第一章 【00】 ブギーテイル 〜不器用な愛の物語〜
第1話 序 【00】 ブギーテイル 〜不器用な恋の物語〜
〈???視点〉
「ねぇねえママ、また『あのおはなし』を、きかせてよ~」
それは、どこにでもある光景だった。
空に昇った月が、薄雲をまとう夜半である。
灯りの消された、寝室にて。
寝台に横たわる子どもと、それを寝かしつけようとする、母親との会話である。
「もう、またあのお話? いいから寝なさい、明日は早いのよ」
「ね~ぇ~。おねがいぃ~。おねがいだからぁ~」
おねだりの笑みを浮かべながら。
服袖を掴んでくる、頑なな、我が子の抵抗に。
「……はあ。まったく」
母親は、嘆息を吐き出した。
こうなったらこの子はもう、意地でも、要求を押し通そうとするだろう。
ならば、明日の朝も早いのだから。
さっさと自分が折れてしまったほうが、時間の節約だ。
そう、割り切って。
母親は、寝台から離れていた腰を。
我が子の枕元へと、下ろした。
「少しだけですからね? ちゃんとはやく寝つきなさいよ」
「うん、わかったぁ~♪」
優しく額を、撫で付けられて。
年端も行かない幼子は、満面の笑みを浮かべている。
(ああ……なんて、可愛らしい)
愛おしい、我が子を見つめて。
頬を緩めながら、ふと母親は考えた。
(でも……私はいったいあと何年、この子の無邪気な笑顔を、こうして見守れるのでしょうねえ……?)
親が思っている以上に。
子の成長とは、早いものだ。
さらに時間は、有限であり。
子どもが子どもでいられる時間は、殊更に短い。
そう考えると……
(……この時間を、大切にしてあげないと)
自然と、湧き上がった。
親としての情愛を。
「ねぇ~ママぁ~。はやくはやくぅ~」
幼子は、露とも知らずに。
不満げな表情で、服裾を引っ張りながら。
催促を繰り返してくる。
「はいはい」
苦笑して。
母親もまた、覚悟を決めた。
(うん。どうせやるのなら手抜きじゃなくて、徹底的に、満足するまで付き合ってあげよう)
そして彼女は、ゆっくりと。
記憶の糸を、手繰ってゆく。
「えっと……この前は、どこまで話したのかしらねぇ……」
記憶を手繰る。
記録を辿る。
以前、この子に語り聞かせた物語を。
母親もまた、かつては両親にねだっていた、この世界に伝わる昔話を。
「……そうねぇ、むかしむかし、あるところに……」
幼子に、語り聴かせながら。
母親は思い出していく。
ある者はそれを、勇敢な英雄譚だと言っていた。
ある者はそれを、心踊る冒険譚だと言っていた。
ある者はそれを、数奇な悲劇譚だと言っていた。
聞く者によって、十人十色の表情を見せる。
奇妙で奇天烈な物語。
そして今、まさに。
幼子に対して物語を綴ろうとする、彼女が受けた印象とは。
多くの人々が羨むような、常人からかけ離れた英傑や。
天才たちよる、輝かしい物語などではなくて……
もっと身近で。
ありふれた。
くだらない、陳腐な。
それでいて激しく、情熱的な。
まごうことなき、『愛』の物語であった。
⚫︎
これは臆病な彼と彼女が。
これは一途な彼女と彼が。
出会うための、不器用な愛の物語……
【作者の呟き】
ということで、三度目の正直を地でいく愚かな作者による、【転生版】ブギーテイルです。
初めましての読者様はどうぞよろしく。
またお前かよいい加減にしろ、の読者様は本当に申し訳ございません。
そして両方の読者様に。
至らない拙作ではありますが、作者の好きを詰め込んだ物語なので、どうぞよろしくお願いします。
そして拙作から光るものなどを感じていただければ、ポチッと評価ボタンをひとつ、よろしくお願いいたします。
m(_ _)m