88 辺境に雪が降る 5
早めに軽食を取ったイリーシャ達が玄関に早く出かけたいと待っていた。エリザベスとセドリックは二人で参加する。
「あれ?エリ、お兄さんとお揃いのマフラーしてる」
「セドリックさんはマフラーがないからエリザベスのを貸してあげたの」
「仲良しさんだね。イリはカリルリルとお揃いの手袋なの。いいでしょ」
何気ないイリーシャの言葉はエリザベスとセドリックの顔を赤くし、オズワルドの機嫌を悪くした。二人はオズワルドから交際の許可を貰ったようだ。婚約は正式にローライル家当主から申し込みがあってからのようだ。
高台の屋敷から馬車で街前の馬車置き場に向かう。さすがに屋敷から街までイリーシャの足ではたどり着けない。王都の侍女達もそれほど体力はない。屋敷からゆっくり馬車は街に向かう。両脇の木々に積もった雪が風でさらさらと舞い落ちている。
「雪が降っているみたい」
本来は灯りなど灯さないが、慣れぬ雪道で困らぬように屋敷から街に向かう道にも魔石ランプを木々に吊り下げている。その灯りに照らされた雪は木々の暗闇の中でキラキラと舞っていた。
馬車置き場からはイリーシャたちと共に辺境の街ぶらぶらと「宵の雪歩き」を始めた。オズワルドがいざとなったらイリーシャを抱きかかえて移動できるようイリーシャの横をカリルリルと共に歩く。その後ろにマロンとハリス、さらに後ろにエリザベス達が歩きその後ろには王都組の騎士や侍女が参加している。
街の中心の道路の両脇には店が並んでいる。その前には大きな雪像一つとそれより小さい雪像が幾つか並び蝋燭の灯った祠が作られていた。店に明かりはすべて消されている。
「大きいあれは?」
「あれは大兎です」
「あそこのは?」
「あれは大熊、小さいのは子供達ですね」
「人形がある」
「あれは頭に王冠が乗っているので「雪の王」ですね」
「あの星と同じ?」
「雪の王は寒い冬を連れてくるのです。雪がこんなに沢山積もるのはそのせいです。誰も雪の王を見たことはないですが、国王様を見本にしているのかもしれません。あそこにも王冠の人形がいるでしょ」
「お父様?いっぱいいる」
「雪の王は人気者なんです。小さいのは雪の王の子供達です。王子様やイリーシャ様ですね」
イリーシャは左右の雪像を眺めては楽しそうにカリルリルの手を握っている。マロンとハリスはイリーシャのすぐ後ろを歩き街の様子を説明していた。
オズワルドは有事の際はイリーシャを抱え避難するためイリーシャの横を歩く。普段から「宵の雪歩き」の期間は街の警備を手厚くしているので心配はないが、最近は観光目的の人が増えたので気を付けるに越したことはない。
「エリと一緒。マフラーしてる」
「そうですね。あそこには帽子をかぶっています。手袋もありますね」
「エリと同じ仲良しさんなんだ」
エリザベスとセドリックは同じ色のマフラーをしている。エリザベスの手作り。やっとオズワルドの許可を貰ったセドリックは堂々とエリザベスと並んで歩いている。時折りオズワルドが振り返る視線の先には仲良く雪像を見てる二人がいる。
街の雪像は道の左右に並んでいる。小さな雪像や大きく立派な雪像が並んでいる。蠟燭を立てる祠は雪像の間に作られ、もう蝋燭に火が灯っていた。
まだ日が暮れていないので子供連れが多いようだ。雪像に番号が付いているものがあった。商業ギルドが、雪像の人気投票を計画した。上位者には何か賞品が送られることになっている。 遊びの雪像から本格的なものに移行したようで見る側も楽しみが増えた。
街の本通りと交差する道にも小さな雪像が並んでいる。それぞれの家族が作った物らしく形は歪だが味わいがある。マロンの作った雪玉を2個積んだ雪像も並んでいる。家から漏れる灯りと共に小道は温かな彩りがなされていた。所々の広場で屋台が店を開き椅子とテーブルが準備されていた。
「あそこのお店はなに?」
「あれは「薄焼きパン」にいろいろな物を包んで食べます。甘い果物から野菜やお肉までお客様の希望でその場で作ってくれます」
「美味しい?」
「素朴な薄焼きパンですが美味しいですよ。お店の上の旗が赤いのはお酒の飲み物、水色がお酒以外の飲み物。黄色い旗がお菓子などの甘い物、子供や女性向けですね。青いのが軽食やおつまみです。それぞれ買って家に帰って家族と食べたり、広場の椅子で食べたりします」
「ここで休憩に入る。屋台の上の旗について説明する。赤い旗はお酒を含む飲み物、青い旗はお酒でない飲み物。黄色い旗は軽食。白い旗はお菓子などの甘い物だ。一応目安だ。お酒は我慢してくれ。
屋敷に戻れば兵舎の横の「男の雪小屋」で飲んでよい。屋台飯は持ち帰りもできるから先に言えば包んでくれる。王都の侍女は必ず騎士と共に買い物に出てくれ。迷子になったら困るからな。
お土産などは明日以降天気の良い昼間街に出向くから今日は我慢してくれ。2刻ほど時間を与える。解散」
「「「おー」」」掛け声とともにお目当ての屋台に向かっていく。お祭りと言う解放感かとても良い反応が返ってくる。オズワルドの話に笑い声が出たのち、王都組はカリルリルの許可を貰い買い物に出かけた。
「イリーシャ様も一緒に屋台を見てきましょう」
背の高いオズワルドに抱きかかえられイリーシャはいつもと違い人の頭を見下ろしていた。人の出が良いので屋台の店をじっくりと見ることは出来なくてもイリーシャはとても喜んでいた。
マロンやエリザベス、ハリスが屋台を回って色々購入してきた。マロンはイリーシャが食べれる物を多く選んだ。イリーシャの目の前には温かいミルク、果実水、サンドイッチ、薄焼きパンのフルーツ巻き、野菜とお肉巻き、肉の串焼き、鶏のから揚げ、芋のフライなどテーブルにいっぱいになった。
「すごい!イリこんなに食べれない」
「イリーシャ様、ここは街中です。庶民は食べ物を家族で分け合って食べるのです」
「少しずつ食べて残しても良いの?」
「食べ残すのでなくみんなで分け合って食べる。一緒に食べる仲間の事を考えて、こんな風に取り皿に食べたい物を食べれるだけ取り分けます」
マロンは自分の皿にサンドイッチとから揚げ1個肉の串焼きに果実水を取り分けた。イリーシャはカリルリルが代わりに希望のものを聞き皿にのせた。カリルリルはイリーシャの手を拭く。
マロンは添えられた紙を使い手でサンドイッチを摘まむとそのまま一口で食べた。イリーシャが紙を上手く使えず困っている横で、ハリスが指でサンドイッチを摘まみ口に入れた。さらにから揚げも食べ始めた。
イリーシャはハリスの食べっぷりを見ながら小さな指でから揚げを摘まみ齧り付いた。慌てたカリルリルを制したのはオズワルドだった。
「今夜は「宵の雪歩き」不作法を咎める者はいない。こんな経験は今回限りだ。許してあげても良いのではないか」
一瞬思案顔になったカリルリルは「美味しいですね」とイリーシャに声を掛けながら串焼きを指で摘まみ口に入れた。イリーシャは嬉しそうに笑った。他の騎士や侍女たちも真似をして食べ始めた。
最後に薄焼きパンのフルーツ巻きをイリーシャはがぶりと噛みついた。白いクリームが口の横から溢れてきた。慌ててクリームが落ちないようにカリルリルは皿を口元に差し出した。イリーシャはぺろりと可愛い舌を出して舐めとった。
「落ちなかったでしょ」
「今回だけですよ」
「カリルリルさんも食べてみてください」マロンがクリームのたっぷり入ったフルーツ巻きをお皿に乗せ手渡した。カリルリルは上品に口を開くもクリームばかりでフルーツが口にできずつい大口で齧り付いたらイリーシャと同じように口の横からクリームが溢れた。
「カリルリル、ぺろりとすると美味しいよ」
イリーシャの助言にカリルリルは恥ずかしそうに手で口元を隠し「ぺろり」をしたようだ。さすがに上位侍女官何をしても品がある。山盛りに会ったテーブルの料理はなくなり、来た時と違う道で馬車置き場に向かう。
お読み頂きありがとうございます。
読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!
誤字脱字報告感謝です (^o^)




