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95 イリーシャの房飾り 

マロンたちはスネの転移で辺境の屋敷の部屋に戻ることが出来た。出かけてから半日程度の時間しか経っていなかった。


「もうだめだ。転移できない。疲れた。スネは寝る」

「スネ、洞窟に帰ろう」

「無理、もう寝た」

「いいわよ。今日はここで休んでいって。スネ疲れているところ悪いけど元の大きさに戻してくれない?」

「あっ、忘れてた。ホイッと」


スネのいい加減んな掛け声でマロンは元の大きさに戻った。リリーと過ごした時間が夢のようであった。マロンの着ている赤い薔薇のドレスが本当のことだと証明している。


「ジル、大丈夫?お屋敷消えてしまったね」

「いいんだ。形あるものはいつかは壊れると言うからね。未練や執着は持ってはいけないんだ」

「リリーは消滅覚悟だったんだね」


「家事精霊は屋敷の住人に認められない存在なんだ。その中でライだけがリリーを認め頼りにもした。だからリリーは色々頑張った。そのご褒美が進化だった。本当に珍しいことなんだ。

だからリリーはライを諦められなかった。ライを待つ長い時間がリリーを孤独にしてしまった。ジルは何度か屋敷に向かったが屋敷の門は開かなかった」


「ジルの事だからきっとリリーの元に戻ったと思った」

「リリーが屋敷に引き籠ってしまったから門が開かなかった。でもマロンのおかげで、リリーはやりたいことを沢山出来て満足したんだと思う。本当にありがとう」

「リリーはまた新しい精霊に生まれ変わるのね」

「そこんところはジルは分からない。でもリリーがまた会おうねと言ったからきっと会えるだろう。会えなくてもリリーの心が救われたからジルは満足。ジルも寝る。お腹いっぱい」


 ジルとスネ、ホワイトとユキはマロンの寝台で重なり合うようにして寝てしまった。マロンは真っ赤なドレスを着替えようとした時急に部屋の戸が開いた。


「マロン、ごめん声がしたから・・・、戻ったのか?・・すごく綺麗だ。赤も似合うんだな」

「ええと、急にいなくなってすいません」

「心配したけど思いのほか早く戻ってこれたようだな」

「はい、イリーシャ様たちは気づいていませんか?」

「大丈夫だ。知恵熱も落ち着いた」


 マロンはリリーに振り回されていたせいでイリーシャの事をすっかり忘れていた。これもリリーの不思議な力なのかもしれない。子供は興奮すると熱を出すがすぐに回復するというからカリルリルもそんなには心配していなかった。イリーシャ達と共にマロンも3日後には王都に向かう予定だ。


「エリザベスが「飾り房」をイリーシャ様に教えているみたいだが上手くいっていない様だ。手伝ってやって欲しい」

「着替えたらエリザベスのとこに行ってきます。その前にオズワルド様に報告した方がいいかしら?」

「二日も三日もいないわけではないから、半日程度だ。俺から報告しておく。詳しい話は夜にまとめてでよい。ジル達も疲れているようだな」


マロンの寝台で寝ているジル達を見て、ハリスは部屋から出て行った。「着替えなくてもいいのに」とハリスはぽつりと言葉を落とした。


マロンは急いで普段着に着替えエリザベスの所に向かった。エリザベスは明日飾り房を作る準備をしていた。糸は王様たちに渡す分は魔蜘蛛糸、そのほかの人には魔蜘蛛糸の繋ぎ糸を準備していた。


「エリザベス、手伝うことある?」

「良かった。兄から聞いて心配していたの。どうだった?」

「ジルとスネの知り合いの精霊にあったわ」

「精霊っているのね」

「居ましたよ。私の手のひら大の大きさでキラキラ光る透明の羽が背に二対あって飛び回るの。それもすごく可愛いのよ」

「それで、ジル達は喜んだ?」

「凄く喜んだわ。数百年ぶりの再会だから。精霊はもう少しで寿命が終わるところだったみたい。心置きなく生まれ変わると喜んでいた」


 エリザベスは荒唐無稽なマロンの話を真面目に聞いてくれてた。魔法がある世界だから多少のことは魔法でどうにかなる。それでも、魔法だけでは人も動物も生きてはいけない。「神々の恩恵や祝福」がこの世界を支えている。そこにはきっと精霊や妖精、聖獣が大きくかかわっているんだろうとマロンはリリーと出会えて感じた。


「リリーを救ってくれてありがとう」と最後に囁いたのは女神なのかもしれない。女神の存在を感じるなど教会関係者以外聞いたことはない。今回の事は良い経験だったと思っている。不思議な経験はマロンの人生に彩を添えることになる。


「マロン、わたしが作った房飾りにお守りの付与をお願いしたいんだけど」

「セドリック様の分ですね。心を込めて付与しますよ」

「ありがとう。だからお兄様の分をマロン作って、二人分は無理だから」

「ええ、いいわよ。婚約者ができたら作れないものね」

「まあ、・・そうなるわね」

「あと2、3年かな?今も心配かけたからお礼も兼ねて良い物を作ります」


 イリーシャの熱が収まり寝台の中でおとなしくしていない。子供は回復すればすぐに動き出す。雪遊びに出ないよう部屋で房飾りを作ることにした。王都からの侍女たちも参加した。マーガレットをはじめとする屋敷の侍女が一人に一人ついて作り方の説明をした。


「イリーシャ様、お父様とお母様にはこの糸を使いませんか?」

「金色と銀色?」

「マロンさん、見たことない糸ですが染めたのですか?」

「これは特殊個体の魔蜘蛛が作ってくれる糸です。私の知り合いの所で魔力を貰って作っているので量はないのです。色的に言って王族には良いのではないかと思ったのです」


 カリルリルはイリーシャが作るのには高価な糸なので遠慮しようとした。半面イリーシャは乗り気だ。マロンは糸代金は不要と伝えた。ホワイトの好意をお金で換算する気はなかった。


「ありがとうございます。さすがに王妃様たちが日常で身に着けるにしてもあまりみすぼらしい物は手渡せないので助かります」


 イリーシャの手作りだからと王妃がそう簡単に身に着けるわけにはいかないが、イリーシャの所に来るときに付けてくれればイリーシャは喜ぶだろう。マロンはイリーシャの房飾りを手伝うことにした。


「イリーシャ様、まずは練習用にフライ用の飾り房を作りましょう」

「フライの?」

「フライのお家に飾るのです。小さい物を作ってから大きなものに挑戦しましょう」


 イリーシャはフライのために白い糸を選び小さな手で作り始めた。なかなかうまくいかないがそれでも根気よく房の形を作っていく。糸の流れを綺麗に整えれば可愛い小さな房飾り出来上がった。


「マロン、出来た」

「綺麗に出来ましたね。最後に房の長さを整えます。ハサミを使うのでマロンが切りますね」


イリーシャは寝台横の棚に置いてあるフライの部屋(瓶)の横に持っていったが瓶からするりと落ちてしまう。マロンは細い木の棒と板で飾り房を吊るす棚を作りイリーシャと飾り付けた。満足そうにイリーシャは飾り房を降らして眺めた。


次に大きめの板に金色の糸を巻き付ける。フライより大きくするのでイリーシャは何重にも糸を巻き付ける。一つ完成させたので手際が良い。さすがに王様の分はイリーシャの力では結び目ができないのでマロンが担当する。その間に銀色の糸を巻いてもらう。マロンが小穴の開いた輝石の入った小箱の蓋を開ける。


「イリーシャ様、この中からお父様とお母様と自分の石をカリルリルさんと選んでください。房飾りを吊るす紐に取り付けます」

「きれいな石、どれがいいかな?」

「王様の目の色にしたらどうですか?」

「目の色?イリーシャはお揃いの色にしたい」


「それも良いですね。この青い石はどうでしょう。サファイアに似ています。サファイアは「慈愛」と言って相手の事を大切に思うという石言葉があります」

「お父様もお母様もイリーシャを大切にしてくれるから、イリーシャも大切にしたい」


イリーシャは青色の石を選んだ。いくつかある中から大中小の三つを選んだ。マロンはその間に金と銀の2色を使ったやや小ぶりの房飾りを仕上げて置いた。青い石を散りつけ房飾りを完成させた。


「イリーシャ様、出来上がった房飾りを手に乗せて下さい」


 マロンはイリーシャの手を自分の手で包み「願いを込めましょうね。家族が健やかでありますように」と言葉を紡いだ。出来上がった房飾りを手に持ちいつまでもイリーシャは眺めていた。窓から差し込む日差しに反射して房飾りはキラキラと輝いた。


「キラキラっしている」

「糸が光っているんですね」

「違うの房飾り全部がキラキラしてる」


 マロンの付与のせいか輝きが増したように見える。イリーシャの様な純真な子供には魔法の輝きが見えるのかもしれない。翌日には街に買い物に出かけ夜と違ったお店やカフェにより辺境の最後を楽しんだ。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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