表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/167

第一章 【01】 転生

〈ヒビキ視点〉


 前世においてシバ・ヒビキと呼ばれていた青年が、『こちらの世界』での始まりを回想すると……


 行き着くのはおぼろげな記憶。


 記録の底。


 原初の澱。


 ぶくぶくと、水底から湧き上がる気泡のように。


 自我が浮上していき、やがて世界を覆う境界へと到達。


 水面を突き破る。


(……っ!? ……っ!)


 途端に外部の刺激を感じて、思わず目蓋を見開いた。

 

 流れ込む情報の奔流。


「……ぷっ」


 衝撃に驚いて。


 本能のままに、泣き喚ぶ。


「ぷぎゃあああ! ぷぎゃあああっ!」


 それを何度か繰り返して……

 

 新たな世界の『洗礼』を受けた後で。


 記憶に刻み付けられたのは。

 

 今でも一番に思い出すのは。

 

 こちらを見つめる少女の、慈愛に満ちた微笑みであった。


「はいはい、よしよし。大丈夫ですよ〜。ママがいますからね〜」


 まさしく、陽だまりのように。


 頭上から降り注ぐ、温かみに溢れた言葉を浴びながら。


 率直に述べるならば、そのときのヒビキは未だ微睡のなかにあり、夢の中で「ああ……これは夢だな」と半ば目覚めているときのような、意識はあっても自我が曖昧な、明晰夢と呼ばれる状態であったため、視覚情報以外の何かを感じることはなかったのだが。


 それでもあとになって、思い返してみると……


 この世界の始まりにおいて。


 自分を迎えてくれた少女は。


 自らを『ママ』と名乗り、当時のヒビキが口にする意味のない訴えに、真摯に向き合ってくれた彼女は。


 それはそれは……なんとも、見目麗しい。


 可憐な色白の美少女であった。


「……おや?」


 ろくに焦点の定まっていない、下方向からの視線を受けて。


 見上げる視界で小首を傾げる少女は、ざっと十歳を超えた程度であろうか。


 まだ『幼い』と形容して、間違いない外見の少女である。


 陽光を受けながらサラサラと揺れる、白い大海原のような直毛(ストレート)の白髪。

 

 シミ一つ見当たらない雪花石膏(アラバスター)の白肌。

 

 大きく見開かれているのは紅玉(ルビー)の瞳であり、(ふち)を飾る睫毛が、驚く程に長い。

 

 すっと筋の通った鼻梁には気品があり、可憐に咲く薄桃色の唇は、堪えきれない喜色を形作っていた。


 それら優れた個々の部品(パーツ)が。


 美の神によって、ひとつひとつ丁寧に。


 精密な均衡(バランス)を保って。


 配置されることによって生まれる、天使のような純白の美少女。


 それが今、慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、自分のことを見下ろしているのだ。


(……ん?)


 そのことに、ヒビキは違和感を覚えた。

 

 微かな反応に、少女も目敏く気づいたらしい。


 もとより喜色に満ちていた笑顔に、驚きが追加される。


「あ、いま、私を見つめてくれました!? ほら、ほらほら! 見えますか!? ここですよ! ママですよ~?」

 

「……あー」


 意味のない音を口から漏らしつつ。


 ぼんやりとした頭で、少女の笑顔を見上げていると……


「……ぬ、まことで御座るか、マリアン殿。どれ、ちと(それがし)にも見せてくだされい」


 ずい、と。


 次に視界に入ってきたのは、大きな影だった。


「あ、ちょっとテッシンさん! 邪魔しないでください!」


「ふはは、固いことを申されるな。少しぐらい良いではないか」


 などと、少女の不機嫌をものともしない大男は、無精髭を生やした壮年の男性である。


 見た目や肌具合から察するに、年齢は四十の半ばほど。

 

 浮かべている表情に敵意はないが、眼光が異様に鋭く、対峙する者の背筋を自然と正すような凄みがあった。


 マリアンと呼ばれた白髪の少女よりも頭四つぶんは大きな身体は、全身隈なく鍛えられており。


 両腕を覆う籠手。


 両足を包む脛当。


 胴体を守るのは漆黒の地金に金箔が施された軽装鎧であり、腰元には大小ひと振りずつの『刀』を佩いていた。


(なん……だ? こいつら……?)


 茫洋と輪郭のはっきりしない世界に、紛れ込んだ。


 白の貫頭衣を着た、白髪紅瞳の少女と。


 東洋風の衣服と装備を身につけた、大男は。


 いずれも見覚えのない人物であり。


 すわ親子かという想像も浮かんだが……


(……なんだ、あれ……()()……?)


 しかし大男には、少女にはないものがあった。


 それは頭角。


 額の両脇から皮膚を貫いて天へと伸びる『二本角』であり、肌色もまた、西洋人(コーカソイド)らしい少女の色素が薄いそれとは異なり、男は東洋人(モンゴロイド)のような象牙色である。

 

 流石に当時はそうした論理的(ロジカル)な思考で結論に至ることはなかったが。


 それでも直感として。


 なんとなく、理解していた。


 おそらく彼女と彼は、親子ではない。


 それどころか同じ種族ですらない。


 人と鬼。


 二十年以上をニホンという国で過ごしてきたヒビキの常識では、考えられない組み合わせだ。


(……え? ……なにこれ、やっぱり、ゆめなのか……?)


 思考が安定しない。


 自我が定まらない。


 波打つ水面のように、自己と世界の境界が曖昧だ。


(……だめだ……もう……なにも、かんがえられない……)


 気まぐれに浮上していた意識が。


 再び水底へと、沈んでいく。


 そうしたヒビキの内面における、変化に反して。


 ただ無意味に頭上を見つめ続けていた無垢なる瞳に、それを見下ろす大男が、愉快そうな笑みを浮かべた。


「くかかっ、良し、良し、良き面構えだ。年端もいかぬうちから(それがし)を睨み返すとは、中々の肝の座りようよな。きっとこの御仁は鍛えれば、良き武士(もののふ)になれるで御座ろう」

 

「ちょっとテッシンさん! だからあんまり顔を近づけないでください! この子が怯えて泣いてしまったらどうするつもりですか!? 殺しますよ!」

 

「ぬはは、それもまた一興よな」

 

「んもうっ!」


 少女の物言いなど意に介さず。


 興味深そうに。


 こちらを覗き込んでくる大男だが。


「……ぷひー」


 すでにそのとき自我を手放したヒビキの意識は、別のものへと移動していた。


「ぷぎー、ぎー」


「……あっ♡ こらこら、ダメですよっ♡ めっ♡」


「あむあむ」


 こちらを見下ろす都合上。


 先ほどから頬に当たっていた、少女の白髪。


 紅葉のような掌で掴んだそれを、口に含んで。


 あむあむと、歯の生えそろっていない口腔で、咀嚼する。


 当然ながら美しい白髪は唾液に塗れ、生理的な不快感を伴うはずなのだが、それでも少女は笑っていた。


 ダメダメと、言葉では(しつけ)を行いつつも。

 

 本当に、嬉しそうに。


 心から幸せそうに、微笑んでいた。


「……むう、その様子ではもしや、腹を空かしておるのではないか?」


「……っ! ああ、なるほど!」


 大男の指摘によって。


 少女は笑顔を崩し、狼狽を見せる。


「ご、ごめんなさい、気づくのが遅れてしまって! すぐにご飯をあげますから……テッシンさんは、あっちへ行ってください!」


「うむ」


 頷いた大男が、その場を離れると。


「……んっ」


 少女は躊躇うことなく自らの胸元をはだけさせた。


「流石に……外は、少し冷えますね……」


 などと、小言を漏らしつつ。


 内側からの液体を滲ませた胸巻き(サラシ)を外すと、全体的に色素が薄い少女において、そこだけは色が濃いめである突起が、外気に晒されることでピクンと震えた。


「ぷぎー! ぷぎー!」


 すると視覚か。


 あるいは匂いか。


 はたまた本能かなのか。


 とにかく『何か』を察したヒビキが、喚き始めると。


 によによと、少女の笑みが深まった。


「はいはい、お待たせしてしまいました。たっぷりと召し上がってくださいねっ♡」


「あむ、あむ、んくっ」


「……んっ♡ よしよし、いい子いい子♡」


 それは彼にとって、必要な行為。


 少女も当たり前と認識している、生理現象。


 とはいえこれより数年後に。


 当時の記憶を思い返せるようになったヒビキが、羞恥のあまり悶え苦しむようになるのは、また別のお話であった。


 

【作者の呟き】


 初手搾乳プレイ。


 こういうのは後になるほど触れにくくなるから、初っ端にぶち込んでおいたほうがいいですよね!(ただ書きたかっただけ)

  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
豚くん、マリー御大、おひさ~♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ