7 祝福の儀
マロン (マローニア・オズワルド 次女) 7歳
マロン (マローニア・ローライル 次女) 7歳 に変更しました
教会の前には馬車が数台来ていた。華やかなドレスを着た女の子や大人の様な制服を着た男の子が両親に連れられて教会に入っていった。以前、おばあ様がもっとフリルをと言った服は、あんな華やかなドレスを思い浮かべていたのかと納得した。無理だわ。あんな服じゃパンは捏ねられない。
マロンが着ているワンピースだって、街の子供の中では飛びぬけてきれいだと思う。みんな身ぎれいにしていても、マロンの様なワンピースを着ている子供はいない。マロンは静かに街の子供の列に並ぶことにした。もちろん早く来たので3番目になった。前の二人は男の子だ。
「俺は騎士になりたいから「剣技」が欲しい」
「お前の所農家だろ。俺は「魔法」だな。冒険者になるんだ」
「お前の所大工だろ」
「うるさいな。早く来たから良いスキル貰えるかもしれないだろ」
仲良しなんだろう。じゃれ合いながら、スキルの話から街の話、好きな女の子の話、お祝いの夕飯の話と途切れなく話し続けていた。そして、マロンの後ろに10人以上の子供が並んだ。あちこちから集まってきた子供の声が聞こえる。「鍛冶やになりたい」「騎士になりたい」「魔法使いになりたい」「野菜を元気にしたい」「美人さんになりたい」あちこちで声がする。子供たちは「祝福の儀」が大人への第一歩だと知っているからこそ、夢も希望も「スキル」に期待する。
「おはようございます。無事「祝福の儀」を迎えることができ、おめでとうございます。ただいまより一人一人洗礼室に入っていただきます。女神の像の前に跪き、手を合わせ目をつぶり祈ってください。きっと女神からのお言葉があります。では最初に並んだあなたから」
老齢の司祭が男の子を案内していった。一番に並んだ男の子は先ほどまでの元気は何処へやら。緊張して手と足が一緒に出ている。次の男の子もそれを笑う余裕はない。緊張はマロンの後ろに並んだ子供にも伝染し、誰一人無駄口を話す者はいなくなった。
少し経つと次の男の子が他の司祭に案内されていった。待つ時間は長いが祝福を受ける時間は短いようだ。祈りの講堂から華やいだ子供の声がする。祝福を得た子供が親元に戻ったようだ。
「お嬢さん、中に入ってお祈りをしてください」
マロンは最初に説明した老齢の司祭に、洗礼室に案内された。白い大きな女神像の前に座布が置いてあった。あそこに跪き手を合わせ目をつぶり祈ればいいんだ。マロンは素早く座布に膝をついた。マロンが祈ろうとしたとき隣の祈りの講堂から大きな音がした。
「子供が何か倒したか?怪我などしていなければよいが、しばらく待っていなさい」
マロンは祈りの体勢になっていたのでそのまま祈りを捧げることにした。
「無事に7歳まで健康に育ったこと感謝します。おばあさまが元気になりますように。おばあさまと共に長く暮らせるための祝福をお願いします」
マロンは欲張りだったかと少し反省したが、それでも全部叶えたかった。その瞬間マロンの目の前に文字が浮かんだ。
マロン (マローニア・ローライル 次女) 7歳
魔法 (生活魔法) 魔力量 小 (充魔中)
マロンは驚いて声が出なかった。平民には名前だけ、姓などない。名前も違う。平民は魔力量は少ないので魔力量は小でもおかしくないが(充魔中)ってなんだ。生活魔法の「灯火」「コップ1杯の水」「そよ風」「穴掘り」程度しか使えないのか。少し残念だけど、(充魔中)に期待できるのか分からない。刺繍師はおばあ様に習って、努力するしかないか。講堂に繋がるドアから先ほどの司祭が戻ってきた。
「ああ、もう祈りは終わったかな?立ち上がって隣の講堂に行くとよい。ところで何の祝福を貰ったかい?」
「せ、生活魔法」
「がっかりするんでないぞ。必ず君のために役に立つ。生活魔法のできる者が周りにいるか?」
「いません」
「灯火と唱えてごらん」
「灯火」
「ほら出来ただろう。心の中で願えば生活魔法は使えるが、使いすぎると気分が悪くなる。魔力切れと言う症状だ。気を付けるんだよ。得意なことはあるかい?」
「刺繍」
「そうかい、それなら「クリーン」と唱えると刺繍した布が綺麗になって見栄えが良くなる。針で指を刺したら「ヒール」と唱えればすぐに治るよ。上手に使うんだよ。決して「外れスキル」ではない」
マロンは励ますような司祭の言葉に押され講堂に向かった。マロンは「生活魔法」を残念とは思っていない。それよりマロンの名前が「マローニア・ローライル」の方が気になるが、なんか司祭に問うことは出来なかった。
おばあ様に聞くのもなんかいけない事のように思え、とりあえず生活魔法が使えることを伝えることにした。マロンはパン屋の女将さんに挨拶して、挟みパンを買って家に向かった。
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