74 マロンの縁
昨日の王宮の疲れを多少引きずりながらマロンは学園に向かった。Sクラスでエリザベスが待っていた。何か楽しそうな顔をしている。昨日の事を問い詰められる気配がする。
「マロン、昨日王宮に行ってきたの?」
「そうなの、イリーシャ様が元気がないと言って呼び出された」
「ああ、あの時マロンは随分なつかれていたものね」
「まだ3才だから環境の変化に心と体が追いつかなかったといったところ」
「父は詳しいことは言わなかったけど、王女になったんでしょ」
「そうよ」
「私たちが今日から王女と言われても困惑するわよね」
「私は無理、逃げ出すわね。エリザベスはまだ貴族としての教育を受けているから上乗せできるけど、私は無理だわ」
「あの子はこれから教育を受けられるだけ時間的余裕はあるわね」
「その前に、心と体が悲鳴上げているから、教育より先にしないといけないことがある」
「なに?」
「あの子を守ってくれる人が必要だと思う」
「ああ、親がいないものね。でも侍女がいたでしょ」
「侍女はお世話係で親ではない。素晴らしい親はまだあの子の中では親として認識されていないから」
「私の兄や父のような役割の人が必要と言っているのね」
「そう思って、王女の統括侍女長さんに少しお話ししたんだ」
エリザベスは目を見開いて驚いた。
「な、何を話したの?」
「豪華な部屋より以前暮らしていた部屋の雰囲気を残したほうが落ち着く」
「それはそうね」
「親代わりの侍女を引き離さない」
「3才児だもの、急に知らない人ばかりは怖いわね」
「豪華なドレスは動きずらい」
「3才児だものね」
「なんでもダメ出しばかりの教師はだめ」
「3才児だもの急に色々求められてもね。ダメ出しばかりじゃ意欲無くなるよね」
「古い毛布で抱き枕作った」
「古い毛布?」
「使っていた毛布」
「愛着と安心感ね」
「お菓子のレシピ渡した」
「マロンのお菓子美味しそうに食べていたもんね。食事が取れないなら少しでも食べれる方が良いわね」
「それで終わり」
「ダメ出しのオンパレードと言ったとこかな?」
「そんなつもりはないけど、結果そうなった」
マロンは王女の統括侍女長カリルリルがマレの上司ぐらいと思っていたが相当偉い人だと知った。考えればそうだ。病弱な王女を守り育てる役割は王妃から直々依頼されているはず。思わずマロンは冷や汗が出た。
『そういうことか?なんか統括侍女長のことみんなが頭を下げていた。ユキは人間のことが良く分からないから仕方ないけど、マロンは人間だろ。コユキに調べさせておくが、罰を受けそうなら辺境に逃げようぜ』
「エリザベス、王宮の人事や階級なんて知るわけないでしょ」
「まあ、なんかあったら父に助けを求めるわ。それより兄の追及が五月蠅いかも」
「しばらくグランド商会に行くからタウンハウスに帰れないと言っておいて」
ハリスはエリザベスの兄なのに、マロンにもエリザベスと同じように気にかけてくれるのは嬉しいが、いろいろ口煩い。自分のことに集中してほしいとやんわりエリザベスに伝えれば「兄も報われないわね」と言われた。決して蔑ろにしているわけじゃない。感謝しているが上手くいかないものだとマロンは思った。
マロンは気を取り直し魔法陣の講義に向かった。魔法陣を前にして魔石ランプのように途中で魔法陣の起動を止め、再開できる方法を模索していた。そこに以前出会った白髭の教授が来ていた。
「こんにちわ、再会できて嬉しいよ」
「教授はマロンさんとお知り合いですか?」魔法陣の講師が不思議そうに声を掛けてきた。
「ああ、私の初恋の彼女のお孫さんだ。私は学園にいる頃は爵位を継ぐ立場ではなかったから、自由に研究していた。その頃の仲間だ。共に魔法陣に夢中になった」
「教授が今の大規模魔法陣を作り上げる前ですね」
「ああ、あの頃は平民でも使えたという古代の魔法陣の解析に夢中になっていた。君は何を目指しているのかな?」
「おばあ様と同じです。魔法陣を使って魔法を手軽に使えたらいいなと思っています」
「彼女もそう言っていたな。何を悩んでいるんだ」
「魔石ランプのように途中で魔法陣の起動を止め、再開できる方法を魔法陣に組み込めないかと考えていますが、切り替えの魔法陣が分からないのです」
「さすがに大型魔法陣は途中では止められないし、魔力を途中で止めれば不発に終わる」
「大型魔法の魔法陣ではなく、小さい魔法陣なら出るのではないかと考えたのですが、その先が上手くいかなくて困っています」
白い髭の教授は魔法陣自体をいじるのでなく、切り替え用の魔法陣を作ればいいのではないかとマロンに提案した。教授は大型魔法陣を作成に当たり、魔力回路が構築が出来ているか確認するため少量の魔力を流す。毎回爆発させたでは無駄が多いいからと、魔法陣に魔力がいきわたるのを確認して魔力を止めていた。教授は切り替え用の魔法陣を紙に書いて見せてくれた。
「秘密ではないのですか?」
「全然、今も多くの者がこれを使って新しい魔法陣を研究している。公用語で書かれているから読み解くのは簡単だろう。若い者が古いものから新しいものを見い出すのは素晴らしいことだ。彼女も喜んでいるだろうよ」
マロンが悩みに悩んだ「切り替えの魔法陣」はあっという間に解決した。研究機関ではよく使われていても他では使用しないならマロンが目にすることはない。
『マロン、シャーリーンの縁はなかなか強固だな』ユキが囁いた。
「ありがとうございます。魔法陣解析して、活用します」
「頑張りなさい」教授はその後講師と話があるようで、講師と共に教室から出ていった。
「マロンさん、教授と親しいの?」待ち構えた級友に囲まれた。
「親しいのは私のおばあ様です。同じころ学園に通っていて魔法陣仲間だったそうです」
「じゃ、マロンさんは教授の孫ではないんだよな。残念だな」
「何を考えているの。他力本願では進路は解決しないわよ」
「分かってるよ」
「初恋の人って言ってたでしょ?」
「ロマンチックね」
「何が?」どこにロマンがあるのかマロンには分からない。
「長い時が過ぎて初恋の人の孫に出会うなんて」
「初恋の人に出会うなら分かるけど」
「そうよ、孫なんて」
「でもよ、教授の初恋なら皴皴のおばあちゃんだろ?ロマンもチックもないぞ」
級友はマロンを置いて話がどんどん進んでいる。魔法陣は割と簡潔な形を形成していた。古代語の魔法陣に合わせるならこれを古代語に直せば上手く繋がるかもしれない。
「ねえ、マロンのおばあさんは美人だった?」
「美人の規定が分からないけど、女性文官を数年勤めて貴族家の基礎教育の家庭教師をしていたらしいわ」
「女性文官の先がげの一人だね。今でも男が威張っている文官社会、凄く優秀だったんだ」
「マロンさんがSクラスにいるのが分かった」
「遺伝だ!魔力と同じ知識の遺伝だ!」
「ええ?知識って遺伝するの?」
「「するわけないだろ」」
講師のいない教室に笑いが起こった。魔法科を専攻していて魔法陣を選んだ者は、魔導師にはなれない。魔力が足りないか属性魔法が上手く使えない級友。だから魔法陣を用いて大型魔法を使うために魔法陣を学んでいる。
冬の長期休み明けには後期試験が待っている。試験結果では魔法科を変更する者もいる。女性ならまだ婚姻と言う逃げ道もあるが、男生徒はそうは言ってられない。長子でない限り仕事を見つけなければならない。
4年になってから専攻科を変更はよくあるが学習が追いつくのは大変らしい。たわいない話で笑えるのも3年のこの時期までだ。マロンのようにステップで空いた時間に魔法陣を選ぶこと自体が珍しい。Sクラスとは違った教室の雰囲気はマロンは好きだった。
マロンは寮に帰り教授に教わった「切り替えの魔法陣」を古代語の魔法陣に使ってみたが上手くはいかなかった。
「やっぱり古代語に変えないとダメだね」
「それはそうだろう。公用語と聖国語では会話は成立しない」
「分かっているけど、もしかしたら上手くいけるかな?と思ったの」
「まあ、ゆっくり頑張れ。俺はコユキの情報の整理をするから」
「コユキ達は何処に行っているの?」
「あちこち」
「具体的に」
「企業秘密」
「エリーナ?あっ、イリーシャ!のとこね」
ユキはその後は返事は返ってこなかった。綿毛をゆらゆらしながらゴロゴロしている。「ケサランパサラン」とは不思議な生き物だとマロンは改めて思う。魔物でもなく獣でもない。植物でもないらしい。聖獣ジルと仲が良くても聖獣ではない。目があるか分からないが「悪だくみ」的な雰囲気はある。でもマロンには優しい。おばあ様にも優しかった。イリーシャになでなでされても我慢していた。
「ユキ、無理しないでね」小さな声でユキにマロンは伝えた。そんな声など聞こえていないようだっだ。
マロンは教授から貰った魔法陣の文字を一つずつ解き明かしながら、古代語の中に同じ意味の文字を探すことにした。出来れば辺境に帰る前に解決したい。
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