62 エリーナ
後半セドリック視点
予約解除が上手くいかず誤配信しました(´;ω;`)ウゥゥ
ユリア夫人の屋敷に残ることにしたマロンを気遣うエリザベスとハリス。
「マロン、無理しないでね」
「分かってる。二・三日したら落ち着くと思うから」
「明日から学園が休みで丁度良かったな。何かあったら連絡くれ。ユキ、マロンを頼むぞ」
ユキがマロンの頭でコロンと揺れる。ハリスが寮の手続きをしている間に簡単な着替えとユキを連れて馬車に戻り侍女と二人で馬車に乗り込みユリア夫人の屋敷に向かった。
エリーナの休んでいる部屋にはもう医師が来ていて診察をしていた。エリーナの手首から魔力?を流している。エリーナは魔力過多症だったと聞いている。魔力回路に異常があるのか?医師はしばらく手首を持ったままいた。エリーナに声をかけ質問をいくつかした後エリーナに布団を優しくかけた。
「大分無理をしましたね。ゆっくる休んで食事をとれば大丈夫です。あとはお父様とお話しして少し魔力回路の治療をします」
「再発ですか?」
「いいえ、エリーナ様の魔力過多は全治していますが、一度傷ついた回路に負荷がかかったんでしょう。すぐ治ります。心配いりませんよ」
医師とユリア夫人が部屋を出た後、マロンはエリーナのそばに座った。
「急に倒れるから驚いたのよ」
「ごめんなさい。最近眠れなくて」
「それならここでゆっくり休むとよいわ。私少し「ヒール」が使えるの。大した効果はないけど少しは体が楽になると思う」
マロンは先ほどの医者がやったようにエリーナの手首を持ち優しく「ヒール」をかけ始めた。目に見えて何かあるわけではないが、エリーナが静かに目をとしたので、そのままゆっくり微量のヒールをかけ続けた。随分顔色が良くなってきた。手足の冷たさも元に戻ってきた。マロンはほっとしてエリーナの手を放し布団の中にいれた。
「エリーナ」と声を掛けながら、壮年の男性が部屋に入ってきた。セドリックに似ている。エリーナの父親だろう。ユリア夫人に止められ、静かに寝台に近づいた。マロンはすぐに椅子から立ち上がり場所を譲った。
「顔色が良くなっています。良かったわ」
「何かされましたか?」
医者はユリア夫人に声をかけたが、ユリア夫人は何もしていないと答えた。マロンはどうしようかと思ったが、エリーナの魔力回路のことがあるので答えることにした。
「お答えしてもよろしいですか?辺境伯家の騎士セバス・オットニーの娘マロンと申します。エリーナ様の同級生です。私は「ヒール」が使えますので、少しの間、「ヒール」を体に流しました。私は微量の魔力を流すことができますので、体には負担はないと思います」
「「ヒール」か、ちょっと診察させてくれ、、おっ、回路が修復されている?「ヒール」にそんな効果はないはずだが?」
「ヒール?」
「当主様は知らないでしょう。平民が授かる「生活魔法」の中の一つです」
「生活魔法?」
「いわゆる全属性が低位で使える魔法です。ヒールなら擦り傷を治す。灯なら小さな明かり。水ならコップ1杯などの魔法ですが平民は魔力量が少ないのでその中1・2個使える程度の魔法です」
「マロンさんはそれが使えるのか?」
「はい、生活魔法は庶民にとっては「外れスキル」と言われています」
「ほほ~なるほど」
「ロースター、五月蠅い、今はエリーナのことでしょ。貴方に話があります。別室に移動しますよ。マロンさんは少し休むといい。荷物は部屋に運んであるからゆっくりしなさい。あなたのおかげでエリーナは随分落ち着いたわ。本当にありがとう」
ユリア夫人は侍女に指示を出し部屋を出て行った。マロンは客間に案内されお茶を飲み一息ついた。
「マロン、魔力が減っただろう。たとえ微量でも長い時間使えば魔力は減るぞ」
「うん、なんか真っ白な顔色を見たら、可哀そうになって何かできないかと思ったんだ」
「マロンらしいな。ジルが「マロンは魔力量が増えているから気をつけろ」と言っていたんだ」
「えっ、今でも増えているの?」
「そうらしい。俺のせいではないぞ。もともとの魔力の器?が大きいせいだって」
「いつかは、落ち着くんだろうね。魔力過多症になることはないよね?」
「それはないだろう。あれは病気だから。マロンは生まれたときに魔力の器の中が空っぽ?で生まれてきたんだと思う」
「よく生きていたね」
「分からないけど、多少の魔力はあったから大丈夫だったんじゃないか。それに生まれたばかりの子供は魔力は関係ないからな」
「エリーナは魔力が過多で困っていたんでしょ」
「赤子の体に過多魔力は辛いぞ。制御する力はないから漏れ出て元の器の量になるまで何年、何十年かかる。それを待てずに体力が底をつくんだ」
「エリーナは体力があったのね」
「違うぞ。魔石に魔力を移したんだ」
「そんなことできるの?」
「マロンだって、エリーナにヒールという魔力を流しただろ」
数年前に魔力を特殊な空魔石に移す方法が発見され、魔力過多症の治療に使われるようになったとユキが教えてくれた。コユキからの情報のようだ。コユキは密偵のように動き回っている、ユキの指示だろうが、怖いものなしなところが怖い。
「マロンは逆に母親の胎内で魔力を奪われたのかもしれないな」
「そんなことできるの?」
「知らん。想像だ。それより増える魔力に気をつけろ」
「ということは生活魔法の威力はさらに上がるということかしら?」
「そうだな。使いどころと威力に気を付けないと、研究動物にされるな」
ユキが言うには「生活魔法」は極極低位の全属性だから平民でももらえるスキル。貴族は属性魔法が多いのは血の系統だからだと思う。それが「全属性」が属性魔法並みに使えると分かれば、前代未聞だから調べたくなるのが人という者らしい。
「・・・うん、わかった。静かにしてる。平穏が一番。学びたいことがあるもの気を付けるわ」
「それがいいが、マロンは抜けている所があるから心配なんだ。魔力の回復が早いからとりあえず少し寝ろ」
ユキの言うことを聞いてマロンは少し横になることにした。
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医者は明日の診察の約束をして帰っていった。部屋には父と祖母とセドリックの三人になった。祖母はが口火を切った。
「ロースター、あなたは二人の実子と家門を路頭に迷わすつもりか」
「いえ、そんなことはありません」
「マリーナールとロゼを別邸に移したからと安心していたようだが、マリーナールはエリーナを呼びつけ暴言を浴びせていたようだが知っているのか?」
「ほ、本当か?」
「私のところにも母の侍女が何度も来ました。一度行きましたが「お前など当主の器ではない。ロゼに婿を取らせる」と言われましたからそれからは二度と伺いませんでした」
「う、ロゼを跡継ぎにするつもりはない」
「当たり前でしょ。ローライルの血が一滴もはいいていないのだから。まだ、親戚筋を養子にした方がましだわ」
「セドリックがいます」
「そんなことはわかっている。ロゼは実子ではなかったのね。魔力の系統が違うと思ったわ」
「母上は知っていたのですか?」
「知っていたというより私が見た感じだから、確証があるわけではない」
「だから養子縁組は親子鑑定してからと言ったのですね」
「そういうこと。でも最後は当主が決めることだから私は家を出たの。貴方はマリーナールを信じたんだから仕方ないわ」
「申し訳ありません」
「父上、母は、エリーナを毎日呼びつけていたそうです。それもロゼの前で床に座らせて暴言を吐いていたのです」
「なぜ?」
「ロゼがCクラスに落ちたことで、ロゼが母に不満を言ったのでしょう」
「ロゼの勉強不足だろう。成績通知の内容は酷いものだった。学園に通う意味が見いだせない」
「ロゼを退学と言ったでしょ」
「退学にはしないが少し活を入れたんだ」
「そんなもの役にも立ちませんよ。ロゼの成績不振さえエリーナのせいになっていたのです。「ロゼの面倒も見ない姉ならいない方がまし」「エリーナはあの時死んでいたのよ」「あなたがいなければあの頃のように本邸で家族三人仲良く暮らせていたわ」「本当に忌々しい子ね」と母は愚痴ったそうです。それをロゼリーナが得意気に話しているのを聞きました」
「誰も報告しない」
「母の別邸は母の管理下ですから。それに父が母を大切にしているのを知っているから、父には母の侍女は伝えません」
「私は両方が上手くいくように」
「上手くなどいっていません。だからエリーナは倒れたのです。父は母も実子も中途半端なんです。一番弱いところにしわ寄せがいく。私も反省するところはあります。だからこそ、お祖母様のところでエリーナを見守りたい」
「ロースター、あなたの管理不行き届きね。使用人まであなたに忖度して報告をしなかったのは貴方の責任ね。母親の虐待を報告しないなんて考えられない。本邸が落ち着くまでセドリックとエリーナは私のとこで預かります。セドリックに伝えたけど、このままなら来年セドリックに領主を譲りなさい。この屋敷をあなたと妻とロゼに譲るわ。私は本邸に戻りセドリックの補佐に入るから、そのつもりでよく考えなさい」
「母上、、」
「ローライル公爵家は我が国の四公よ。誰でも良いわけではない。貴方の領主教育は私がしたの。忘れていないでしょ。お祖父さまは政ばかりに力を入れていたから私が家政と領政をするしかなかったの。その反動であなたは家族を大事にした。それはわかるわ。でもこれとそれとは違うでしょ」
セドリックは祖父を知らない。父が若くして当主になって苦労したのは聞いていたからこそ学園卒業したら父の補佐に入るつもりだった。どの当主でも早い代替わりは病気や事故による死亡以外ありえない。特に四公と八侯爵は自国の政に携わる重責だ。父は祖母の苦言をどう受け止めるかはわからない。父も母も大人だ。今は妹のことだけを心配しよう。
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次回更新は4月4日になります。
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