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8 便利な生活魔法

 マロンは駆け足で家に向かった。スキルは「刺繍」「裁縫師」でもなかったけど「生活魔法」が貰えた。ロバートさんのように特別な生活魔法が使えるようになりたい。家の前についたので、玄関の前で「水よで、、」と唱えそうになった。マロンはコップを用意していない。頭の中で小さな水玉を思い浮かべる。


「水玉でよ」


 マロンの目の前に一口大の小さな水球が浮かんでいる。マロンはぱくりと水球を飲み込んだ。味はしない。でも水球ならコップがなくても水を飲むことが出来る。庭に咲いた花に水を撒いてみよう。小雨のように花の周りに雨を降らすことを想像して「水よ出ろ」コップ一杯分ほどの細かな水玉が花や葉に降りかかり土を濡らす。


「生活魔法って便利ね。「外れスキル」なんてことないかも」


 思いのほか生活魔法が楽しくなった。家の前で風を動かして花を揺らし、小さな穴を掘ったり、埋めたりしてみた。これならもう少し大きくしたら落とし穴が掘れるかも。小石を持って、「収納」と唱えると小石はマロンの手の上から消えた。恐る恐る小石を思い浮かべて「小石出ろ」と唱えると小石はマロンの前に飛び出し土の上に落ちた。


「マロン、何しているの?お帰りなさい」


 おばあ様は玄関の前でなかなか入ってこないマロンにしびれを切らした。マロンは突然の声掛けに驚いてしまった。ついつい、生活魔法に夢中になってしまった。


「おばあ様、ロバートさんみたいに「収納」が出来たの。水も出せる」


「マロン落ち着いて、無事に「祝福の儀」を終えてきたのな。おめでとう。スキルは「生活魔法」であっているかしら?」


「そうなの、司祭様が御用ができて席を外した時にお祈りして、ちゃんとお礼をして、お願いしたの」


 おばあ様はマロンの「祝福の儀」の話をゆっくり聞きながらお茶お入れてくれた。


「おばあ様、見て。水を出すわよ」


「桶を用意するわ。待って」


「大丈夫。水玉だから」


「えっ、水球?」


 マロンは庭で出した水玉を目の前に出した。水玉は窓からの日の光できれいに輝き壁に虹を映した。おばあ様は驚いて声が出ないようだ。マロンは得意になって水玉を飲み込もうとすると、ユキが水玉に張り付いた。水玉は弾けることなく、ゆっくりユキに吸収されていった。


「マロン、随分上手に使えるようになったけど、水はちゃんとコップで飲みましょうね」


 水玉をそのまま齧り付くのは女性としては、してはいけない事らしい。それから、風や灯、収納を披露した。


「気分悪くない?マロンは魔力が少ないでしょ。魔力枯渇は体に悪いわ。気をつけなさい。今日は早く寝なさい。明日はパン屋に出かけるんでしょ」


 マロンは興奮してなかなか寝付けないでいた。ユキはマロンの手の上でゴロゴロしている。あれ?ユキ、少し大きくなっていない?ユキが来てから2年経つが、何も変わらないと思っていたのに驚いてしまった。でも、綿毛が密集してきている。ふわふわして触り心地がよい。思わず頬に当ててみた。ユキはマロンの手から逃げるようにいつもの枕もとに定位置にごろんと着地した。マロンはそれを合図に布団に潜り込んだ。


**********


 シャーリーンは何食わぬ顔をして、マロンの生活魔法を確認した。しかし、「水球を創ることも、水球を動かすことも生活魔法ではない。それは水の属性魔法。「マロンは魔力がないから実家から孤児院に捨てられた」はずだ。あの時、男たちが孤児院の前で話しているのをしっかり耳にした。


 だからこそシャーリーンと同じ「魔力なし」として双子で生まれた一人は大切に育てられ、「魔力なし」は、孤児院に捨てる。そして、もしものために金を寄付して子供を確保する。そんな貴族の行いが、自分のことと重なり、マロンをそこに置いていけなかった。


 シャーリーンはおくるみに包まれ籠に入ったマロンを男たちが立ち去った隙に抱きかかえ駅馬車に乗り込んだ。マロンは自分の身の上が分かっているのか泣きもせず、すやすやと良く寝ていた。宿屋に入れば女将さんがおむつとヤギの乳を準備してくれた。慣れないシャーリーンに女将さんはおむつの変え方や抱き方、乳の飲まし方を教えてくれた。


 シャーリーンは幼子の家庭教師や侍女はしていたが、乳母の仕事はしたことはなかった。慣れないシャーリーンのおむつ替えでも授乳でもマロンはぐずることはなかった。それより満腹になると、くるっとした茶色の目を大きく見開いて笑いかけてくれる。シャーリーンの家につく頃にはもう手放せない孫になっていた。


 教え教えられながら、マロンと過ごす日々はシャーリーンにとって、刺激的であり楽しいものだった。カリンに随分助けられた。マロンは器用に家事をこなし、今ではパン屋で仕事を始めた。私の蓄えで働かなくても生活できるがマロンは平民として生きていく。そのためにはシャーリーンの教えだけでは役に立たない。パン屋で働く経験はマロンの役に立つだろう。


 マロンは祝福で「生活魔法」と言うスキルを手に入れてた。それなのに属性魔法のように水を操った。「魔力なし」の私には良く分からない。導き手にはなれない。ロバートに相談してみようとシャーリーンは考えた。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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