67 魔法陣あれこれ
マロンはユリア夫人から頂いた髪飾りをおばあ様の木箱にしまった。おばあ様は数少ない友人にお揃いのものを送ったんだと思うと胸が熱くなる。それが数十年ぶりに同じ箱に収まった。大切にしたいと思った。
「保温布」は刺繍に使う魔蜘蛛糸の太さで温度の違いが出ることが分かった。糸が太いほどに魔力を多く必要とし、高温になる。鍋などの保温には魔蜘蛛糸を10本ほど撚ったものを使用すると沸騰せず鍋物が保温できた。ハンカチほどの大きさであれば十分テーブルの上でも使える。
20本ほどにすると調理をすることもできる。小型の魔石コンロよりも手軽に持ち運びできるので旅人や冒険者に便利かもしれない。魔石コンロほどの火力ではないが、お湯を沸かしたりスープを作るぐらいはできる。
「料理は出来なくてよくないか?「複製」は大変だろう」
「魔蜘蛛糸の本数、拡大の比率、結構魔力食いますね。それに調理用は魔力遮断の袋が必要ですね」
「確かに、冒険者などは森で魔物に殺されることもある。この布が魔物の魔力で発火したら火事になるな」
「便利なものを考えると先々も心配しなければならないのですね」
「それは仕方がないよ。魔石コンロがあるんだから調理までは考えなくてよい。冒険者も旅人もそんな便利なものがあっても旅先で調理などしない」
「しないのですか?」
「しないだろう。いつ魔物に教われるか、盗賊が現れるかの旅先だぞ、美味しいにおいなどすれば襲ってくださいと言っているようなもんだろう」
「なるほど、辺境の騎士団も荷物は軽くするために干し肉や日持ちのする硬いパンで過ごしていますね」
「保温布もいいけど美味しい携帯食でも作ってくれた方が嬉しいな」
「保温布でシャツを作ったり靴下を作ったらどうかな?」
「元に戻った。それは真冬など助かるだろうな。それより魔法陣の解析をやらないのか?」
「そうだった。「火」ができたからほかの魔法陣も飾り文字を外して効果を確かめないとね。便利なものができるといいね」
「そうだな、携帯食も考えてくれよ」
それからは、魔法陣の古代文字を読み解くことに専念した。読み解けたものから飾りの記号や葉や蔦を取り除き「写し」で魔法陣の原本を作り効果を確認した。「水」は一度の魔力でコップ1杯の水が出る。生活魔法の「水」と同じだ。繰り返し、魔力を込めれば何杯でも水がでた。
「風」はそよ風を起こす。「風と氷」で冷風が出た。暑い季節には便利そうだ。「火と水」で飲みごろのお湯が出る。ということは「火と風」で温風が出る。物を乾かすのには便利だ。それぞれ魔蜘蛛糸の数で威力は底上げされる。5本までで検証はやめた。寮の部屋の中、爆発したら退学どころではない。
「これを誰に相談したらいいかな?自分用でいいなら登録もいらないよね」
「魔法陣の解析は大ごとになるかもしれないし、「転写」「複製」は今のところマロンしかできないとおもう。兵器などに使われるのは嫌だろ」
「うん、いやだな」
「そう思うなら趣味の範囲にしたらどうだ。出来た物を誰も解析は出来ないんだから」
「そうだね、魔力流したら布に溶けちゃうから、魔法陣はわからない」
「マロンが監禁されてこればかり作らされるのは、ユキは辛くて見ていられない」
「怖いこと言わないで」
「でも、悪用すればそういうこともあり得ると、マロンは覚えておいた方が良いよ。ついつい夢中になって、先を考えないところがあるから」
「ユキは大人だね」
「まあ、200年以上は生きているらしい」
「200年?」
「ジルがユキと200年前に会ったって言ってた」
「ジルは思い出したの?」
「ホワイトと神の湯のおかげか随分気力も体力も取り戻したらしい。ジルは人と暮らしていたから時の流れ意識していたんだろう。ユキのようにふわふわ浮いているものは関係ないけどな。それに妖精や精霊なんかも時の流れなど意識しない。いつ生まれていつ消えるなんて考えたこともない。ジルが特別かもしれないな」
「そうか、でも元気になったら良いじゃない」
「まあな、辺境のじいさん達も喜んでいるしな」
「お酒が呑めるのが嬉しんでしょ」
「まあな、長く生きているだけにジルは色々知っているからな。話も面白いんだ」
マロンは魔法陣の解析を楽しみながら勉学に励み秋を迎えた。秋は5年生のデビュタント。王家主催の大きなパーティーが開かれる。ハリスは婚約者がいないのでエリザベスをパートナーに、セドリックはエリーナをパートナーにした。レイモンドは王家側として参加するので婚約者と参加になる。
Sクラスの中にはデビュタントに合わせ婚約者に決まった者もいた。学園中が華やぐ季節だとマロンは3年になって初めて知った。
「マロンさんはそう言うことに興味ないものね」
「まあ、卒業したら何をしたいかを思案中だからね。エリザベスはしっかりハリスさんを引き立てないとね」
「マロン、残念過ぎる。何処に令嬢に引き立てられる男がいるの。男がいかに令嬢を引き立てるかが大事なの。婚約者に似合いのドレスと装飾品を送り、お揃いの色や飾り物で、この令嬢は俺のものだと主張することが大事なの」
「???」
「何も分かっていないみたいね」
「ユデット、わたしはマロンの行く末が心配だわ」
「大丈夫、あなた一人ではないわ。周りにも沢山いるから」
「ち、ちょっとどういうことよ。わたしは、、」
「独り立ちして生きていくのよね。「古代語」と「魔法陣」が恋人のマロンにはまだまだ時間が必要ね」
皆が頷くのに納得できない。能天気なレイモンドまでが頷いている。
「エリーナさん、妹さんが見えているけど、どうする」
「ありがとう。会ってくるわ」
「エリーナ、わたしがついて行くわ」
「マロンさん、でも身内のことだから」
「エリーナはやっと元気になったの。まだ助けが必要よ。甘えることも必要とユリア夫人が言ったでしょ」
「ではマロンさん、お願いします」
「エリザベスさん、もし前の様な暴力に出たら教師を呼んで」
「任せておいて」
エリーナは教室の外に出た。
「エリ!なんで母が呼んでいるのに来ないの?お母様がイライラして迷惑なの」
「わたしは用事がないので行きませんよ。それに今は本邸にいないから呼ばれていることも知りませんでした」
「エリ、追い出されたの?」
「いいえ、お祖母様の所にいるから」
「ロゼ、お祖母様にあったことない。なぜエリだけ?」
「それは父に聞いて」
「エリがいないなら本邸に戻れる?」
「それも父に聞いて」
「お兄様のデビュタントのパートナーは誰だか知ってる?婚約者いないし、お母様は誘われていないし」
「それも父か兄に聞いて」
「エリは馬鹿なの?「父に聞いて」しか言えないの?」
「ロゼではないことは確かです」
「ど、どうしてよ」
「ロゼは兄に好かれていますか?」
「好かれているわ。お母様がそう言ったもの」
マロンから見たロゼリーナは随分幼く見えた。Cクラス落ちしたようだが、大丈夫か?
「ロゼはお兄様のパートナーになって新しいドレスが欲しいの」
「それを私に言われても困ります」
「エリのお金を回しなさいよ」
「お断りします」
「お父様にお願いしても買ってくれないんだもの」
「仕方ないですね」
「エリが死んでたら全部ロゼのものだったのに」
「ロゼリーナさん、随分な言い方ですね」
「何よ。貧乏貴族が」
「貧乏でも、姉の死を望むような卑しい心根は持っておりません」
「ロゼが、卑しいと言うの」
「はい、人の死を願うなど卑しいと思うのですが間違いですか?」
少しずつ興奮してきたロゼリーナはわなわなと震えてきた。マロンはエリーナを背に庇う。
「わ、私は公爵令嬢よ」
「それがどうしました。公爵令嬢なら貴族令嬢の見本になるべきではありませんか」
「な、生意気な」
ロゼリーナは扇子を持つ手をマロンに向け振り上げる。
「同じことを繰り返すのですか?Cクラスに戻って下さい。講義が始まりますよ。それとも母親を呼び出しますか?兄でも父親でも良いですよ」
「くっ、」と言って、ロゼリーナはマロンに襲い掛かる。今回マロンは身体強化を掛け両手で振り下ろされた扇子をしっかりつかみロゼから取り上げた。
「な、何するのよ」
「扇子は人を殴るものではありません。まして、軸に鉄を仕込むなど母親から教わったのですか?人を殴るための扇子は凶器に該当します。届けさせてもらいます」
ロゼリーナは真っ赤な顔をして怒っているところに教師がやって来た。
「またおまえか」
「この女が、私の扇子を奪ったのです」
「お前は学習と言う言葉を知らないのか?Sクラスの前で騒げば前回同様映像が残るんだよ。まして鉄の芯いり扇子などどうして持ち込んだ。呆れたもんだな。家でも侍女やメイドを殴っているのか?」
「悪いのですか?失敗すれば母も殴ります」
「ああ、だめだ、こいつ。Cクラスもギリギリなのに。マロン、煽り過ぎだ」
「すいません」マロンの口調は棒読みになってしまった。
教師は扇子とロゼリーナを連れて学園長室に向かった。エリーナは深呼吸してからマロンと二人で教室に戻った。
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ロースターは以前母に頼まれた魔力の鑑定を教会で済ませて母の屋敷を訪れた。
「母上、この魔力の持ち主は誰ですか?」
「結果はどうだった?」
「母上と血縁関係があります」
「どうせあなたも自分との関係を調べたんでしょ?」
「親子でした」
「そう、やはりね。初めて会った時から縁があるような気がしていたわ」
「誰ですか?早く引き取りましょう」
「それをする前に別邸の者たちをどうにかしなさい」
「そ、それは、、」
「エリーナの二の舞になることが目に見えている。エリーナを守れないあなたにこの子は任せない。私の養子にするか私の財産を譲るわ。もう14歳なの、幼子ではないわ。捨てる拾うができる子猫ではないのよ。ロゼリーナより慎重にしないと二度と会えなくなるわ。貴方に決定権はないの。気が付いたのはわたしだから」
母が見つけた子供は誰なのか分からない。白い髪の子供などロゼリーナ以外見たことがない。孤児院にもいなかった。母は何処で見つけたのか不思議だった。母の屋敷から本邸に戻れば学園から呼び出しが待っていた。
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