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81 オズワルドの思い

 ハリスは随分大人になったようだ。妻のことも辺境のことも受け入れ鍛錬を積んでいる。5年ほど王都に残りたいといった時は誰か好きな子ができたかと聞いてしまった。


「父上とは違います。エリザベスは辺境にはきっと戻らない。それならエリザベスが嫁ぐ相手を見定めてから戻ろうと思ったのです。父上まだ代替わりは早いですよ。再婚されてもよいですが、エリザベスが嫁いでからにしてください」分かったように大人ぶった答えをするハリスが頼もしく見える。


「再婚などしない」

「お好きに」


 生意気な口を開くが、辺境の騎士や兵士ともよい関係を築いている。森守りのジルのこともあるのでハリスには次代を背負ってもらわなければならない。5年や10年好きにすればいいと思っているが口にはしない。


 デビュタントの時、遠目で見てもハリスとエリザベスはとても華やいで見えた。友人のローライル家の兄の方と楽しそうに話している。エリザベスとその妹も同級生ということで、華やかな一団になっていた。ハリスが俺の方を見てエリザベスに何か囁いた。エリザベスは周りに挨拶し俺のもとに戻ってきた。


「お父様遅くなりました」

「レディー、後でダンス踊っていただけませんか」


 ハリスと初めてのダンスを踊る予定なので、2番目は誰にも譲れない。俺の言葉にエリザベスは思わず破顔した。まだまだ可愛い娘でいてくれるようで安心した。


 せっかくのハリスのデビュタントに参加してエリザベスと待望のダンス待ちをしていたオズワルドはあちこちから声を掛けられ挨拶に回り、普段会えない者たちと社交にいそしんでいた。


 その中、ユキがマロンが王族かもしれない女の子を保護したと耳元でささやいた。思わず持っていたワインを零しそうになった。急いで皆に挨拶を済ませ何食わぬ顔でロビーに向かい、身体強化をかけてベランダから1階に飛び降り控室の並ぶ廊下を走った。


 控室のドアを開ければ見たことのない女の子がいた。侍女に護衛付きの身ぎれいな女の子、デビュタントの家族と願ったがそうではなかった。なぜ王の側妃を希望したノーリア姫がウイルと子をなした。さらにその子を捨てて自国に戻り他国に嫁に行く。


側妃教育が終わらぬうちに自国に勝手に戻ったことで、聖国との国際問題にならなかったことで一安心していた。それなのにこんなところに火種を残すとは誰も思わない。


せっかくのデビュタント、娘と踊る機会が失われた。まだまだハリスには荷の重いことが多すぎる。俺にはエリザベスの婿を殴る機会も待っている。オズワルドはもう少しハリスに時間を与えることにした。


 イリーシャのことを王妃が受け入れてくれたことでオズワルドは辺境に戻った。今回のデビュタントのために王都に臨時で向かった。父がセバスと共に留守を守っていてくれているのでこんなこともできている。聖獣ジルのおかげか、魔物の被害が少ないことにも助けられていた。


 そんな時には違う事件が起きる。王からイリーシャ様の受け入れの依頼が来た。我が屋敷には女主人がいない。セバスの妻のマーガレットが家政婦長として家令と共に女主人の仕事を受け持ってくれている。


 お断りしたいが、7才のお披露目前に外に出してやりたいから事情を知っている俺に頼みたいと伝えてきた。王妃からは王女の統括侍女長からマロンの助けを借りたいと伝えてきた。マロンは何をやっているんだ。こちらは何も聞いていない。


 慌てて、ハリスに連絡を取れば、数回マロンが王女の所に訪問していると伝えてきた。ここまで来たら受け入れるしかない。辺境の主な者たちと話し合いをした。


 病弱だった王女が回復されたきっかけにマロンが関わっている。マロンが冬の休みに辺境に帰るのに合わせて、王女に王宮の外の世界を見せたい。と簡単に説明した。


「マロンか・・さもあらん」

   

 誰もがなんとなく納得した。断れない要請なら真摯に対応するしかない。子供達も一緒に帰ってくる。王女のお世話は侍女が付いてくるから侍女を含め王女の部屋の準備。厨房では王女の食事の献立を考えてもらう。護衛騎士は屋敷1階を使ってもらう。セバスに対応を任せる。


 マーガレットには統括侍女長と話し合って、注意事項や行事などを計画してもらわなければならない。子供たちは子供同士で上手くやってくれるだろう。


 王女の送迎に問題があってはならない。雪の季節はまだ本番ではないが慣れぬ王宮騎士のことも心配しなければならない。全員辺境で護衛をしたいがそうはいかない。王宮側の面子もあるだろう。

王女に敵対する勢力がないのが一番の安心だ。ウイルの事はばれてはいない。王妃様様だ。


 第三王子のレイモンドあたりが面白がって参加しそうだが、今回は諦めてもらおう。王妃に釘をさしておく必要がある。


 ハリスは来年春卒業後王都の騎士団に入る。本来ならこの冬は辺境に戻らず騎士団の訓練に入る予定だが、今回は王女の護衛に参加してもらう。護衛をしながら旅をする経験はなかなかできない。人を守る難しさを経験してもらおう。


 ハリスに連絡を入れれば、ハリスの友人のローライル家のセドリックが辺境の護衛に参加したいと言って来た。氷の魔法使いだから役に立つとハリスは言った。セドリックは次期当主、辺境を知るのも良いことかと了承した。


  セドリックはしっかり馬に乗ることができるよう訓練を重ねたようで、今回のようなゆっくりな日程では問題なくついてこれていた。宿も騎士と同じ一般部屋でも文句など言ってこなかった。ハリスとは仲が良いのは知っていたが時々エリザベスと話をしているのを見かける。もちろんその横にはハリスかマロンが必ずいる。


 俺の深読みかセドリックはエリザベスのことを憎からず思っているように見える。ハリスに問えば、セドリックはマロンを狙っているのではないかと言い出した。


 ハリス、お前はあれだけマロンを気をかけていたのはエリザベスと同じ「妹」と思っていたせいか?若い者の青春模様は良く分からない。


 オズワルドの頃は釣書で身分と家の利益関係で婚約や婚姻はほぼ決まる。もちろん素行調査はする。辺境以外の貴族ならそれでも良いが、辺境は王都ほど便利でも安全でもない。夫の留守をしっかり守ってくれる令嬢でなければならない。


 失敗している俺が言うのも可笑しいが、身分以上のものが求められる。俺の妻だって良い妻だったはずだが、王都の華やかな生活が忘れられなかった。まあ、貴族令嬢で華やかな生活がしたくない者など殆どいないだろう。


 ハリスはエリザベスの婚姻までは王都にいると言っていたが、エリザベスの面倒を見るより自分の嫁を見つけてきてもらいたい。父もそうだが、辺境の嫁はなかなか見つからない。同じ領地内でぐるぐる嫁を貰うのも血が濃くなりすぎる。


まあ、ハリスの嫁がいなければ親戚の子供でも養子にしてもいいかもしれない。そんなことを考えていたら魔物が出てきた。父が辺境に至る街道を除雪しながら魔物狩りをしてくれていたので、大きな魔物は出てこない。


 ハリスは慣れたもので魔物に向かっていったが、セドリックは初めての狼の魔物に驚いていた。それでも逃げることなく馬車を守る位置に立ち、魔法の詠唱を始めていた。見どころがありそうだ。ハリスは我先に前に出るタイプだが、それでは辺境伯としては失格だ。今はまだここで指揮を執る俺がいるが、俺がいなければ全体を見て指揮を散る必要がある。


 ハリスと辺境の騎士が簡単に魔物を片付けた。王都からの騎士は唖然としていた。生涯で魔物など見ることはないだろうから、驚きで体が動かなかったようだ。夜にハリスに忠告をしないといけない。

そろそろ全体を見る癖をつけないと団体行動がとれず、騎士団から弾かれる。王都の騎士団は辺境のやり方とは違う。オズワルドも騎士団にいたが、辺境との違いに戸惑ったものだ。息子の姿に己を重ねた。


 王女を連れた辺境への旅は概ね良好だった。娘たちが王女の馬車に乗り込んでからはなおさら楽しげにしている王女を見ることができた。揺れる馬車内でお茶を飲んだり玩具で遊んだりと日常と違う出来事に王女を含め王都組は楽しんでいるようだった。


 野外に雪が見られるようになった頃にマロンが温かな膝掛けを配布していた。マロンが作ったと言っていたがとても暖かそうで羨ましくなってしまった。以前よりマロンは色々なものを考案しては製品化している。そのお陰で辺境の産業が盛り上がりを見せている。


 領地についたら少しマロンに相談に乗ってもらおう。冬の討伐の助けになる温かな服でも作ってくれないか頼んでみよう。幼い王女の良い思い出になる旅になることが優先になるが、娘たちともゆっくりしたい。しかし、マロンに防寒着の相談をするどころでないことがオズワルドを待っていた。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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