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77 3年の冬休みに向けて

マロンは王宮を辞した後学園に戻った。そのあと駆け足で寮の部屋のユキの所に駆け込んだ。


「ユキ、コユキをイリーシャが捕獲して瓶詰にしていた」

「ああ、コユキから連絡来た。マロンが魔力を補充してくれたんだな。ありがとう」


ユキがごろりとマロンの方に転がってきた。コユキが見つかりほっとしたと同時に一気に疲れが出たのだろう。


「そうだけど、あのコユキは人の言葉を理解できるから、イリーシャと会話していた」

「珍しいな?もしかして名前つけた?」

「フライと言う名前を貰ってぴょんぴょんしてた」


「名前貰ったか・・」ユキの綿毛が一気に萎れた。

「もしかして、名前貰ったらコユキから「ケサランパサラン」になるなんてことないよね」

「それがなるんだよ」

「えっ、だってユキその大きさになるのに何年かかった?」


「う、何年と言われても気にしたことないからな。でもジルと会ったのは300年?500年?前だとか言ってたな。名前を貰う主との関係が深くなる」

「そしたら、コユキは100年でも今の大きさのままかな?」


「まだ毛玉にはならないと思うぞ。それに魔素の豊かな森ではないから成長は遅いぞ」

「イリーシャと共にいるなら今の大きさでも良いのではないか。他者に気づかれないならそのままでいい」


「ところで、フライはユキの支配から消えるの?」

「どうだろうな。フライが連絡を取りたいと思えば今まで通り繋がる。今だって「マロンが助けてくれて元気になった」と伝えてきたからな」


 ユキたち「ケサランパサラン」は親から飛び立つとそれぞれ気ままに旅に出る。魔力が沢山あって安全なら数百年?かけて成長する。しかしほとんどが風に吹き飛ばされるから、魔素の多い土地に住み着くことが出来ない。


 特別な力を持たないからなおさら生き延びないらしい。成長した綿毛が「ケサランパサラン」になったら多くの綿毛を飛ばすことが生涯の仕事になる。でもユキは10本のコユキを支配下に置いている。本来の「ケサランパサラン」の生き方ではない。


「フライはイリーシャとずっと一緒にいることが出来るんだね」

「それはフライしだい。ユキだってマロンに支配されているわけではない。ユキがマロンの側にいたいからいるだけだ。あくまで「ケサランパサラン」の気紛れだな」


「でも、ユキはコユキのこと心配してたでしょ?」

「それはそうだ。ユキがコユキたちを特別に生んだからな。コユキが生きているならそれでいい」


 ユキはごろんと向こうを向いた。マロンは冬の長期休みに辺境に戻り、ジルの所で絵本を見せてもらおうと話すと、「お菓子のレシピを借りようぜ」と言い出した。マロンはユキとジルのために元の主のお菓子を再現を試みたい。


「さっさと魔法陣を改変しろ。セバスに加温布団を作ってやるんだろ」

「うん、頑張るね」

マロンはユキに励まされ、公用語で作られた魔法陣を古代語に書き直しに集中した。翌日眠い目をこすりつつマロンはSクラスに入った。


「マロン、また王宮に呼び出されたの」Sクラスに入ればエリザベスが声を掛けてきた。

「耳ざといね」

「王宮だよ。もうみんなが何でマロンが呼び出されたのかと大騒ぎよ」


「ユキの綿毛のフライ」と言っても誰も信じない。エリザベスだけなら分かってくれるかもしれないけど他の人には理解できない。


「王女からの呼び出し?で合ってる?」

「合ってるけど他の人には言わないで」

「分かってるわ。それはそれで、大変ね。マロンは優しいから慕われたのね。猫の妖精の話や手品も見せたもの。私だってマロンの「生活魔法」を知らなければ驚いたわ」


「あの時はイリーシャ様の気を逸らす為に仕方なかった」

「そうよね。同じ部屋で尋問なんか父がしたから。子供に罪はないけど親が問題児というところが家と一緒でほっておくこと出来ないわね」

「子は親を選べないから」


「父も実の両親が特別だから、それはそれで困っていたみたい。でも王妃様は凄いわ」

「上手くまとまったと思ったのは大人だけ、子供の心は追いついていないといったところ」


 マロンはエリザベスに王女の様子をかいつまんで話をした。もちろんフライの話はしていない。フライが王女のそばで過ごすかユキのところに戻るかはフライ自身の判断になる。マロンとしては王女のためにフライが残ってくれると心強い。マロンは侍女長が良い人なので、もう少し時間がたてば王女も落ち着くと思えた。


 マロンは魔法陣の起動切り替えをどうにか古代語に書き換えに成功した。切り替えの古代語の魔法陣をよく見るとおばあ様の本の中によく書かれていた。飾り文字の上に切り替えの言葉が分からなかったせいだった。しかしそのおかげで起動させる魔法陣と切り替えの魔法陣の位置関係が良く分かった。さらに小さな魔法陣を広い範囲で効果を出す方法も本に書かれていた。


 マロンは紙に加温の魔法陣と稼働の切り替えの魔法陣を「転写」し、それを膝掛け用の布の内側に1本の魔蜘蛛糸で「合成」してみた。最初はもとになる魔法陣をチクチク刺繍したが、ユキが「転写」「複製」「拡張」ができるなら「合成」もできるんではないかと声を掛けてきた。


 マロンは布の上に魔蜘蛛糸を置き、布と魔蜘蛛糸が刺繍されていく様を思い浮かべながら「合成」と唱えた。魔力はごっそり持っていかれたが、布一面に加温の魔法陣が縫い込まれた。切り替えの魔法陣は布の隅に小さく縫われていた。

マロンは早速切り替え魔法陣に魔力を流すと布全体がほんのり温かくなった。


「ユキ、上手くいったよ。もう一度切り替え魔法陣に魔力を流すと・・?」

「どうした?」

「魔法陣に魔力流したら布に魔蜘蛛糸が溶けて切り替え魔法陣の場所が分からなくなった・・」

「ああ、マロン残念だったな」


「でも四隅のどこかだから順番に確認してみる」

「魔蜘蛛糸が溶けて布になじむの忘れていたか。まあ、他人に悪用されないのはいいことだけど」


 マロンは四隅に順番に魔力を流し三か所目で切り替え魔法陣の場所を見つけることができた。魔力を流す前に目印をつけておくことにした。


 これで魔力の使用量は確実に節約できる。一度入れた魔力は魔法陣に残り再始動で残された魔力も再使用される。あとは魔力の使えない人には魔石から魔力を流せればもっと多くの人が使えるかもしれない。 

古代人は庶民でも魔力があったから、魔石からの活用は考えられていない。とりあえず辺境の寒い義両親に温かなお土産ができた。


 マロンはユリア夫人のところに起動の切り替え魔法陣を入れたひざ掛けを新しく作り届けることにした。魔力を込めただけ連続し魔法陣が起動するのは不安があった。マロンはユリア夫人に加温の膝掛けの説明し交換を申し出た。


「マロンさん、年を取ると膝や腰、肩など痛かったり、冷え性になっていたから、膝掛けにとても助けられているの。夜は掛布の上に置いただけでもとても良く眠れるの。両方貰うことはできない?」


「この魔法陣は私が改変したので、長期使用時の安全性が確認できていません。温度設定は低いので発火はしないと思うのですが、こんな不確かなものをお渡しして申し訳ありません」


「そんなことはないわ。貴女のおかげでとても過ごしやすくなったわ。これを売り出す気はないの?」

「これを作る方法は広めてよいかは分かりません。それにこれは魔力がある人しか使えません。魔力のある人はこれがなくても温かく過ごせますから需要はないと思います」

魔力を持つのは基本貴族。加温の膝掛けより高価で良い物はいくらでもある。


「そんなことはないわ。冬用のコートの中に使ってもよいし、治療院などだってあったら便利だわ」

「今のところ自分一人で作っているので大量生産は無理です。それに改変した古代語の魔法陣が商業ギルドに登録できるかもわからないです。これを作る人がいるかもわかりません。義両親に相談してみます」


「ご両親は良い人のようね」

「はい、とても良くしてくれています。学園に入ることを進めてくれたのも義両親です」

「あなたの才能を見込んだのね。マロンさんは実の親を探さないのね」

「はい、私は私を育ててくれたおばあ様が親であり師でもあります。そして今は辺境の義両親がいます。十分幸せです。これ以上求めるつもりはありません」


「マロンさんの魔力からしても身分のある貴族の子供かもしれないわよ」

「身分など学園にいる間だけで十分です」


 ユリア夫人は少し寂しげにマロンを見たがマロンは気が付かなかった。その後も新しい古代語の魔法陣の話を始めたマロンに付き合いユリア夫人は楽しい時を過ごした。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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