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第二章 【24】 冒険者③

〈タウロドン視点〉


「……まアいいやア。ンでえ、デクノボウよオ、いつになったらテメエらのお手なみを、拝見できるンだア?」


「……もうちょっと、ですよ。ヘルシングさん。そうだな、ミミル?」


「ハイですピョン! こっちに魔獣に気配を感じますピョン!」


 何故彼が、そのような思考に至ったのか。


 理由は判断しかねるものの。


 自分たちの冒険者活動を見学したいという豚鬼(オーク)の要求を承認した、Cランク冒険者チーム〈勇猛団ブレイバーズ〉は。


 ひとまずは専門家である、自分たちの腕前を。


 冒険者稼業に興味があるらしい豚鬼オークに、披露する話の流れになっていた。


 そのためにこうして三十分近くも。


 森の中を、移動しているのである。


「……どうだ、ミミル?」


「うん、あとちょっとだピョン。あっちだピョン!」


「ハッハア。精々大物がいると、いいんだがなア」


「……僕としては獲物は、ほどほどくらいでいいんですけどね」


 彼としても、魔獣の気配を嗅ぎ取っているのか。


 発破をかけてくる、金髪三つ編みの半血鬼ダンピールに。


 片眼鏡モノクルをかけた賢鬼ホブリンが、本音を漏らす一方で。


(色々と予定は狂っちまったけど、でもようやくオビイさんとは再会できたし、あの豚鬼(オーク)野郎との距離感は微妙だけど、まだ付き合ったりはしていないみてえだから……だったらまだ、俺にもチャンスはあるよなあ!? せめてここで、一年間の成長ぶりを見てもらわねえと!)


 ズキズキと、未知なる頭痛に苛まれつつも。


 未だに闘志の炎を絶やしていない牛鬼ゴズルは、冒険者らしく、一発逆転の可能性を諦めてはいなかった。


 そのための、斥候職レンジャーである兎人ラビリアによる、獲物の選別である。


(最低でも圧撃猪ストンプボア……できれば岩鎧熊ロックベアーぐらいの、手頃な魔獣が見つかればいいんだが……)


 冒険者稼業において。


 常に念頭に置かなければいけない問題の、ひとつとして。


 各々が討伐できる魔獣の難易度とは別に、その後に冒険者たちが持って移動できる、魔獣素材の量が挙げられる。


 なかには希少な空間魔法の使い手を仲間に迎えたり、貴重な空間系の魔道具を所有したりなどして、そうした問題点を解決している高位の冒険者たちもいるらしいが。


 自分たちのような大半の冒険者は、専属の運搬者(ルーター)を雇わない限りは、たとえ魔獣を討伐したとしても、その証明や報酬となる魔獣素材を持ち運べる量が限られてしまうものだ。


 ゆえに、継続的な冒険者稼業を心掛けるのであれば。


 殲滅系の依頼クエストでもない限りは、なるべく無駄な戦闘を避けて。


 自分たちが無理なく討伐できる適正値の魔獣を、効率よく選別する技能が必須となり。


 それに特化した職種が斥候レンジャーであり。


 この〈勇猛団ブレイバーズ〉における、ミミルという少女の役割であった。


「うん……うん、いい感じですピョン。もう少しですピョン」


「へえ……さすが兎人(ラビリア)だなア。そのウサ耳は、伊達じゃねってかア」


「ハイですピョン! 自慢の長耳ですピョン! よろしければ、触ってみるですピョン!?」


 ピクピクと、頭頂部から伸びた兎耳を揺らしながら。


 相変わらず腕を絡めたままの半血鬼ダンピールに向けて、そんな誘いを口にする、冒険者仲間パーティーメンバーの少女に対して。


「……チッ……チッ……チッ」


 露骨に舌を打ちながら。


 顔を顰めているのは、片眼鏡モノクルをかけた小柄な賢鬼ホブリンである。


「あ? さっきからモリイの分際で、なんですピョンその態度は? 感じ悪いですピョン」


「いえいえ〜? べっつにい〜? ただ発情兎の媚び媚びが見ていられなくてえ、反吐が出そうなだけですけどお〜?」


「はっ! 素人童貞の僻みはウザいピョンねえ! そんなんだからモリイは水商売のオネーサマたちにも、相手にされないんだピョンよ!」


「あ、相手にされていないわけじゃないし! こっちが相手にしていないだけだし!? むしろこっちにも、払うもの払っている以上は、選ぶ権利があるっていうかあ!?」


「……商売オンナあ相手にイキってることは、否定しねえのなア」


 痛いところを突かれたのか。


 つい過剰な反応を見せてしまった、賢鬼に。


 端正な容姿の半血鬼が、蔑みの視線を向けている。


「そんな!? ヘルシングさんまで!? 貴方も男ならわかるでしょう!?」


「いやア俺サマは、金払ってまでオンナを侍らせたことはないから、わッかンねえなア……?」


「……グハあ!」


「きゃはははっ! ザマあ、モリイ! いい気味ですピョン! イケメン様を素人童貞と同列に語るなですピョン!」


「それくらいにしておけ、ミミル。それにヘルシングさんも、放っておいてやってください。あれはああいう、悲しい生き物なんです……」


 ちなみにタウロドンを含めた、冒険者たちが。


 初対面である金髪三つ編みの少年に、一目置いている理由は。


 単純に彼の方が、冒険者としての評価ランクが上だからである。


『――あ〜あ、そういえばア』


 つい先ほど……


 自分たちが豚鬼からの申し出を、受け入れたあとである。


 遅れて自己紹介をしてきた、半血鬼であるが。


『――テメエらも冒険者ならア、いちおうコレが、身分証代わりになンのかア?』


 そう言って、彼が。


 懐から取り出した、Bランクを示す証明板ライセンスプレートは。


 格下の冒険者たちの態度を改めさせるのに、十分なものだった。


『――え? ヒム、お前も冒険者だったのか? 初耳なんだけど?』


『――そりゃべつにイ、聞かれてねえからなア。こいつは俺サマの本業じゃねえしイ、でもあちこちに足を伸ばすンなら便利だってババアどもが言うから、チャチャっととっておいただけのもんよオ。わざわざ自慢するようなもんでもねエ』


 Eランクで登録、Dランクで新人。

 

 Cランクで安定、Bランクで安泰。


 Aランクで大成、Sランクで国宝。


 などとも呼ばれている、一握りの熟練冒険者として扱われるBランクを。


 そのように軽々しく扱う、金髪三つ編みの少年に。


 思うことがなかったかと問われれば、嘘になるが。


 冒険者間においては、無闇ないざこざを回避するために。


 そうした上下関係は、新人の頃から徹底教育されており。


 常識知らずの駆け出し冒険者ならいざ知らず、分別ある一人前の冒険者を自負するタウロドンとしては、そうした彼の扱いは慣例に倣うほかなかった。


 とはいえ、だ。


(あくまで中級冒険者なのはヘルシングさんだけであって、あっちの豚鬼(オーク)野郎は門外漢みてえだから、こっちにまで気を遣う必要はねえよなあ……っ!?)


 冒険者としても。


 男性としても。


 遠慮や忖度をしてやるつもりは、微塵もない。


 たしかにオビイとの関係性においては。


 自分が一歩、出遅れている感は否めないが。


 それでもまだ婚姻(ゴール)には至っていない以上、ここからの挽回は、十分に可能であるはずだ。


(見ていてくださいね、オビイさん! 俺の漢気を、貴方に捧げます……っ!)


 そうして気炎を燃やす、牛鬼の想いが。


 大森林に住まうとされる、精霊たちに届いたのかは定かでないが。


 じきに、視界に捉えたのは。


 中位階梯《Cランク》冒険者にとっては討伐難易度が高めとされる魔獣の、岩鎧熊ロックベアーであった。


『フッ……フッ……フゴッ、グゴオオオオオッ!』


 鼻息の荒い、野生の嗅覚によって。


 あちらもこちらの存在には、気付いていたのだろう。


 タウロドンたちの姿を目視するなり、唸り声をあげて、駆け寄ってくる熊型魔獣に。


「いくぞテメエら! ギャラリーがいてもいつも通りに落ち着いて、狩れ! はしゃぐんじゃねえぞ!」


「わかってるピョン! 空気を読まない女は嫌われるピョン!」


「はいはい。精々張り切って、オビイさんにイイとこ見せちゃってくださいよね!」


 言葉を交わす前から。


 阿吽の呼吸で。


 半年ほど行動を共にしている〈勇猛団ブレイバーズ〉の面々が、魔獣用の討伐陣形(フォーメーション)を組んで、動き出していた。


「うおおおおおおおっ!」


 そうした仲間の連携を、意識の端で確認しつつ。


 野太い雄叫びをあげながら。


 先行したのは、一行パーティー頭目リーダーである、巨躯の牛鬼であり。


 大柄な体躯相応に、特注である大型の片手盾(カイトシールド)を突き出したタウロドンは……


 ズンッと、重音を響かせて。


 自分と同程度の背丈と質量を誇る熊型魔獣の突進を、正面から受け止めた。


「今ですピョンっ!」


 そうして動きを止めた、獲物に向かって。


 兎人ラビリアの脚力を遺憾なく発揮した少女が、瞬く間に距離を詰めていく。


「うりゃりゃりゃりゃ〜っ!」


 ザクザクザクッ、と。


 手にする短刀を、宙に走らせ。


 全身の各所を岩のような質感の肌で覆った魔獣の、その隙間。


 硬質な表皮の隙間を縫うようにして、無数の斬撃を刻み、すぐに離脱していった。


『グオオオオオオ――――ッ!』


「うるさいデカブツ、お前はもう、詰んでるんですよっ!」


 そうした仲間が用いた短刀型の、魔道具によって。


 間接的に、魔獣との魔力線(パス)を繋いだ賢鬼ホブリンが。


 片眼鏡モノクルを輝かせながら、魔力を漲らせた魔杖を構える。


「くらえ、――〈減魔(イルネス)〉っ!」


 ズギュウウウンッ、と。


 魔力圧変化による、独特な音を響かせて。

 

 放たれた干渉魔術は、対象を弱体化(デバフ)して、見る間に動きを鈍化させいった。


「くたばれええええええっ!」


 そうして仲間たちが生み出した機を見逃さずに。


 複数の強化魔能(スキル)を発動させた肉体を、ビキビキと一回りほど隆起させて。


 巨大な片手盾の反対側。


 こちらも通常より遥かに大きな片手斧ハンドアックスを振りかぶったタウロドンによって、見事、対峙する熊型魔獣の脳天が叩き割られたのだった。


(――どうだ、豚鬼野郎っ!? これが俺たちの、実力だ!)


 そうして、冒険者としての力量を披露して。


 意気揚々と、背後を振り向いた牛鬼に対して。


「……あ、うん、スゴイナー」


 何故か、瞠目して然るべきの豚鬼は。


 とても微妙そうな表情を、浮かべていたのであった。



【作者の呟き】


〈次回予告〉噛ませ牛鬼、華麗に散る……ッ!


 

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