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6 おばあ様の病

 半年ごとに王都からくるグランド商会のロバートさんは、何かしらお土産を持ってきてくれる。おばあ様の好きな王都のお菓子や、薄黄色い柔らかなストール、きっとロバートさんはおばあ様が大好きなんだと思う。だって、グランド商会の会長さんだって、本来なら行商に出る必要ない立場らしいが、ぎりぎり王都内ということで息子さんに許されて行商に付いて来ていると付き添いの人が言っていた。


 おばあ様は今は髪が白くなったがとても上品でお淑やかだ。マロンみたいに走ったり、大声上げたりしない。挟みパンだって齧り付くことはない。ほとんどお化粧なんてしないけど色が白くて伏し目がちの目は驚くと真ん丸になる。もちろんマロンの前だけだけど。


 そのついでにマロンにも可愛い髪飾りや、耳飾りを渡してくれる。それがとても素敵なんだ。マロンの買った若草色の生地に生える色を選んでくれている。さすがにおしゃれなロバートさん。おばあ様もとても褒めてくれた。


 朝はパン屋に出向き、午後は家で座学を学び、若草色のワンピースを作り始めている。おばあ様は今のマロンの背丈より少し大きさを想定しているが、マロンはその先も着れるようスカートにひだを作って、背丈が伸びるたびにひだを外せば長く着ることが出来ると主張している。だって、おしゃれなワンピースを着る事なんて「祝福の儀」しか思いつかない。7歳で着れなくなるなんてもったいないとおばあ様を説得した。


「マロン、貴女は女の子だから装いは大切よ。これができたら違う色のワンピースを2・3枚は作らないと、仕事先に挨拶に行くのにも困るわよ」


「パン屋は問題ないけど」


「一生パン屋では働けないでしょ。息子さんがお嫁さんを連れてきたら、マロンは辞めないとならないでしょ。チュニックにパンツ姿は子供だから許されるけど、今だけよ。いつまでも子供ではいられないわよ」


 言われてみれば本当のことだった。全然気が付かなかった。「スキル」によってはこの街でなく他の街で働くことになるかもしれない。マロンはあわてて、針を動かすことにした。毎日少しずつ針を動かし、おばあ様と相談しながらワンピースを仕上げていった。ただおばあ様はフリルやリボンをつけたがる。わたしは少しはいいけど沢山は好きではない。


「マロンくらいのお嬢様たちはもっとフリルをつけるか大きなリボンを沢山つけているわよ」


「おばあ様、貴族のご令嬢は仕事をしません。フリルは物に引っかかって破損させてしまうわ。リボンは子供過ぎるわ。腰にストールみたいな帯を撒いてリボンにしたらどうかしら?」


 おばあ様と意見の衝突をしながら1枚仕上げるのに1年かかり、次の年には2枚仕上げることが出来た。もちろん、自慢のおばあ様の刺繍が、首回りやスカートの裾などに入っている。マロンの出来を数段押し上げている。


「マロンさん、シャーリーン様は少し瘦せましたか?」


 マロン7歳前の冬ロバートさんに声を掛けられた。おばあ様は最近咳が増え食欲があまりない。今日は久々に街に出てきた。マロンは以前から気になったことをロバートさんに相談した。なかなか診療所に行ってくれない。「死んだら裏の丘に埋めて欲しいの。いつこの街に帰っても一番にマロンが見えるように、お願いね」って言われたことを正直に話した。


しばらく思案したロバートさんは、おばあ様の実家の話を聞いているかと聞かれた。「両親はもう他界しているから、身よりはいない」と言っていたと伝えた。


「もう、除籍したんだ。それなら、王都で診察受けるか聞いて見るよ」


「除籍?」


「ああ、気にしなくていい」


 しかし、おばあ様は王都に向かうことなく、街の診療所に通うことになった。「年より病みだから心配ないそうよ。一応薬は貰ってきたわ。マロン、気に病み過ぎよ。人はいずれは星になるのよ。でもマロンはまだまだ心配ばかりかけるから、そう早く星にはならないわ」


 そう言って、おばあ様は家で過ごす時間が増えていった。マロン7歳の春「祝福の儀」をおばあ様と作った若草色のワンピースとロバートさんに貰った耳飾りと髪飾りをつけて教会に向かった。


「マロン、女神さまに感謝を必ず伝えるのよ。「良いスキル下さい」なんて言ってはダメよ。今日だけは淑女として、「分かりました。ユキ、おばあ様をよろしくね」」


 マロンは慌てず静かに家を出ていった。隣のカリンさんに「見違えたね。おめでとう」と声を掛けられた。マロンは思わずワンピースの裾を持ち膝を曲げ、淑女のお辞儀をして見せた。


「あらら、もう一人前のお嬢様だね。走らないようにいっておいで」


 そう言われたそばからマロンは、ワンピースの裾をひるがえし教会に向かって走り出した。教会から「祝福の儀」の開始の鐘がなったからだ。最初は貴族や裕福な家の子供、次に来た順番になる。街の子から遅くなると「スキルがしょぼくなる」と聞いた。本当かは分からないが、早いに越したことはない。マロンは淑女の顔は剥ぎ取り「明るく元気なパン屋の看板娘」の顔になって走り出した。


お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします! 誤字脱字報告感謝です (^o^)


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