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第二章 【03】 女蛮鬼②

〈ヒビキ視点〉


 目覚めた直後から。


 自分の置かれている状況が、どうにも判断しかねるため。


 ひとまずは流れに乗って演じてみた嘘泣きだが、いとも容易く、見破られてしまったようだ。


「……チッ。食えねえ婆さんだな」


 ムクリと、身を起こした。


 凶悪な相貌を有する豚鬼(オーク)を前にして。


「……ッ!」


 どうやら本気で心配してくれていたらしい赤髪の少女……オビイが、眉根に皺を刻むものの。


「くかかっ! このようなピチピチの乙女を捕まえて婆呼ばわりとは、随分と失礼な物言いぢゃのう!」


 ヒビキの芝居を看破した銀髪の少女は。


 特に、気にした様子もなく。


わらわ、泣いてしまうぞえ? びえーんっ!」


 むしろ上機嫌そうに。


 目元に手を添えながら。


 わざとらしい泣き真似を演じてくる。


 あからさまな意趣返しに、今度は豚鬼が顔を顰めた。


「おいおい、人のことは言えねえが、下っ手くそな泣き真似だなあ。そんなに年齢詐称したいんなら、もうちょっと猫を被る努力をしろよ? 今日日きょうび野生の擬態樹(トレント)だって、もうちょいマシな擬似餌を仕掛けてくるぜ?」


 そのように不満を漏らして。


 さり気なさを装いながら。


 チラリと、自分の姿を確認してみるものの……


(……やっぱり武装は、解除されてるか)


 当たり前のように。


 転移の際に装備していた魔樹鎧や手甲などは、取り外されていた。


 今のヒビキは彼女たちと同様の、民族衣装めいた薄手の獣皮服を、身に纏っただけの状態である。


「ん? 妾たちの用意した服は、お気に召していただけたかえ?」


 またしても、そうしたヒビキの胸中を見透かして。

 

 ニヤニヤと、人を食ったような笑みを浮かべる、銀髪少女の銀瞳は。


 愉快そうな表情に反して、思慮深く。


 こちらの一挙一足を、つぶさに観察しているようであった。


「……」


 あからさまな、威圧を与えられて。


 否応なく、警戒心が高まっていく。


(……コイツ。どこまで俺たちの事情を、知っていやがる?)


 敵なのか。


 味方なのか。


 そもそもここはどこで、自分たちはいったい、どのような状況に置かれているのか。


 この場にいないマリアンは無事なのか。


 師匠の実家であるライヅとはどのような関係なのか。

 

 不安と疑念がグルグルと、胸中で渦を巻くものの……


(……はあ。ダメだな。現状じゃあ、情報が少なすぎる)


 今の手札では、相手の交渉台(テーブル)に座ることさえできない。


 完全に主導権を握られてしまっている。


 となれば。


「……降参だ」


 無力な豚野郎にできることといえば、精々が、潔く両手を上げることぐらいなものだった。


「この通り、アンタらに刃向かう意思はねえよ。だからこれ以上、無意味な勘繰りはよしてくれ」


「……ほう。戦わずして、白旗をあげるというのかえ?」


「はっ。見ての通り俺は豚野郎だが、こんな状況で自棄を起こすほどの、馬鹿野郎じゃあねえつもりだぜ? だいたい俺をどうこうするつもりなら、気を失っている間に、どうとでもできたはずだろ?」


 それを、少なくともこうして。


 手間暇かけて、場を設けてまで。


 会話の機会を、与えてくれているのだ。


 つまり現時点においては、最低限、彼女たちは自分にその程度の価値を認めているということ。

 

 であるならば。


(あっちの思惑がどんなものであれ……とにかく今は、情報を集めることが優先だ)


 急がば回れ。


 将を射んと欲すれば、まず馬を射よ。


 迂遠ではあるが、情報収集の重要性を理解してるヒビキは、逸る鼓動を抑えつけて。


 か細い糸を、繋ぐために。


 会話を用いた戦場に挑む、覚悟を固めていた。


「……ふふっ、なるほどのう」


 無論そうした胸中なども、お見通しなのだろう。


 全てを理解している様子の銀髪少女は、老成した瞳のなかに、興味の色を浮かべている。


「どうやら頭のほうは、及第点のようぢゃな。豚鬼(オーク)というのは良くも悪くも直情的な連中ぢゃと思っておったが、これは少しばかり、妾の考えを改めねばならぬようぢゃのう」


「はっ。そりゃどうも、光栄だね」


「それにノリも、悪くない。童貞なのも、妾としては高評価ぢゃよ?」


「それは全然嬉しくない」


「ん? なんぢゃ? 童貞であることは否定せんのか? 豚鬼のクセに? として、恥ずかしくないのかえ?」


「別に恥じる話でもないだろ。それとも何か? アンタは相手の下半身で、ソイツの評価を決めるのかよ?」


「おう。わりと決めるのう」


「お、おう……そうですか……」


 何を当然のことを、とばかりに。


 無垢な瞳で返答されて。

 

 会話を始めて早々に、純然たる価値観の相違から、少しばかり怖気付いてしまう豚鬼であった。


「大きいことは、良いことぢゃ。その点については坊やは大層御立派なものを与えてもらったのぢゃから、自信を持つが良いぞ?」


「あ、はい……」


 しかも気を失っている間に、しっかりと確認されていたらしい。


 悪戯されていないか、心配になってしまう。

 

「……ふふ、ぢゃが確かに。大きいに越したことはないが、大きいからといって、こちらを満足させてくれるかはどうかはまた、別問題ぢゃな。素人には素人の、玄人には玄人の、良さや趣きといったものがある。何事も食わず嫌いは良くない。というわけで、どれ、坊やの瑞々しい童貞、せっかくぢゃから妾がつまんでやろうかえ?」


「はっ、まっぴら御免だね。誰がテメエみたいな行きずりの痴女に、大事な童貞をくれてやるもんか」


 こちとら転生する前世でも。


 転生した後生でも。


 大切に、守り続けている貞操なのだ。


 はじめての相手は、慎重に選びたい。


 できれば愛を以てつままれたい。

 

 そのような童貞特有の面倒臭さを、臆面もなく、口にする豚野郎に。

 

「ちえっ。振られてしもうたか」


 さして気にした様子もなく。


 カラカラと笑う、銀髪銀眼の少女は。


 ペタペタと、足音を響かせながら、部屋の中を移動して。


 どさりと、奥座にある敷物に、腰を下ろすと。


 置いてあった小箱から煙管(キセル)を取り出して、慣れた手つきで乾燥させた草を詰めたのちに、指先に灯した炎を火皿に移す。


「……ああ、そういえばまだ、名乗っておらなんだのう」


 ふうーっ、と。


 独特な匂いのする紫煙を、吐き出しながら。


 おそらくはヒビキの母親と同じ、魔力過多による成長阻害体質を有する褐色少女は。

  

「妾の名はレイア。レイア・メラ・エステート。このエステート大森林に住まう女蛮鬼(アマゾネス)の、族長を担っておる者ぢゃよ」


 ようやく己の正体を、口にしたのであった。


【作者の呟き】


 銀髪銀眼のドスケベ属性褐色ロリババア。


 作者の癖にはピンズドですが、残念ながら本作品のヒロイン枠ではありませんので、過度な期待は御控えください。


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>どれ、坊やの瑞々しい童貞、せっかくぢゃから妾が摘んでやろうかえ? ヤンデレ大ママ王様が降臨するからやめて〜! (((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
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