第二章 【54】 結果発表①
本日は三話、更新します。
〈ヒビキ視点〉
結論から言うと。
突如として出現した魔界樹による、『収穫狩り《ハーヴェスタ》』に対して。
冒険者とともに、一致団結したエステート大森林の住人たちが。
突如発生した魔樹迷宮に、迷宮攻略を仕掛けることで。
見事、膨大な魔獣討伐という戦果と、連れ去られた人間たちの七割近い救出という偉業を果たした日の、早朝である。
「……バウバウッ! バウッ!」
「……お、おい、いたぞ!」「こっちだよこっち!」「治癒士、早く早く!」「ふたりとも女蛮鬼の英雄なんだ、子種を授けてもらうまでは、こんなところで死なせるんじゃないよ!」「合点承知っ!」「なんなら目覚めるまで何日でも、人肌で温める覚悟だし!」「あ、それズルい!」「むしろご褒美じゃん!」
「ええい騒がしいよ、戦士ども! ビッキーの童貞は、すでにウチら大戦士が予約済みだし!」
「土俵に上がりたいなら、せめて大戦士になってから出直してくること!」
「「「 ぶうううううッ!!! 」」」
などと、一悶着があったものの。
いつまで経っても森里へと転移してこない、地下空間に取り残された二人の少年の安否に焦れた女蛮鬼たちが。
夜明けと同時に、迷宮攻略を仕掛けた、大森林の中心部にまで赴くと。
同行していた銀狼の、嗅覚によって。
魔樹迷宮の真上にあたる地上に放り出されていた、半死半生状態の豚鬼と半血鬼を、発見したのだという。
当然のことながら。
地下空洞における魔人との戦闘で気を失っていたと証言するふたりが、双子姉妹が託した呪巻物すら使わずに、どうやって地上にまで移動してきたのか、疑問は残ったものの……
「……ひとまずは、あの死地からよくぞ無事戻ってきてくれたと、喜ばせてもらうぞい」
それから丸二日ほど。
昏睡していたというヒビキが、目を覚ましたのは。
女蛮鬼の森里における、もっとも大きな平屋敷の一室であり。
意識を取り戻すなりすぐに駆けつけてくれた女族長が、目尻に涙を浮かべながら、そんな言葉を口にしてくれたのであった。
それから少し、最低限の情報確認をしたのちに……
「……まあまだまだ、語りたいこと、伝えたいことは、山ほどあるのぢゃが――」
それまで熱い眼差しを向けてくれていたレイアが、不意に。
屠殺場に出荷される家畜を見送るような。
憐憫を視線に宿して。
「――それよりも先に、ヒー坊には、陳謝せねばならぬ相手たちがおる。覚悟はええか?」
ズゴゴゴゴゴッ……と。
壁越しなのにも関わらず。
先ほどから空間を歪ませるほどの『圧』を感じさせる隣の部屋に、移動したヒビキは。
「勝手なことして、すいまっ、せんでしたああああああっ!」
「たあああああっ、じゃありませんよヒビキくん! そんな大変なことがあったのに、全部事後報告をされて、そのうえ二日間も隣の部屋で目を覚さないヒビキくんの身を案じていたママの気持ちが、わかりますか!? わかりませんよねえ!? わかってたらそんな真似、できるはずがありませんものねえ!? ああもう、こんな気持ちを味合わせるならせめて、今度死地に赴く時には、ママを殺してから行ってくださいよ!? じゃないとこんな生き地獄、ママは、耐えっ、耐えられっ、びええええんっ! 良かったあああああヒビキくんが生きててくれてえ……っ!」
「うおおおお怒りながら泣きながら笑ってる!? マリーそれ、いったいどういう種類の感情なの!?」
「わかりませんよおそんなの! ……ずびっ! で、でもお、とにかく、ヒビキくんが目を覚ましてくれて嬉じいでずう゛うううううっ!」
「……ごめんよ、マリー。心配かけて、本当にごめん」
などと。
怒りと焦りと不安と安心によって。
情緒がぐちゃぐちゃになってしまった、白髪紅瞳の少女が泣き止むまで。
その小さな身体を抱きしめながら。
散々と、誠意と言葉を尽くしたあとで。
「……あとビッキーは、そんなマリアン殿の相手をしていたウチらにも、陳謝すべき。マジで」
「……具体的には添い寝を要求。大丈夫、今はそれ以上は望まないから。ただただ、癒しが欲しいだけなんだよ……っ!」
双子従者からも愚痴を受けつつ。
マリアンを寝かしつけたヒビキが移動した、新たな部屋には……
「……なあ、ヒビキ。いったいどういう了見なんだ? 族長様たちを逃す代わりに、魔人を相手取ってあのまま魔樹迷宮に居残るとか、オレは聞いていなかったんだが? いったい何を考えてそのような結論に至ったのか、オレにも理解できるように、ちゃんと答えてくれるんだよな? ……いや大丈夫、怒ってないから。この二日間ろくに寝れていないからちょっと気が立っているかもしれないが別に怒ってはいないしオレは冷静だから、ちゃんとおれが納得いくように、説明してくれるよな? な? そうだろ、ヒビキ?」
たしかに、その表情は。
いつものように、内心の読み取りづらい。
凛然とした美しいものではあったものの。
何故かその黄金の瞳に、ドロドロと。
粘度の高い感情を漲らせた、オビイがいて。
「……っ、すいまっ、せんでしたあああああッ!!!」
本能的に頭を床に叩きつけたヒビキは。
そのまま、四半日ほど。
地上に戻るという約束を危うく反故に仕掛けた少女へ向けて、謝罪と陳謝を、繰り返したのであった。
⚫︎
それから、一週間ほどは。
肉体の療養と、ご機嫌取りも兼ねて。
ヒビキはマリアンが療養をとっている部屋で、ともに生活を送る日々を過ごしていた。
幼少期から常に身体を動かし続けてきた豚鬼としては。
そうした身体が鈍ってしまう時間の過ごし方に、いささかの不安を覚えてしまうものの。
目を覚ましている間の、文字通り一瞬たりとも目を離さない、完璧なマリアンの監視を前にして、無茶ができるはずもなく。
また、彼女が意識を手放している間は。
何故かオビイが部屋の片隅に腰を下ろして、じっとこちらを見つめているために、脱走すらままならない。
以前から、ヒビキという繋がりを通して。
多少なりの交流があったことは知っていたが。
どうやら自分が意識を失っている二日間の間で、マリアンとオビイの間に何か『それ以上の』関係性が構築された様子を、ひしひしと感じてやまない、豚鬼であった。
ともあれ。
そうした一週間にも及ぶ。
療養と反省の期間を、終えたあとで。
マリアンから、ひとまずのお許しを得たヒビキが。
ようやく以前の生活に回帰する……
「……あ、ヒビキくん!」「やっと元気になったんだね!」「あっちのほうも元気!?」「大丈夫かな?」「おねーさんたちが大丈夫かどうか、一緒に確認してあげようか?」「っていうかさせてください!」「お願いしますっ!」「もう大戦士様の牽制が厳しくって、戦士のウチらが手出しするには、もはや強硬策しか……っ!」
ことが、できるはずもなくて。
以前にも増して。
苛烈に、熾烈に、熱烈に。
ヒビキの前世的な感覚においては十分以上に美人、美女、美少女である女蛮鬼たちが、隙を見つけては押しかけてくるため、迂闊に外を出歩くことすらできない。
というか家にいても夜這いが何度も……未遂とはいえ……発生したために。
三日とたたずに、女族長の平長屋に舞い戻って。
マリアンを狂喜乱舞させたことは、ヒビキにとっての誤算であった。
さらに、計算外の出来事といえば。
「ヒビキさん……いや、ヒビキのアニキっ! アニキの漢気に、惚れました! 俺をアニキの、舎弟にしてくださいッ!」
「……ほらあ、リーダー。ヒビキ氏、ドン引きじゃないですかあ。いやね? 僕だってちゃんと、これを説得はしたんですよ? でもあの日、ヒビキ氏に助けられて、その後の救出作戦の顛末を聞いてからもうずっと、この調子でして……」
「っていうかあれだけの漢気を魅せられて、惚れないほうがおかしいピョン。ウチだってビチョビチョに濡れたピョン。クソメガネが不能なだけだピョン」
などと、彼らの内面で。
いったいどのような感情の整理が行われたのか、推し量ることなどできはしないが。
あの激動の一日を過ごして価値観が生まれ変わったのだという牛鬼の青年が、異様に暑苦しい熱意を伴って、是非とも豚鬼の舎弟になりたいのだと名乗り出てきて。
そうした冒険者頭目に。
冒険者仲間の賢鬼や兎人が、それぞれ諦観や共感の表情を向けていたり。
「……今までの非礼に無礼、改めて、申し訳なかったのであります、旦那さ……おっと、まだこれは流石に時期尚早でありますね。申し訳ないのであります、ヒビキ様。でも、とにかくお姉さまの見る目に、間違いはなかったのでありますよ。ヒビキ様になら安心して、お姉さまを託せるのであります!」
結果的として。
彼女の願いを叶える形となったことが、功を奏したのか。
すっかり態度を軟化させた森鬼の少女から、妙に信頼度の高い評価をいただいたり。
「おいこらボケカス! テメエ、冒険者になりてえのか!? だったらとりあえず交易都市のギルドに顔出したときは、声ぐらいかけやがれ。メシくらいは、奢ってやっからよお!」
「うわ、出たよリーダーのお節介! ヒビキくん、ウザかったら無視しちゃっていいからね〜」
「でも興味あるナラ、〈無礼悪鬼〉を、訪ねてくるといいヨ。ヒビキなら大歓迎ネ!」
魔界樹の影響で、大森林に溢れていた魔獣を、もうしばらく討伐した後で。
本拠地である交易都市に戻っていく冒険者たちから、そうした有難い勧誘をしていただいたりしているうちに。
あっという間に、さらに二週間ほどが経過して。
魔樹迷宮の緊急迷宮攻略から、およそ一ヶ月に。
女蛮鬼たちの豊穣祭。
繚乱祭が、執り行われたのだった。
【作者の呟き】
第二章も今日でようやく一区切り。
長かった〜っ!(自己責任)




