69 デビュタント
今日は5年生のデビュタントの日、学園はパーティー前後三日休校になる。遠隔地からみえる家族と生徒が過ごすためである。マロンはハリスのパートナーになるエリザベスの準備のためタウンハウスの泊まり込んでいた。父親であるオズワルドは辺境から騎馬で王都に出向いた。息子の事よりエリザベスの事を心配して、落ち着きなく執務室で事務処理をしている。
今日がエリザベスのデビュタントならわかるが、今日はハリスのパートナーとしての参加だけなのにとサービナ夫人は微笑んでいた。エリザベスはハリスとは婚約者ではないので、ドレスの一部とハリスのポケットチーフの色をそろえている。初めての公式な舞踏会なので、色々しきたりや約束事がある。サビーナ夫人はマロンにも分かりやすくエリザベスの準備を手伝いながら説明してくれた。
エリザベスは色々学んでいるようだが、マロンは格式高いパーティーに呼ばれないので安心していた。しかし、サービナ夫人から自分のデビュタントのことも考えて学んでおきなさいと言われてしまった。デビュタントは貴族の義務であり王家との顔合わせでもある。
そんな時サビーナ夫人は王宮のパーティーなどめったに参加できないので、付き添いとして控室まで参加しては?とマロンに声を掛けた。「デビュタントの下見ね」と片目をつぶった。
「マロン行きましょうよ。私だって初めてだし、マロンがいれば退屈しないわ」
「エリザベス、俺のデビュタントは退屈か?」
「どうせ同級生とお話ししたり、ダンスのお誘いが多いでしょ」
「最初はエリザベスだからな。それに俺の同級生以外に付き添いの親族はエリザベスに目を向けると思うぞ」
「どうせ辺境伯家と繋がりを持ちたい方々でしょ」
「それは俺とて同じだ」
「お兄様は好ましい令嬢を見つけないと、釣書の中から適当に選ばれますよ」
「俺はまだ大丈夫だ。父にも5年は王都の騎士団で仕事をしたいと言ってある」
「騎士の訓練場が賑やかになりますね」
「お前こそ20歳前に見つけないと行き遅れになるぞ」
「結構です。マロンと二人で辺境でお店でもやりますわ」
「マロン、エリザベスが道連れにしようとしてるぞ」
「それもいいかもしれませんね。うふふ」
「ほらね、マロン、美味しいお菓子屋さんがいいわ」
「エリザベスさんの味見だけでお店は潰れてしまうわね」
私達はたわいない話に花を咲かせた。サービナ夫人はマロンに落ち着いた紺色のドレスに着替えるように侍女に指示を出した。髪は侍女たちのように一つにまとま髪飾りで留める。紺色のドレスの上から白いスカーフを首に結ぶことで、使用人であることが分かるようになっていた。
タウンハウスの玄関ホールでハリスが父親に挨拶して馬車に乗り込む寸前に、
「エリザベス、本当に綺麗だ。父と最初のダンスをしよう」
「父上、最初のダンスは俺とです」
「エリザベスの最初だぞ。ハリスが婚約してたら今日はエリザベスは踊らずに済んだのに」
残念そうなオズワルドにエリザベスは優しく微笑む。
「お父様、お兄様とのダンスが終わったら誰とも踊らず、お父様を待っています。早く来てくださらないと、ダンスのお誘いを断れなくなります」
「すぐ行くから待っていてくれ」
「父上はそれなりに挨拶があるでしょ。父上そんな約束をしてエリザベスが壁の花になります」
残念な目でオズワルドを見ながらハリスはエリザベスをエスコートして馬車に乗り込んだ。その後ろの馬車にマロンと侍女が乗り込む。周りには護衛の騎士が並走する。王宮でも護衛は外せないのかとハリスにマロンが聞いたら「貴族間にはいろいろあるから、マロンも知らない男についていくな」と言われた。侍女は飲み物や軽食を籠に準備してある。王宮の控室には王宮側が準備したものがあるが、家から持参するのが普通だといった。
2台の馬車で移動する。王宮近くになると人通りがとたんに増える。行きかう馬車も多い。家紋の馬車はその格で道を譲るのが決まりのようで、マロンたちの馬車は止まることなく王宮の門にたどり着いた。
主役とパートナーは正門で受付をする。招待状を持った家族や身内はもう一つの受付を通り控室で入場を待つ。使用人は各家の色のお仕着せを身に着けているがマロンのような臨時の参加はスカーフを身に着けることで使用人同士のいざこざに巻き込まれないよう分かるようにしている。
実際、王宮の控室はそういう人が多く来ている。一度でいいから王宮を見てみたいと思うものが親族にお願いして、使用人風を装う。王宮の庭ぐらいは出ても大丈夫らしい。しかし、令嬢は悪い男性に絡まれぬよう注意してほしいと忠告を受けた。
「このようなパーティーでは、「毒」が使われることがある」と、侍女が話してくれた。「毒殺」ではなく気分を悪くさせたり「媚薬」を盛って、、、と言っていた。「媚薬」とは「惚れさせる薬」で意中の方を自分に向けるために使われるらしい。
「一時は良くても薬の効果がなくなれば嫌われるのでは?」
「同じ部屋に男女が数時間一緒にいれば、既成事実になってしまうのです」
「やっぱりそう言うことを狙ってということですか?恐ろしい」
「そうですよ。嫌いな方と結ばれるなど地獄ですよ」
「薬を使う時点で無しですね」
「マロンさんは特に注意してください。護衛が近くにいないので」
「他家の使用人に手を出すってどういうこと?」
「惚れさせて他家の情報を集めさせるとということがあります」
「良く知っていますね」
「わたくしこれでも護衛ができる、戦闘侍女ですから」
お話しなければ良いとこの令嬢の行儀見習いの侍女に見えるが、話せばなかなか骨太な様子が垣間見える。
「もしかして、父の指導を受けました?」
「はい、セバス様に御指導受けました。一度マロン様とお手合わせをしたいと思っていました」
父の教えに真っ直ぐな侍女は「脳筋」よりであることは確かだ。マロンは丁重に手合わせは辞退した。
マロン達は王宮門の検問を受けたのち使用人出入り口に向かう。招待客は正門近くで馬車を降り、身分の低い招待客から名前を呼ばれ会場に入場する。
デビュタントの家族だけではないから、招待客は凄い人数。マロンは男爵だから早めの入場になるだろう。それから数刻王様が見えるまで会場で暇を潰すのかと思うと気が遠くなる、と思っていたらそこから社交の始まりだから、家族と共に挨拶して回ると言われた。
「デビュタントを避ける方法はないかな?」
「えっ、出席したくないですか?素敵な殿方を見れる機会はそうは多くないですよ」
「そうかもしれないけど」
「ハリス様も、セドリック様も学生だからお会いできますが卒業すればそうもいきません。王子様方も同じです。見るのはタダですから」
「そういうものですかね。父が社交している様子が浮かびません」
「あぁ、それは確かに、社交はマーガレット様の担当ですね。王都には暫くいらしていませんね。私もあの会場をすいすい社交して歩く姿が浮かびません」
使用人は荷物を持ち割り当てられた部屋で待機する。会場にいる方々が、休憩に来たり、化粧直しなどに対応できるよう準備する。エリザベスのドレスが3枚準備してある。汚した場合や高貴な方と色被りしないためのようだ。デビュタントの令嬢は基本白色のドレスになる。材質は大概絹をもちいる。子供の様なフリルやリボンは少なく大人の仲間入りといった様相になる。
「マロン様、音楽が流れてきましたから、王様の挨拶が終わりました。高位貴族からデビュタントの方々が王家に挨拶に伺います。今なら庭から会場が見えますから行ってきて良いですよ」
「わたしは今日は侍女見習いですから」
「予行演習ですよ。サビーナ夫人から聞いています。招待客に見つからないように。まだお酒が振る舞われてはいませんから大丈夫だと思いますが、庭には良からぬ男性がいることもありますから気を付けてください」
マロンは戦闘侍女に背を押され控室から音楽聞こえてきている方に向かった。庭には魔石ランプが所々に置かれ秋薔薇が綺麗に咲いていた。庭の散策用の小道にはベンチなども置かれていた。庭には会場のベランダの奥から煌々と音楽と灯りが漏れてきていた。
「いや、手を放して」
「子供がなんでこんな所にいるんだ」
「お酒臭い」
「うるさいな。どこの家の子だ。躾がなっていないな」
「そんな事ないもん」
「ふーん、身なりはそれなりだな。親の所に連れて行ってやる」
「いやだ」
「うるせー」
「騒いだところで親には声が届かないぞ」
「一人で帰る」
「そういうなよ。おまえの家は金があるか?」
「おかね?」
「金を知らないならまあまあの貴族家か?少しは金になるか。静かにしろよ」
マロンは薔薇の生け垣から男の様子を見た。女の子はまだ小さい、3才前後、シンプルだが絹のドレスを着ている。今日の招待客ではない様だ。それでも貴族の子供だ。男は嫌がる子供の口を押え抱えようとしている。マロンは男の足に土魔法で作った礫を足にぶつけた。よろめいた瞬間に女の子を奪い取り、ライトを男の目にぶつけた。
「だ、誰だ、眩しい」男は両手で目を覆った。
マロンはその隙に女の子を抱いたまま身体強化を掛け薔薇の生け垣を飛び越えた。近くで女の子を見ればふわふわの栗色に近い金髪、レイモンドに似ている。マロンは女の子を地面に降ろし、唇に指をあて「静かに」と囁いた。女の子は頷き体を小さくかがんだ。
「どこ行った。まだ目がちかちかする。魔法師か?くそ!金ずるを逃がした」
ぶつぶつと言いながら会場とは反対側に向かっていった。
「良かった。もう大丈夫よ。ご両親は会場にいるの?」
「ううん」俯いて首を横に振る。
「会場にはいないのね。どこから来たか分かる?」
「・・・」
「側付きの侍女か護衛は?」
「あっ、」女の子は思い出したのかあたりをきょろきょろ見渡す。侍女か護衛を置いてきたようだ。マロンを見上げ茶色の瞳から涙があふれてきた。声を殺して泣いている。遠くから「お嬢様」と呼びかける声がする。しかしその声は小さいものだった。マロンは女の子の手を引きながら、声のする方に向かった。
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