92 ライの屋敷と家事精霊
スネの転移でジルの主の住んでいた屋敷に来ることが出来た。屋敷には可愛い小人が透明な二対の羽を羽ばたかせていた。
「リリーか?」
「リリー、懐かしい名前。なぜ知っている?子犬に知り合いはいない」
「ジル、ジルだよ」
「俺、スネ。西の森のスネ」
「ジルとスネ・・・か?随分小さくなったな」
「そう、そうだよ。ジルとスネ。小さいのは転移するため収縮の魔法を使ったからだ」
「そうなんだ。久しぶりだね。屋敷にはもう誰もいない、リリーだけ」
マロンの目の前でジルと話した女の子は急に涙をぽろぽろと流し始めた。マロンは両手を差し伸べ女の子を受け止めた。以前ジルが話した「家事精霊のリリー」、一人で主の屋敷を守った忠義の精霊。確か人にも変幻できたと言っていた。
しばらくしてリリーは泣き止み、2階の談話室に案内された。カーテンもなく古いテーブルとソファーが置いてあるだけの簡素な部屋だった。窓からは庭園だったとみられる花や木々が茂っている。マロンの横でリリーは荒れた庭園を残念そうに見ていた。
「前は綺麗に手入れされた素敵な庭園だった。モスが「妖精の花」を植えると騒いだ時は大変だった」
「そうだったな。古竜に叱られていた」ジルが答える。マロンは今は雑草の間から咲く珍しい花を見ていた。
「お茶を準備しますね」マロンの横から女性の声がした。振り向くとそこには侍女姿のリリーが立っていた。本当にリリーは人型になった。若い綺麗な女性になっていた。
「リリー、「たまごボーロ」食べたい」
「ジル、無理は言わないで。ここに人がいなくなって何百年もたってるのよ。お茶だって、魔法鞄に仕舞ってあったものを出すんだから」
「リリーさん、お茶の道具と茶葉を持っています。これを使いましょう」
マロンは魔石ポットと茶葉と茶器、お菓子を皿に出した。水を魔法で魔石ポットに注ぎ、茶器や皿は「クリーン」を掛け、人数分用意した。リリーは恐る恐る紅茶ポットにお湯を入れ茶葉を人数分プラス1匙入れた。茶葉が広がるのを待つ間にカップにお湯を入れ温める。マロンはミルクと砂糖とスプーンを取り出した。リリーは慎重に紅茶をカップに注ぎ皆に配った。
「ほんとに久しぶり、手が震えてしまった。昔はとても上手かったのよ」
「今もとても綺麗な所作です。随分練習されたのでしょう」
「ライは男爵家の奥様だったから、お客様も少しはいたの。侍女は私一人だったから色々お手伝いした」
「このお屋敷を一人で?」
リリーは懐かしむように窓から荒れた庭園を眺めていた。きっとリリーの目には綺麗に手入れされた庭園が広がって、ジルやスネと過ごしたころを思い返しているようだった。
マロンたちは薬草を採取して戻る予定が、家事精霊のリリーの登場で屋敷の中でゆったりとお茶を飲んでいる。
長い付き合いだったジルとリリーは積もる話があるようだ。スネは話より屋敷の周りを見たくてたまらないようでうずうずと落ち着きがない。
「ジルは何処まで旅に出たの?」
「あれから国をぐるっと回って、森の奥の火竜に会いに行った。そこでしばらく暮らした」
「戻ってくるかと待っていたのに」
「えーー、そんな事言わなかったじゃないか」
リリーとジルはお互い離れていた間の話をしている。マロンは荒れた庭に何かが揺れているのが見えた。
「スネ、あそこの木の所にある物はなに?ゆらゆら揺れている」
「あれは、ブランコだ!行こう」
スネはマロンを連れて庭園に出た。スネは枯れ枝や雑草を収納しながらマロンが歩きやすいように道を作った。大きな木に長いロープに板がついている。
「マロン見てて。ここに座ってロープにつかまる。マロン、スネの背中を押したらすぐに離れて」
「こんな風に?」
「もっと強く」
「怖くないの?」
「マロン風魔法出来る?」
「ええ、強風は出来ないわよ」
マロンはスネの背に風を勢いよく当てた。スネと共にブランコは大きく上がり空に飛び出しそうだった。スネは「わーー、やったー、凄い凄い」と騒いでいる。スネは森守りの勉強と修行でこの庭の「遊具」であまり遊べなかったと話した。
スネは今でもジルに比べれば幼い子供子供したところがある。これは生涯変わらない性格なんだろう。それはそれで素直で可愛い。たた、思いつくと後先考えないところがある。これはジルが補うとこだろう。スネはブランコで揺れながらジルは2階の窓際にいるリリーに声を掛ける。リリーはスネの方を見
た。
「リリー、モスの薬草畑の薬草貰ってもいいかな?」
「何をするの?」
「マロンのために辺境で薬草を育てようかと思っているんだ」
「マロンは薬師なの?」
「違うよ。ジルがマロンに錬金釜渡したからいずれ使うだろうと言った」
「ライさんの錬金釜や本をお借りしたので学ぼうと思っています」
リリーは封印したライの工房からスネが錬金の道具を持ち出したことに驚いた。
「ええーー、工房の封印が綻んでいた?」
「うん、俺が来た時工房に入れたよ。スネ、ライのものが壊れるの嫌だから持ち出した」
「気が付かなかった。リリーはおばあさんになった」
「とっくにおばあさんだろう。2000才越してるだろ」
「レディーに失礼な」
「2000才?・・・」マロンは綺麗な侍女姿のリリーをまじまじ見た。
「マロン、精霊や妖精は年を数えない。寿命が来れば自然に消えて、新しい精霊や妖精が生まれるんだ」
「ユキも2000才生きてくれる?」
「ユキは分からない。「ケサランパサラン」の終わりを見たことがない」
「ごめん」
「謝らないで。だからユキは今を大切に過ごす。マロンといるのが今は楽しい」
人の寿命も誰にもわからない。いずれは死ぬんだと分かっていても、マロンだってそんなこと気にかけたことなどない。ずっと一人で生きてきたからこそユキは今を楽しむ。
「ユキの考えは素敵ね。今を大事に出来ない人はきっと未来も大事にしない。さびしい未来が待っているかもしれないね」
リリーが突然2階のベランダから飛び降りてきた。マロンはリリーが精霊だと分かっていても人型だから思わず「あぶない」と叫んで駆け寄った。
「リリー怪我したらどうするの。2階から飛び降りたりしないで心臓に悪いわ」
「リリーは怪我しない。精霊は空を飛べる。でも心配してくれてありがとう。マロンは優しい。薬師になるのか?」
「薬師の試験は難しいと思う。辺境の人達の手荒れや、健康維持に効果ある食べ物や薬みたいなものが作れたらと思っています。学園の担任が錬金薬学の講師なので相談しようかと思っています」
「ライのレシピをリリー知っている」
「ライさんの個人的レシピは貴重ですから知りたいですけど、それはいけないことだと思います」
「どうして?」
「特許として商業ギルドに登録してあるはずです」
「マロン、数百年前の登録など拘束力などないだろう」ぼそりとユキが囁く。
「そ、そうなの?」
「外の世界はどう変わっているかは分からないけど、リリーには関係ない」
「えっ、「女神に愛された国」はなくなったの?」
リリーは可愛い顔を横に倒した。マロンの言っていることが分からない様だ。マロンは自分がエディン国から来たことを話した。リリーはマロンの住んでいる国を知らない。リリーはライがいた屋敷を壊される前に森に吸収した?と話した。
「リリー、マロンは凄く遠い所に住んでいる。ライの住んでいた国は「女神に愛された国」と言い伝えられている。リリー、ライがいなくなってからすごー―――く長い時が流れているんだ」
「リリーは分からない。ライが生まれ変わるの待っている」
「リリー、女神が言ったのか?」
「女神は屋敷の引っ越し手伝ったけど、ライの事は何も言わない。だけどライは何度も生まれ返っているからリリーは会えるはず」
可愛い侍女の精霊は数百年主の転生を待っている。ジルでさえ心の中で主を忘れられないでいた。屋敷を守りながら一人でここに暮らしていたのかと思うとリリーを抱きしめたくなる。
「リリー、女神は転生は秘密だから教えないと言っただろう」
「ライはリリーに会いに来る。絶対。ジルだって待っていたでしょ」
「待ちくたびれて旅に出たけど、ライの生まれ変わりには会えなかった」
「ジルはお馬鹿さん。ライの生まれ変わりは人の世界にいるから森の中ばかりのジルには見つからない」
「そうだけど、俺が街に出たら討伐されちゃうからな」
「リリーは屋敷から離れられない。お互いライの生まれ変わりには会えない?」
「スネが思うに、ライはたまたま前世の記憶が残っていたから特別なんだ。みんな記憶は消されるって言ってたよ」
暗い雰囲気になりかけたのでマロンは薬草畑を見せてもらうことにした。リリーは庭の担当ではないので好きに持って行ってよい言いながら薬草畑だった場所でマロンに薬草の説明を始めた。リリーは手慣れた様子で雑草を引き抜き隠れている薬草を手に取った。
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