝負を分けたことに、ここにはいない仲間へ礼をいい、勇者は剣を鞘へ納めた。

 最早、勝負はついた。魔王の肉体も、崩れ去っていき、戦闘を続行することはできないだろう。

 しかし、魔王は不敵に笑い、衝撃の事実を告げる。


「くくく……これで勝ったと思うな? 今頃、人間の国は、滅んでいるだろう……」

「な、なに⁉ どういうことだ⁉」

「貴様らと同じよ。今頃、大魔王様が別動隊を率いて、王都へ奇襲をかけておる。最早、人類は終わりだ」

「なんだと⁉」

「そんな⁉」


 魔王のバックに黒幕がいたことにも驚いたが、別動隊が奇襲をかけている?

 賢者は残りの魔力を全て注いで、転移魔法を発動。

 勇者たちは王都へと帰還した。だが……


「そんな、王都が‼」

「うそ……でしょう……?」


 すでに王都は火の海であった。

 魔族による略奪が行われたのであろう。建物は倒壊し、辺りには多くの死体が横たわっていた。


「間に合わなかったのか……?」


 勇者たちの表情が絶望に染まる中、追い打ちをかけるように、『奴』は現れた。


「勇者たちよ。遅かったな」

『っ!?』


 背後から強力なプレッシャーをかけられ振り向くと、漆黒の鎧を纏う一人の魔族がそこにいた。


「……お前が大魔王、なのか?」

「いかにも。我こそが大魔王だ」

「――っく‼」


 一瞬の隙を突き、全員で攻撃を放つ。


「ふんっ‼」

『うわぁぁぁぁぁ!?』


 しかし、満身創痍の勇者たちでは敵う訳がなく一撃で倒されてしまった。


「手負いのところ、すまないが、これも我らが魔族の未来のため。ここで消えてもらう」

「くっ、ここまでか……‼」

「さらばだ」


 大魔王の手から黒い炎が放たれ、勇者たちを中心に王都を焼き尽くす。


「⁉」


 ――ハズだった。

 しかし、黒炎が着弾する寸前、巨大な何かが立ちふさがり、勇者たちを守った。


「これは、盾か⁉」

「盾、違うな。これは――」



 突然の乱入に驚く大魔王に、一人の男が立ちはだかる。


「畳だ‼」

「畳!?」


 そう。その男はかつて、勇者パーティーに所属していた畳屋であった。

 そして、魔王の攻撃を防いだのは巨大な畳であった。

 あのあと、途中離脱せざる終えなかった自身のふがいなさに嘆いた畳屋は、一から修行をやり直し、新たな力に目覚め、再び勇者たちの力になるべく合流したのだ。


(――この畳屋、できるっ‼)


 勇者たちを庇うように立ち塞がる畳屋を見て、大魔王は直感で実力を感じ取った。

 そして、畳屋もまた大魔王の実力を察し、臨戦態勢に入る。


「みんな、ここは俺に任せてくれ」

「畳屋、しかし‼」

「勇者、ここは畳屋に任せよう」


 今の自分たちでは足手まといにしかならない。

 勇者もそれが分かっているからこそ、撤退を選択した。

 一時戦線離脱する勇者たちを見送り、畳屋は先制攻撃を放つ。」


「|畳疾走〈たたみがけ〉ッ‼」


 畳屋の掛け声と共に放たれた畳。


「――速いッ‼」


 大魔王がそう思った瞬間には眼前に迫っていた。


「ちっ‼」


 体を捻り、辛うじて躱すも背後に衝撃が走る。


「⁉」


 振り向けば、先ほど回避したはずの畳が、既に戻ってきていたのだ。

 吹き飛ばされる大魔王は、態勢を立て直すも、畳はどこまでも追いかけてくる。


(――亜音速。畳の出せる速度ではない)


 あまりの速度に発生した衝撃波が周囲を破壊していくのを見て、大魔王は思わず戦慄する。その一瞬の隙を突き、畳屋追撃する。


圧殺畳衝撃あわせたたみッ‼」


 突如、地中から出現した畳が、大魔王の逃げ道を防ぎ、さらにもう一枚の畳が、大魔王を挟み圧し潰さんとする。


「なるほど、このための伏線であったか……」

「そうだ。このまま、ケリをつけるぜ‼」


 さらに、何十枚もの畳を召喚し、それらが一気に大魔王へと突撃。

 そのまま、地面を陥没させるほどの圧力で潰しにかかる。


「畳重ね‼」


 数十・数百・数千・数万……無数の畳が大魔王を圧し潰しにかかり、遂にはバベルの塔の如く、天高くそびえたつほどに積み重なる。

 これほどの畳の量、並みの相手ならば圧死しているだろう。

 しかし、それでも畳屋は警戒を解かない。

 相手は大魔王。この程度で終わるはずがない。

 その証拠に、陥没個所から徐々に黒煙が立ち上り――


「カオスインフェルノ」


 瞬時に火柱が立ち上り、すべての畳を焼き尽くした。

 そして、燃え盛る炎の中から無傷の大魔王が現れた。


(やはり、この程度では倒せないか――‼)


 戦慄する畳屋。大魔王の名は伊達ではないのだ。

 しかし、ここで退くわけにはいかない。


(俺は勇者パーティーのタンク役を最後まで全うできなかった……)


 故に力をつけた。今度こそ、誰かの役に立つために。誰かを守るために。

 おそらく、自分一人では勝てないだろう。

 だが、勇者たちが態勢を立て直す時間くらいは稼げるだろう。


 ならばやることは一つ――


「命がけで足止めする――」


 大魔王が黒い炎を収束させ、巨大な炎の塊を生み出す。

 畳屋も必殺の構えを見せ、対抗する。


「ヘルインフェルノ」

「奥義・畳返しッッッッッ‼」


 巨大な炎の塊に対し、畳屋も地面から巨大な畳を召喚。

 召喚された風圧――否、衝撃波で炎塊を押し戻そうとする。

 威力は拮抗。いや、畳屋が上回っている。

 だが――


「くぅっ! もってくれよ……」


 熱波によりボロボロと畳が崩れていく。

 その前に決着をつけなければ。すべての力を畳に注ぎ込み、畳屋は勝負に出た。


「その程度か」


 しかし、現実は非情であった。

 大魔王が僅かに魔力を注ぐと、炎は勢いを増し、衝撃波をものともせず、推し進み畳を焼き尽くした。


「ぐあああああーーーーーッ‼」


 周囲は炎に包まれ、畳屋は爆発に巻き込まれた。

 辛うじて直撃は免れたが、最早立つことすらできない。

 大魔王は悠然と畳屋の前に立つと、虚空から巨大な剣を取り出し、振り上げる。


「終わりだ」


 処刑を宣告し、刃を振り下ろす。

 しかし、それを遮ったものがいた。


「そうはさせるかッ‼」


 大魔王の一撃を聖剣で防いだのは、一時撤退した勇者だった。

 そばには武闘家・聖女・賢者もいる。

 どうやら、畳屋は勝負に勝ったようだ。


「遅れてすまない。今度こそ、一緒に戦うぞ‼」

「今度はもう、追放なんてしませんよ‼」

「あぁ……あぁっ‼」


 聖女の回復魔法で復活した畳屋は立ち上がり、追放前と変わらぬ面子と共に、再び大魔王に立ち向かう。


「ふん、返り討ちにしてくれる」


 そう言って大魔王は再度、炎塊を投げつける。

 同時に賢者がアイコンタクトで合図を送ってきた。


水畳(みたたみ)ッ‼』

「⁉」


 瞬間、水属性がエンチャントされた畳が出現。

 さらに大魔王を閉じ込める形で聖女が結界を張る。

 するとどうだろうか。炎の塊が水属性畳に触れた瞬間、結界内で水蒸気爆発が起こる。


「ヌゥゥゥゥゥン‼」


 結界を破壊せんばかりの爆発を直に受け、大魔王は大ダメージを負う。

 その隙に、畳屋は次の布石をまく。


環火殺火わびさびッ‼」

「‼」


 地面を畳に錬成。さらにそのへりが高速で移動する。

 物理法則? そんなの知らない!

 そう言わんばかりに‼


(これは、縁を踏んだら何らかのペナルティが発動する仕掛けか。ならば――)


 おびただしい戦闘経験の中から、直感で技の効果を把握。

 回避のために空中へと逃げる大魔王。

 しかし、それは予測済み。


「いくぞ大魔王ぉぉぉぉぉ!」

「なに⁉」


 宙を飛ぶ畳に乗った武闘家と勇者が大魔王に向かって、突進してきた。


(これどうやって浮いてんの?)


 そんな勇者の素朴な疑問を他所に、攻撃を仕掛ける武闘家。

 その威力は、大魔王の身体にひびを入れるほどに強化されていた。


「なるほど――その畳に乗っていると攻撃力が増すのか」

「そうだ。武闘と畳、礼節と伝統を重んじる者の力を強化してくれるのだ‼」

「この畳に、そんな効果が」


 そうツッコみながら勇者と武闘家の連携に次第に追い詰められていく大魔王。

 さらに賢者と畳屋の援護が追い詰めていく。


畳岩獅(たたみいわし)ッ‼」「灼熱畳咬(あたたかみ)ッ‼」「監獄牢屋畳(おりたたみ)ッ‼」


 炸裂する様々な、大技についに大魔王は膝をついた。


「ならば、この国ごと滅ぼしてくれる‼ この嘆キノ太陽でな‼」

「くるぞ、大技が」

「俺たちも力を合わせるぞ‼」

「勇者‼ この畳を使ってくれ‼」

「なぜに!?」


 そう言って、光り輝く黄金の畳を手渡され、戸惑う勇者。

 その隙に大魔王は極大の一撃を放つ。


「死ねぇぇぇぇぇ‼」

『八咫の畳ッッッッッ‼』


 黄金の畳から放たれた光が大魔王の技と拮抗し、推しとどめる。


(この畳、本当にどうなってんだよ?)


 どんな原理で、どんな動力で動いているのか、まったくもって不明である。

 素朴な疑問を抱く勇者に「集中しろッ‼」と武闘家が一括。理不尽。

 そうこうしているうちに、大魔王の攻撃を押し返し、光の奔流が邪悪なる炎ごと飲み込んだ。


「見事だ……‼」


 大魔王はそれだけ言い残し、光の奔流の中に消えていった。




 ――こうして、世界は救われた。


 国の復興と言う、大きな仕事が残っているが、それも人の力でどうにかなる。

 長い時間がかかっても、やり遂げるだろう。

 戦いを終えた勇者たちも、それぞれの道を歩むことになった。

 勇者は国の騎士に、武闘家は道場の主に。

 賢者は宮廷に仕える魔導士に、聖女は変わらず教会に仕えるシスターに。

 そして、畳屋は――


「今こそ、王国の盾として、盾兵として志願します」

「他にマネするやつとか現れたら危ないから却下」

「がーん」

「復興頑張ってくれ」


 ……と要望こそ叶わなかったものの、己の仕事を全う。

 数百年後、よみがえった大魔王に対抗するために、異世界召喚された少年勇者はこう呟いた。


「なんで中世ヨーロッパ風の世界観なのに、部屋は畳張りなんだ?」

『知らね』


 空の上から先代勇者のツッコミが入ったが、聞こえていたかは定かではない。



◆登場人物◆

・勇者

 ツッコミ役。聖剣に選ばれし、王道的な勇者。


・聖女 スリーサイズ84/53/84

 紅一点。水蒸気爆発に耐える結界ってなんなのよ?


・武闘家

 前衛。豪快なお調子者。


・賢者

 の割にはバカっぽいな。こいつ……


・畳屋

 この話の主人公。うまく盾兵の役割をこなせなかったのはスキルツリーの伸ばし方に原因があった。畳屋として頑張った結果、盾兵のスキルも伸ばせたらしいんだが……

 畳屋の範疇を超えてますね。


・大魔王。

 大体1000年後辺りに復活。かつては英雄だったが雪見大福1個無断で喰われた結果、闇落ちした。




 面白いと思っていただければ、お手数ですが「いいね!」もしくは、下の☆☆☆☆☆から評価ポイントを入れて下されると幸いです。

 むしろ、両方やってください!



この作品の大体の世界観が分かる作品のあれこれ


追放されし者たちの話

https://ncode.syosetu.com/s1979f/


作者の人間性が大体わかる作品のあれこれ


世にも奇妙な王道ファンタジー

https://ncode.syosetu.com/s6617g

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
女神『畳屋よ……【世界樹】ならぬ【世界い草】で畳を編むのです』 という神託に従って編んだ畳が、大魔王戦で使われた畳ですを
相変わらずのキレですねw
畳屋さんは追放されていた時期は商店街の皆さんと特訓していたのですか⁉
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ