71 イリーシャの処遇
オズワルドは宰相に連絡を入れ王と王弟と宰相の四者会談を計画した。宰相はまさかノーリアが子供を産んでいるとは知らなかったようだ。ノーリアは別邸で自国から連れてきた侍女や護衛と暮らしていたのでエディン国は側妃教育以外はあまり関与しなかった。
聖国との契約は『3年以内に側妃教育が終わらなければこの婚約は無効とし帰国させる』となっていた。王女でかつ側妃ということで学習する期間を短く設定していた。
まずは共通語の学習から始めたが、そこからつまずいて前に進めない。共通語ができなければ大陸全土の国と話ができない。王族なら当然学び終えている。誰もが「なぜできない?学園の生徒でも学んでいるのに」と思わずにはいられなかった。
ノーリアが押しかけ側妃候補であったが、関税の撤廃と言う好条件の上、隣国ということもあり無下には出来ない。しかし今の王には王子が正妃から三人生まれているので、側妃の子供に継承が回ることはない。そこで側妃であればと王と大臣が婚約を受け入れた。
ノーリアは王女と言えば聞こえが良いが聖国王の末っ子の我儘娘であったことは有名だった。さらに贅沢好きでもあった。エディン国王は三人の子持ちとは見えないほど見目が良い。ノーリアの一目惚れ。愛妻家で有名であったため、聖国王は一応は止めたがノーリアの我儘に負け婚姻の願いの親書を出した。
色々考えたうえでエディン国は条件付きで受け入れることにした。ノーリアは自分の美貌に自信があったが、エディン国の別邸に入っても王の訪問はなかった。
側妃教育期間はあくまで聖国の住人であるため、住居の屋敷等はエディン国で準備するも贅沢品などの出費は自国で賄う約束になっていた。契約書など読むことがないのでノーリアは不満だけがましていった。
エディン国はノーリアが側妃にならなければ社交に出ることもないので、元より贅沢なドレスや装飾品は準備されていなかった。エディン国はどちらかと言えば「質実剛健」の気質であったためノーリアの期待は実らなかった。あるのは厳しい家庭教師だけだった。
しかし教育はなかなか進まない。「私は聖国の王女よ」という言葉を振り下ろし教育を真面目に受ける気がないノーリアを放置するしかなかった。年に数回聖国に里帰りしていたのでさらに教育は進まなかった。
エディン国に来て2年半過ぎた頃の里帰りからノーリアは、エディン国には戻ってこなかった。約束の3年が過ぎた頃、聖国からは「側妃の申し込みの辞退」と「迷惑料」を過分に送り付けてきた。そして別邸にいる聖国の使用人たちが荷物と共に帰っていった。
ノーリアが強く望んでの側妃の申し込みであったので不思議に思ったが、エディン国としては無事にお帰り頂いたことに感謝だった。もちろん関税は撤廃のままになっている。聖国にとっては大損なだけだった。
「宰相から聞いたが本当か?」
エディン国の王であるエーデン・アステリア・エディンが声をかけてきた。オズワルドは貴族的挨拶を済ませるとすぐに本題に入った。
「ウイリアム様この映像をご覧ください」
王と宰相、ウイリアムの前には小さなスクリーンに女の子の画像が写りだされていた。
「ど、どこでこれを?」驚くウイリアム。
「この女の子、イリーシャは誰のお子様ですか?」問い詰めるオズワルド。
「そ、それは・・」
「どうした、ウイル?レイモンドに似ているが王妃は生んでいないぞ」
「ウイリアム様、もう隠せませんよ」宰相は冷静な声で伝えた。
「オズワルド、2・3歳か?」
「そうです。本日中庭の隅で私の家族が保護しました。髪のお色が王族のものですから、エーデの隠し子かと思いました」
「俺は妻一筋だ。隠し子なぞいない。男三人でも大変なのにこれ以上子供はいらない」
「そうですね。エーデはそういう奴ですから、あと考えられるのが王子かとも思いましたが流石にないと思っています」
「俺の息子はそんな不届き者には育てていない。ということは、ウイルの子供か?」
「・・・」
「ウイル、お前の子だな。相手は?聖国のノーリア姫か?」
問い詰めるオズワルドにウイリアムは言葉に詰まる。
「・・・・」
「「えー、本当か、嘘だろ」」驚きの宰相とエーデン二人の声が揃ってしっまった。
「どうせ、ノーリア姫にたぶらかされて関係をもったんだろう。王子でも生まれれば王位継承権が生まれるからな」
ウイルは側妃教育に行き詰っていたノーリアと話す機会があり、彼女の境遇が可哀そうだと同情しているうちにそういう関係になった。兄が側妃を欲しくないなら自分の第二夫人にと思っていた。
しかし、ノーリアがそんなことで満足する訳がなかった。ノーリアは王族の血を濃く引く王子なら王のお手付きとして訴えるつもりだった。ノーリアは妊娠を隠し自国の侍女や医師に見守られ女の子を産んだが、エーデンには似ずウイルにそっくりだった。エーデンは母似でウイルは父似だった。これでは王のお手付きとは言えなかった。慌てたノーリアは数人の侍女に子供を託し自分は聖国に里帰りと称して帰国した。
残された侍女はノーリアの帰りを待ちながら聖国の資金で女の子を育てた。しかし、ノーリアは帰っては来なかった。側妃辞退で聖国からの資金は送られなくなり、侍女は帰国することになった。隠されて子供は連れ帰ることもできず子供の親に連絡を入れた。子育てをウイルが引きついだ。
ウイルは臣下降籍した身の上、不倫の子供を連れ帰ることができず、別邸の片隅で侍女と護衛と下働きを数名雇い子供を育てていた。その後どうするかなどウイルは考えられなかった。
「ウイル、ヴァリア家に不満があるのか?嫁と上手くいっていないのか?」
「兄上、嫁もヴァリア家もよくしていただいています」
「ノーリアは確かに見た目は可愛いがそれだけだ」項垂れるウイルに追い打ちをかける。
「私が利用されたことは分かっています。でも子供には罪がない。ノーリアは女の子だとわかったらさっさと聖国に帰ってしまいました。私が子供のことを知ったのは1歳になるころでした。誰にも相談できず隠れて育てるしかなかった」
泣き出すウイルの姿に皆があきれもするが同情もした。長男のエーデンは次期王太子として厳しく育てられたが、遅くに生まれたウイルは母親に可愛がられ育った。エーデンは羨ましいと思うことはなかった。年の離れた弟はエーデンから見ても可愛かったからだ。
「上手く隠していたな」
「別邸の裏の使用人用の部屋があるんだ。今は使われていないが厨房も風呂もあるから」
「ウイルは子供のころからあちこち探検していたからな」
「ウイリアム様は、お子様をどうするおつもりですか?」
「どうしたらいいと思う?」
困り顔のウイル。いい年をしてそれはないだろうとオズワルドは思った。
「ウイル、父親だろ。しっかりしろよ」
「兄上、家には連れていけません」
「そうだよな。王家の色を外には出せないし、オズワルド良い案ないか?」
大の大人がそろっていてもよい案など浮かばない。ウイルは王弟と言っても今は侯爵家の入り婿、不倫でできた子供など連れて行けば大騒ぎになる。第二夫人に迎えようなど現実味のない夢を見たものだ。
どこかの養女に出すには王家の色が出過ぎて支障がでる。まして聖国の血筋がばれてはいけない。隠して育てても学園に入らなければ貴族として認められない。その前に出生さえ今は認められていない。
平民なら孤児院という手もあるが、貴族として生きていくには親が必要だ。男4人頭をひねる。王宮の控室のドアが突然開いた。そこには王妃アウネーテが先ほどの豪華なドレスから着替えシンプルな赤いドレス姿で難しい顔をしている4人の男どもの前に立っていた。
「何をこそこそ話しているのですか?宰相まで巻き込んで」
オズワルドは思わずスクリーンを背に隠した。
「オズワルドは反応が良いですね。見せなさい。どうせ困りごとでしょ。解決できずに困っていたでしょ。私も参加しますよ。オズワルド、退きなさい」
流石に王妃、威厳と圧が強い。魔物にはない恐ろしさだ。オズワルドはエーデンの顔を見た。「俺の子でないからいいんじゃない」といった返事が顔に出ていた。オズワルドがスクリーンの前から退くとそこには女の子の静止画が写っている。
「あら可愛いわね、レイモンドに似ているということはウイルの子供かしら?」
「ネーテは直ぐに分かるんだな」
「当たり前でしょ。貴方の子ならもう少し王族の色が強く出るわ。それでこの子はウイルの隠し子かしら?」
「お義姉さん、凄い」
「感心している場合ですか。ヴァリア家の色がないのに王族の色があれば直ぐ分かります。それで?」
「出生届が出ていない」
「そうなの。如何しようかということですね」
何事もテキパキしている王妃に男どもは言葉に詰まる。
「王家の色があるから養子先に問題があるんだ」
「それなら、王家で引き取りましょう。わたくし女の子が欲しかったの。病弱のため静養していたで押し通せばいいわ」
「俺の子に?」不満顔のエーデンが強い口調になる。
「弟の不始末でしょ。それに聖国に知られれば乗り込んでくるかもしれませんよ」
流石王妃、決断が早かった。ノーリアがいた頃、アウネーテは側妃を迎えるのに反発して少しの間仕事を休んだ時期があった。それを利用して王の実子として育てることにした。女の子とレイモンドが似ているのでそれほど違和感はない。
「ウイル、可愛い弟でももうあなたもいい年でしょ。自分の行いに責任を持ちなさい。あんな阿婆擦れにどうして引っかかるかしら?男は女性の中身を見ないから失敗するのよ」
「アウネーテ、良いのか?」エーデンがアウネーテの顔色を見る。
「王家の色を外には出せないわ。女の子が欲しかったのは本当のことよ。次が女の子とは限らないでしょ。男の子はもういらないわ」
「君は子供たちを大切に育てたからな」
「王族としても貴族としても珍しいわね。義母様には苦言を言われましたが、三人とも良い子に育ちましたよ」
貴族は子育てを乳母や侍女に任せてしまうことが多い。政略結婚の結果、愛情を子に向けることが少ない上に身分による妻の仕事があるせいでもある。代々そうやって育てられるとそれが当たり前になっている。
しかし、すべての貴族家がそうではない。アウネーテは良き乳母に育てられたおかげか、子供に愛情を向けることができた。それには夫のエーデンの愛情があったことも大きく加味されていた。
女の子は別邸の使用人部屋から王宮に住居を移し、今までの侍女と護衛には魔法契約させお世話を継続させた。アウネーテは頻回にイリーシャの所を訪れた。まだ何の教育も受けていないイリーシャは素直にアウネーテを受け入れた。イリーシャは国内の貴族に嫁に出すことは決まっているので、ノーリアに似ないよう家庭教師をつけ教育を始めた。7才になればお披露目をして初めて王族の仲間入りをする。
オズワルドを含めイリーシャのことにかかわったものはすべて魔法契約しイリーシャがウイルの子であることは秘匿された。国とイリーシャを守るためだった。オズワルドは王妃の懐の深さに感心した。ウイルが聖国に巻き取られなかったことが何よりだった。
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