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83 辺境に雪が降る 1

 イリーシャたちが辺境についた翌日から雪が降り始めた。高台の屋敷から雪に覆われた市街が一望できる。そろそろ雪小屋の作成が始まる。今では恒例行事になり、兵士や騎士たちも訓練を兼ね街中に雪小屋や雪像を作り始めた。


 街の人々も道路の雪かきをしながら道路横に配布された蝋燭を置く雪の祠を作り始める。まあるい祠もあるが四角いもの、2階建て、動物の形と凝っている。ただ一つの決まりは雪だけで作ることなので、子供でも大丈夫。


 最近ではこの雪の中、夜の散歩「宵の雪歩き」を目的に辺境に来る人もでてきた。真っ白な雪の中、道路の左右に並ぶ雪の祠から漏れる明かりが雪像を照らし幻想的な風景を見ることができる。


 さらに街の各広場には屋台ができ、お酒や温かな飲食ができるようになっている。雪小屋には子供の遊ぶ玩具が置いてある。家族で一休みするのには困らない。大人も子供も楽しむことができる。


「宵の雪歩き」中は兵士や騎士が街の警備に出ているので、治安はもとから問題ないが、外からの人の移動に対応している。まあ、この大雪のなか辺境まで出向くもの好きはそうもいないとオズワルドは思っていたが、商業ギルドからの収益を聞いて驚いてしまった。マロンの作った雪小屋から始まった「宵の雪歩き」が辺境の人の楽しみであり、観光業にも役立っている。


「イリーシャ様、昨夜は良く眠れましたか?」

「エリ、ミミがいるから大丈夫。それに温かなひざ掛けをお布団の中に入れたらすごく気持ちよかった」

「ミミとは何ですか?」

「ミミはマロンが作ってくれた妖精の猫なの。夜たまにお話ししてくれるの」

「妖精の猫?」


 イリーシャはエリザベスにマロンが話した少年と妖精猫の話を一生懸命話した。エリザベスは初めて聞く話で驚いていた。エリザベスはマロンの方を見た。


「ジルの持っていた絵本の話なの」

「ジルは絵本も持っていたの?」

「「淀み」がホワイトのおかげで少しずつ浄化されてきたおかげで、昔のことを思い出してきているみたい」


「ジル?」

「あっ、マロン任せた」


 エリザベスは失言の訂正をマロンに向けた。ジルのことをどう伝えるかは難しい。王妃様に伝われば大きな問題になる。


「ジルはね。ミミの友達なの。明日ジルを連れてくるね」

「マロン、そんな事言って大丈夫なの?」

「まかせて、イリーシャ様はこれからお勉強ですね。私達もお部屋で勉強してくるわね」


 朝食後のお茶が済んだら、イリーシャのお勉強の時間になっている。移動中はお休みしていたので朝食後から昼前までカリルリル先生の授業がある。楽しすぎると王都に戻ってから元の生活に戻れなくなるらしい。


 マロンもエリザベスもそれに倣って後期試験に向けての勉強をすることにした。3才児が勉強しているのにお姉さん達が遊んでいては示しがつかない。マロンは魔法陣の単位は取れているので、経済の歴史に取り掛かる。小難しい聞きなれない専門用語に悪戦苦闘している。


 お昼はイリーシャとカリルリル、マロンとエリザベスで軽食の「黄金のパン」を食べた。食事用にアイスは付けない。イリーシャとカリルリルは大変喜んでくれた。そして4人で談話室で「木札遊び」をすることにした。


 イリーシャは新しい木札の遊具に夢中になった。字や数字は習い始めているので「色合わせ」をしたり「魔物引き」をカリルリルの手伝いで遊び始める。エリザベスとマロンは忖度しない。なんでも素直に顔に出るイリーシャは「魔物引き」は不利だった。


「イリーシャ様、わたくしカリルリルが、イリーシャ様の代わりに勝って見せます」


 イリーシャはカリルリルに声援を送り「魔物引き」に挑戦した。さすがに顔色一つ変えずに始める姿はマロンが最初に出会った時のままだった。


「イリーシャ様、勝ちました」

「凄い、カリルリル凄い」

「イリーシャ様、この遊びは「魔物カード」が来てもガッカリしたり「魔物カード」がとられても嬉しい顔をしてはいけません。誰にも顔の表情が分からないように我慢する遊びのようです」


「えっ、そうだけどそうではないと思いますよ」困ったエリザベスがマロンを見る。

「イリーシャさま、勝つための作戦です。他に「魔物カード」引いてしまったら相手にどうひかせるか考えるのが大切です。エリザベスは良く右端の2枚目を引きます。そこに何げなく置くと引いてくれます」


「マロン、私そんな癖ありましたか?」

「あります。それに相手がカードを選んでいるときに「魔物カード」のある場所を知られてはいけません。「魔物カード」を目で追っていると相手に分かります。たかが遊びですが、なかなか奥が深いです。でもこれは楽しく遊ぶものです。上手に同じ数字のカードを捨てることができましたね。数字を覚えるともっと楽しく遊べますよ」


「マロン、イリーシャ様が固まってるよ。説明が難しい。イリーシャ様、楽しく遊びましょう。そのうち勝てるようになりますよ」


 どんな遊具も遊び方は色々ある。最後は楽しかったと笑えればいい。今日のおやつは「ふわふわプリン」エリザベスの大好物だ。イリーシャとカリルリルが喜んだ。もちろん厨房長が王都の侍女にも出してくれていた。


 夕飯後はイリーシャは直ぐに眠くなりお風呂に入り就寝した。さすがに長い馬車の旅、見るもの聞くもの新しく珍しいものばかりで興奮していた。疲れは大人と違って遅くに現れたようだ。ハリスはイリーシャと遊べるかと楽しみにしていたようだが仕方ないと残念がっていた。その代わり「ふわふわプリン」で心を癒していた。


 辺境伯家では久しぶりの幼子、王女とはいえとても素直で可愛い子供。誰もがイリーシャに目にかけていた。あるものはトレーに兎の雪像を作りお部屋に届けた。すごく喜んだが暖かい部屋ではすぐ溶けてしまう。次に毛糸で兎を作り届けた。白い兎から赤い兎、黄色い兎と毎日増えていった。


 イリーシャはフライのおうちの横に色とりどりの兎を並べた。その横にはマロンの作った白い犬ジルとユキとフライを並べることになっていた。マロンは白の羊毛でジルとホワイトを作り始めた。辺境に戻ってきたがイリーシャのお世話でまだジルの所に行けていない。


 ユキはマロンの事情を理解しているのか「行けないのは仕方ない。おじいさん連中もしばらく行ってないらしい。雪掻きや魔物狩りで忙しいいからな」とジルを作るのを眺めていた。


「イリーシャ様の事をエリザベスに頼んで一日ぐらいジルの所でゆっくりしましょう。「加温布団」も届けたいしね。ユキは転移でジルの所にお泊りしていいわよ」

「それも考えたんだが、屋敷のことも心配だからな。ホワイトには屋敷に帰っていることは伝えてある。ジルの古い友達が来ているようなことを言ってたな」

「もしかして、ジルと同じくらい大きい?洞窟壊れてないかしら?」

「分からん。じいさん達も知らないらしいぞ」


 大事にならなければいいけど、ジルが住んでいる以上何かしら影響が出ると思っていたが、まさか古い友達が現れるとは驚きだ。ジルがフェンリルなら友達はどんな聖獣かとマロンとユキは想像し合った。


「あーー!大きな雪が降ってきた」


 あの声はイリーシャだ。マロンは慌てて窓の外を見た。マロンは真っ白な雪の積もる庭にうずもれる小型のジルを見つけた。ここに居るはずがないのにと慌ててマントを羽織り部屋を飛び出し庭に出る。


「ジル、そのまま雪にうずもれていて」頷くジル。遠目には白白なのでジルだと認識できない。


「イリーシャ様、こんなに大きな雪が降ってきました」

マロンは近くの雪を集めジルの大きさの雪玉を作りイリーシャに掲げて見せた。


「マロンさん、大きな雪玉を窓から投げたのですか?」

「カリルリル先生、驚かしてすいません。イリーシャ様は外の雪を眺めていたので、驚かそうと思い大きな雪玉を投げました。イリーシャ様、あと少し勉強頑張りましょう。お昼の後は雪で大きなミミを作りましょう」

「ほんとに?」

「ほんとですよ。馬車の疲れも取れたでしょうから、温かくしてお外で遊びましょう」


 マロンはどうにか誤魔化しイリーシャのいる窓から見えないよう背を向けマントに隠しながらジルを抱えマロンの部屋に戻った。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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