99 ポーションを作りましょう
マロンは調剤の基礎を学ぶために錬金科の教室に向かった。先日の「傷薬(軟膏薬)」を試作した。リリーの指導は的確ですごくマロンのためになっていた。マロンは寮に戻りリリーから譲られた記録帳を再度読み直した。まだ初めの方のページしかマロンには良く分からないが記録帳が貴重だと思い知った。
錬金科の女子は三人しかいない。初回から言葉を交わすようになり仲良くなることが出来た。
カーナリーは侯爵家の次女で独立心が強く自分でお店を開きたいと意欲に燃えているが、侯爵令嬢はナイフなど持つことはないので前途多難ではある。
クローレは伯爵家の次女でおっとりした性格。婚約者も決まっていて学園卒業後はすぐに婚姻する予定。両親は学園を辞め花嫁修業をしろと言われたが、学園卒業という資格は取りたいと両親、特に母親とやり合って今に至っている。
母親の考えは「夫に仕え義両親に従い後継を生むのが女の幸せ」と言うことで、彼女の姉はそれに従い同格の家に嫁いだ。姉はそれなりに幸せそうだが、クローレから見たら何か物足りなかった。淑女科の講義でも取り澄ました人たちの中に入るのが疲れるので違う自分を探す為に錬金科を受けた変わり者だ。
マロンも人のことは言えない。男爵令嬢でありながらSクラスで錬金科をステップで出来た空き時間に講義を受ける。男爵令嬢なら侍女見習いに出るか、無理して文官試験を受けるぐらいが関の山だ。それなのに初回から「B」判定の傷軟膏薬を作ることが出来た。
侯爵家のハリソンには睨まれている。身分差がある相手を睨む意味が分からない。さらに面白三人組のカーウイン、オイゲン、エアロンは子犬のようにちょっかいを掛けてくる。三人とも男爵、子爵の後継ではない。騎士として身を立てる気概はないらしい。
「マロンさん、おはよう」
「今日はポーションを作るのよね。昨日家でナイフで野菜を切り刻む練習したの。みんなが大騒ぎして困ったわ。父なんて錬金科は辞めろまで言い出したの」
「わかるわ。私も練習したのよ。刺繍はそれなりにできるのに野菜を切り刻めなかった。情けなかった。料理長に特訓をお願いしたら泣いて断られた」
二人はやる気があっても環境が許さないのは仕方がない。講義中に練習するしかないだろう。マロンは二人に袖付きのエプロンを手渡し自分で着て見せた。
「これは?」
「水が跳ねたり、薬草汁で服が汚れると着替えなければならないでしょ。これを一枚着ておけば講義の終わりにサッサっと脱いでしまえばいい。袖口を細くしてあるから腕まくりしなくても少し袖を引っ張れば水洗いも楽になるわ」
「凄い、マロンさんが・・作らないわよね」
「残念。私が作ったの」
講義が始まる前に姦しい三人娘を男子生徒たちは遠巻きにしていた。カーナリーとクロールはさっそくエプロンを身に着け「似合うかしら」「後ろのリボンを結んで」と賑やかだ。
「おっ、女子生徒はやる気が溢れているな」
「先生。男子生徒にはないですか?」
「そんなもん自分で考えろ。今日は水薬、ポーションを作る。今日まで薬師の授業になる。前回言っておいたが錬金釜を使用するにあたり自前のものを持ち込んでもらっていい。ない者は学園のものを貸し出す」
カーナリーとクロールは新しい物を購入してあるようだ。「マロンさんは?」と心配されたが、親戚から譲られた錬金釜があると話したら安心したようだ。錬金釜は特殊な釜なので安くはない。剣には鉄や鋼のを使ったものがあるが錬金釜は魔鉱石を使って作られる。安くはない。低位貴族が気やすく購入できるものではない。
錬金釜自体需要が多くないため古道具屋に売り出されていても売れ残ることが多い。売れ残れば魔鉱石を取り出す為に溶解する。錬金科では中古の錬金釜を販売しているし、2年間の貸し出しもしている。生涯錬金に携わる者以外は低位貴族では新品を購入しない。錬金科を途中で辞める者もいるからだ。
「今日作るのは回復ポーションの初級だ。手順や材料はレシピに書いてある。薬草は見分けられるようになっていると思っているから必要な数だけ棚から取り出しなさい。昨日の調剤机を使いなさい」
「先生、机が汚いです」
「それは前回自分が綺麗にしていかなかったからだ。作ったポーションは自分で飲んでもらう。よく考えて始めてくれ」
「えーー」「げっ!」と奇声が聞こえる。前から整理整頓が大事だと言っているのにどうして片付けられないんだとマロンはあきれ顔になった。
「マロンさん、自分で身の回りの事したことない男子たちだから余裕をもって見てあげて」
「お子様だからね」
「そういうものなの?」
「「そうそう」」
マロンたちは他の生徒を気にかけず三人でポーションを作り始めた。薬草をレシピ通りに準備してきれいに洗う。そのほか必要な鍋やお玉、まな板、ナイフ、目盛りの付いたビーカー、混ぜるヘラ、濾し布、ポーション瓶、清水を声を掛け合いながら実習を開始した。
ワイワイとした騒がしい声はそのうち消えていった。薬草を刻む音や道具がぶつかる音、ぐつぐつと煮だす音が教室に響くようになった。カーナリーとクロールは初回の調剤作業に比べれば随分上手になった。
「なんだか鍋の中のポーションの色が黒くなった」
「お前もか?」
「お前、清水が少なすぎだよ」
「お前煮詰めすぎだろ」
「なんか臭くないか?・・」
「「臭い」」
「こら、おまえたち匂い草を入れただろう」
「匂い草?」
「こっちがケンナ草でこっちが匂い草。違いが分かるか?」
「あっ、間違えた!」
「お前が間違えたのか・・・」
「そこの三人、薬草を切り刻むときに気が付かないところで三人ともやり直し。協力するのは良いが依存して確認しないのはダメだ。やり直せ」
「「「は~い・・」」」
薬草は隣同士に置いてあったの上に色や形が似ていたので慎重に選ばなければならない。他にもいたようで教室全体が臭くなってきた。プーランク先生が窓を開け強制換気の魔道具を作動させた。きっと毎年こんな失敗が繰り返しているんだろう。手慣れた動きを見せるプーランク先生だった。
「粗熱を取ったらお玉で掬ってポーションの瓶に漏斗を使って注いで蓋をしたらこちらで鑑定する。色は澄んだ黄緑色だ。透明度が高いほどランクが高い。まだ時間があるから作り直してよい。ただ、使った道具はきれいに洗ってからにしろよ。また失敗するからな」
失敗した生徒はバタバタと鍋などの道具を洗いポーション作りを再開した。マロンたちも時間いっぱいポーションを作ることにした。マロンたちは1回目より2回目、2回目より3回目の方が透明度の高いポーションが作れた。カーナリーとクロールは共に「D」→「Dプラス」→「C」とランクが上がっていった。
「マロンさんのおかげだわ」
「二人が努力したからよ。今回はナイフで指を切らなかったし、加熱し過ぎないのが良かったわね。エプロンも汚れていないわ」
「ほんと、全然汚れていないわ」
「流れを考え準備をしっかりしておくと慌てないから上手くいくのね」
「お茶会の準備と同じね」
「ほんと、なんにでも当てはまるのね。準備万端に憂いなしだわ」
「マロンさんは三本とも「B」だわ。凄いわ」
「お菓子を作るときは計量と手順がを守らないと失敗するの。その癖が良い方に働いたみたい」
それからはお菓子の話になり放課後、寮の食堂で小さなお茶会をすることになった。講義が終わり片付けが済んだところで寮の食堂に向かった。寮の食堂は寮生が利用するが外部の人との面会にも使われるため通学生が立ち寄ることは問題はない。
「部屋には案内できないけどここで待っていてね」
マロンは彼女たちを椅子に座らせ、部屋に戻り魔石ポットに紅茶セットにお菓子をトレーに乗せて食堂に向かった。
「よっ、お呼ばれに来たよ」
「ごちそうさまです」
「いいかな?」
賑やかな男三人、カーウイン、オイゲン、エアロンがちゃっかりカーナリーとクロールの座っているテーブルに椅子を寄せて座って居た。男子三人は仲良くポーションは3回目で「D」だった。ここに座って居るということはお茶会に参加するつもりのようだ。
「思ったより広々しているな」
「良い匂いがする。夕飯はシチューか?」
「俺たちの分のお菓子ある?」
「・・・お呼ばれしていませんよね。オイゲンさん」
「そう言うなよ。カーナリー怒るとブスになるぞ」
「貴方ね!」
「まあまあ、静かに、他の方に迷惑だぞ」
「エアロン、盗み聞きしていたのね」
どう見てもカーナリーとオイゲンは知り合いのようだ。エアロンとクロールも知り合いだ。カーウインだけが静かに様子を見ている。マロンは部屋に戻り木のカップを3個取り食堂に戻った。
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