80 イリーシャは辺境に行きたい
エリザベスからマロンはイリーシャが辺境に向かうことを告げられた。
「王女様が辺境に向かうみたいよ」
「えっ、王女様が?」
「お兄様の所に父から、王女の迎えに向かうと連絡があったの」
「もしかして冬の長期休暇に合わせて?」
「そうなるのかな?マロンは今年も帰るつもりでしょ?」
「ええ、エリザベスも帰ると言っていたから同じ馬車でと思っていたわ」
「王女に辺境に帰ると話した?」エリザベスがマロンを伺うよう。
「・・・・」
「やっぱり、マロンのせいね」
さすがに3才の王女が辺境に出向くなどマロンは信じられない。侍女長が許さないし、王妃だって許さないはず。イリーシャが我が儘を言ったのか?我儘で通る話ではないと思うが、辺境からオズワルドが来るということは正式に決まったことのようだ。マロンは自分の言葉に責任を感じた。
「どうしよう?」
「もう決まったことだもの、マロンのせいではないわ。父が辺境から護衛も連れてくるし、王女は王宮から馬車が出るから、王女のお世話は屋敷に帰ってからかな?」
エリザベスの話では、辺境の屋敷で年末年始を過ごし王都に帰ることになっている。今年は王女に合わせゆっくり辺境に向かうことになる。マロンは寒さ除けの加温膝掛けを増やしておくことにした。
冬休み直前にエリーナがエリザベスに声を掛けた。
「エリザベスさん、兄が辺境に行くこと知っています?」
「えっ、どうして?」
「やっぱり知らないんだ。何かハリスさんと相談して今回向かうようなんだけどエリザベスさんは聞いていないんだ」
「聞いていません。でも兄と仲が良いので辺境に行ってみたくなったのでは?」
「・・・・マロンさんと同じですね」
「「えっ、どういうこと?」」
「兄にしっかり言っておかないと良い結果は得られない。困ったものね」
エリーナの思わせぶりな話に疑問は持ったが、突然の王宮からの呼び出しでマロンはそれどころでなくなった。王宮に出向いて見れば、カリルリルさんからの呼び出しだった。
「イリーシャ様を含め冬の辺境に出向くのに特別必要なものはありますか?」
旅の準備の相談だった。マロンは冬の辺境領の事を思い浮かべながら、防寒着や防寒靴、手袋に帽子、馬車内での軽食や飲み物などの説明をした。
「ところで、王女様はどうして辺境に行くことを希望されたのですか?」
「それなんですが、マロンさんが辺境に帰る話からだと思います」
「申し訳ありません」思わず頭を下げた。
「いいえ、良かったのです。イリーシャ様は王宮から一度も外に出たことがありません。王族なら避暑地に出向くこともあるのですが、使用人部屋で過ごしていましたから、外を知らないのです。今回自ら出かけたいと言われたのです。いずれは降嫁されます。この経験が良い結果に結びつくのではないかと思っています」
「学園に入る前から先の事を考えているのですね」
「イリーシャ様はお生まれの関係で、国外に出ることはありません。だからこそ、少しずつ国内のことも知っていただきたいのです。マロンさんがいていただけるので心強いです」
「宿などの手続きは?」
「すべて辺境伯が手続きしてくださいました。本当に頼りになる方です」
マロンはタウンハウスの料理長に軽食と果実水、お菓子を多めにお願いした。魔石ポットも持ち帰る。やや高価なティーセットも数個そろえて置いた。いつも使うコップでは失礼に当たるかもしれない。商業ギルドカードにあるお金で十分買うことが出来た。
上着の下に加温の布で服を作ることにした。長い布を半分に折り、頭を通す穴をあける両端に紐を通して体型に合わせ結べるようにしておけば誰でも使える。不測の事態で野宿になった時に使えばよい。
王都の暮らしに慣れているものは寒さが辛いだろうし、体調を崩しやすい。あとは耳当てもいるかもしれない。考えれば次から次と思いつく。辺境伯は男性だから、移動の警護の事ばかりで、女性に対する心配りは少なさそうだ。義母が頑張ってくれていると思うと過労が心配だ。マロンは出来る限りお手伝いをすることにした。
「マロン、フライが夜来たんだけど、イリはとても楽しみにしているらしい。王宮でも7歳のお披露目をしてしまえば、王族としての務め、公務が始まる。その前に自由な旅をさせてあげたいと王と王妃が許可した。それに事情の知っている辺境伯だからなお安心とのことだ。マロンの一言は大いに影響あるが、よその貴族の所に出かけるより安全だ。フライも喜んでる。フライもイリ一人残して辺境に帰れなかったようだ」
晩秋の王都を辺境に向けて、イリーシャとカリルリルを含む侍女5名と女性騎士1名を含む10人の護衛が2台の馬車と騎馬で王宮を出発した。エリザベスとマロンはいつもの馬車に乗り、セドリックとハリスが騎馬でタウンハウスを出立した。王都の城壁門で、オズワルドを含む護衛たちと落ち合い辺境に向かった。
「さすがに王家の紋章は付けていないわね」
「王族いますはまずいわ」
「馬車の中には女性騎士が同乗している。大人ばかりで王女は飽きないかしら?」
「そんなことを言うと声がかかるわよ。エリザベスは良いけど、私より皆身分が高い方ばかりで私は気後れしてしまうわ」
「マロンはダメ出しのオンパレードしたほどなのに?」
護衛の騎馬騎士に守られ3台の馬車は順調に辺境に向かう。初日は早めに宿に泊まり王女の疲れを癒すことになった。宿に入った所でカリルリルからマロンとエリザベスは声を掛けられた。
「夕食を共にしていただけませんか」
「王女様が疲れていれば、個室に食事を運んでもらいます」エリザベスが答えた。
「いえ、疲れはないのですが、大人ばかりで話すことがなく退屈していまして」
「飽きてしまったのですね」
「そうなのです。恥ずかしいことですが、私達は王都から出たことがないので、イリーシャ様から問われても旅先のことが分からないのです」
「もし良ければ、明日の馬車に私たちが同乗しましょうか?」エリザベスが手を差し伸べた。
「お願いできますか?本当に申し訳ありません」申し訳なさそうにカリルリルは頭を下げた。
夕飯は宿の個室でイリーシャとカリルリル、護衛のオービリンとエリザベスとマロンの5人で取ることにした。イリーシャは、行儀作法が身についているおかげでとても上手に食事がとれるようになっていた。
「イリーシャ様、お勉強頑張っているのですね。とても上手にカトラリーが使えていますね」
「新しい先生は、「よく頑張っているね」「とても上手くなったね」って褒めてくれるの。失敗しても怒らないの。「もう一度やってみましょう」と言って、出来たら凄く褒めてくれるの」嬉しそうに話す。
「良い先生に出会いましたね」
「カリルリルがね。見つけてきてくれたの。お部屋も変えてくれた。重たいドレスは着なくて良くなったの」
「イリーシャ様の事を王妃様も、カリルリル様もとても大切にしてくださっているのね」
「お母様も時々顔を見せてくれるの。ミミのお友達を連れてきてくれたの」
「ミミは元気ですか?」
「ミミとルルはカリルリルがおカバンの中で寝ているの」
「お友達の猫はルルと言うのですね」
「はい、いつも一緒に寝ています」
僅かな時間に随分イリーシャは落ち着いた。おばあ様が言っていたが基礎教育は本当に大切だ。だからこそその子に会った教育者を見つけることが大切。カリルリルは良き家庭教師を見つけてきたようだ。イリーシャは良き守り手に出会えた。
イリーシャは色々話してくれる。その様子をカリルリルは微笑みを抑えながら見つめている。マレが乳母ならカリルリルはイリーシャの生涯の導き手になるとマロンは感じた。
翌日エリザベスとマロンはイリーシャの馬車に同乗した。他にはカリルリルと女護衛騎士も一緒である。
「マロン、あそこの木はなに?」
「マロン、あの煙はなに?」
「あれはなに?」
「あのひらひらしたものはなに?」
何もかもが見たことがないものばかりで、イリーシャは質問ばかりが続いた。さすがに答えを知らない侍女や騎士は困惑の時間だったようだ。エリザベスとマロンはお互いが経験したことをイリーシャに話した。
「あの煙はこのような器を作るために窯の中で高温で焼いて作るのです」
「あそこに大きな山があるでしょ。あそこにはこのような器を作るのに良い土があるのです。さらに器を焼くための木材も多くあるため職人が多く集まっています。食器の街と言われています」
「色とりどりの布は庶民が良く使う麻や綿の布です」
「村の周りに綿花や麻の植物が植えられています。山からとれる鉱石から色を取り出し染めています」
「凄い、緑の葉がいっぱい」
「あれは桑と言って、イリーシャ様のお洋服を作る「蚕」が食べるのです」
「「蚕」?」
「「蚕」は蝶に似た虫の赤ちゃんの芋虫みたいなものです。幼虫の時に桑の葉を食べて大きくなります。大きくなると糸を出して繭を作りその中で蛹といって、大人になる準備をしています。その繭の糸を人が利用しているのです」
「毛玉みたい?」
「毛玉とは違うけど、糸はフライ位細いのです」
「そんな細い糸で布を作るの?」
「多くの人の手で、一枚の貴重な布ができます」
まじまじとイリーシャは自分の服を眺め手で布を触って確かめていた。今回の辺境の旅は与えられるだけの生活では分からないことを知る良い機会なのかもしれない。
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