夢ではない痛み
「お兄ちゃん。」
そこには寝たきりの妹が立っていた。
リンドウは幼い頃に両親を失い、唯一の家族は妹の紫苑だけになっていた。
そして、妹も突如謎の病に倒れ、現代の医療では、植物状態に留めるのがやっとだった。
リンドウはその時から、医者になることを決意し、好きだったアニメを捨てて、これまで勉強を頑張ってきた。
そんな妹が目の前で立っている。
この事実にリンドウは冷静にはなれなかった。
「紫苑、紫苑なのか?」
紫苑はリンドウの妹の名前である。
「うん!そうだよ!」
リンドウにとってこの声を聞くことも久しぶりだった。
「お兄ちゃん、私のために今まで頑張ってくれていたんだね」
「いいんだ、お前が元気になるなら」
リンドウの目の前にいる紫苑は病になる前の小学2年生のままだ。
「そうだ!また昔みたいにハグしてよ」
リンドウは懐かしいと微笑み、紫苑のそばまで近寄って抱きしめようとした。
しかし次の瞬間、リンドウは自分の服が血まみれなことに気がついた。
いや違う、リンドウの身体が刺されたのだった。
リンドウは、夢の中とは思えない断末魔をあげて地面に倒れ込み、もがきまくった。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
腹の大きな傷は骨まで入っている。
夢の中でも死ぬかもしれない。
リンドウはこのとき初めて気がついた。
「紫苑?」
リンドウの上には、不敵な笑みを浮かべる妹の姿をした何かが立っていた。
「アラアラ、こんな程度で痛がるんじゃ、大して遊べないじゃない」