59 王都に戻って
冬の長期休みを終えマロンたちは王都に戻った。ホワイトはそのままジルの元に留まった。ジルの淀みを浄化する仕事が、辺境を守ることになる。そして、母魔蜘蛛達を守れることに気が付いた。ホワイトはジルと共に大森林をめぐり、神の湯に入り、美味しいものを食べながらジルを浄化することにした。
「ユキは淋しいかな?」
「少しは淋しいが、ホワイトが決めたことだ。それに辺境に戻ればいつでも会える」
強気に話すユキをマロンは優しく両手で包む。しばらくもぞもぞしていたがそのうち手の中で静かになった。マロンはホワイトが紡いでくれた金色の糸でユキ用の敷物を作ることにした。ユキのハンカチはホワイトにユキが譲ったのだ。ホワイトはとても喜んでいた。ユキのぬくもりと匂いが手に入ったからだ。
ホワイトは強気にジルの元に残ると言ったが、母代わりのユキを恋しい気持ちは隠せていなかった。マロンはユキの許可を得てユキのハンカチをホワイトに送った。ホワイトの黒い瞳が少しウルウルしていた。これも独り立ちなんだとマロンは思った。
学園が始まったが、マリアマリアとタリンは病気療養のため退学と掲示板に書かれていた。さすがに犯罪内容は明かせない。SクラスではマリアマリアがSクラスに出入りできなかったので騒ぎにはならなかった。しかしAクラス以下の男生徒の中にはマリアマリアに傾倒していた生徒が色々探りを入れていた。
冬休みにタリンの屋敷に向かうことは数人知っていたことから、タリンがマリアマリアと逃避行したのではないかと噂が流れた。しかし、それを肯定も否定もする情報がない。後期試験が迫っているので、いつしか二人の噂は消えていった。
エリザベスがオズワルドから伝えられた話では、マリアマリアは王都の取り調べでは、しおらしく泣きながらタリンに騙されたと言った。流石に馬車の中で悪知恵を働かせたらしい。うっかり信じた者も出たようだが、辺境の取り調べの様子やマロンとの面会の様子を映した魔道具を見て驚いていた。
マリアマリアに魔道具の映像を見せると、自分の主張を辺境の時と同じように披露し始めた。
「この国を救うために異界から来た聖女」だと宣言した。特殊な魔法で自白させたが発言に変化は見られなかった。
自白剤でも発言に変化がなくても、荒唐無稽な話を信じる者はいない。ここまで思い込んでいては回復の望みがないということで、療養を兼ねた管理の厳しい修道院に幽閉されることになった。
マリアマリアを引き取った子爵は爵位を返上し、辺境に賠償金を支払うことになった。子爵の妻はマリアマリアの行動を肯定する夫に愛想をつかし息子を連れて離縁していたので連座はまぬがれた。
タリンは未成年であったこととマリアマリアを止めようとしていたことも考慮され、貴族籍剥奪、伯爵家預かりとなった。
辺境伯家でもタリンの家は昔から使える家であったので、きつい処罰は望まなかった。あまりにマリアマリアの言動が異質だったせいもある。オズワルドはひと月ほど王都に残り、尋問等に参加し処罰が決まった所で辺境に戻っていった。
「マロン、あの子は、「マロンも転生者だ」と騒いだそうよ。誰も信じてはいないけど困った子だ。魔法一つ使えないのに「先読みができる」と騒いだようだ。「マリアマリアはレイモンドと結婚して王妃になることがこの国の平穏を生む」と言ったそうだ。
自分の願望だろう。最後に「もう一度やり直ししないといけない。どこかに○○○ボタンがあるはず」と牢の中を探し回ったらしい」苦々しくハリスは言った。
「彼女は夢の記憶と現世の区別がつかなくなったみたい。夢の記憶と現世を捻じ曲げて無理やり合わせようとしたんだろうね。無理なことなのに。可哀そうね」
「これでマロンを煩わすことはないね」とユキは言った。マロンもいつまでもマリアマリアに引っ張られてはいられない。中期の試験の分を後期で取り戻さないといけない。学園中が試験勉強に取り組んだことで静かな学園生活になった。
後期試験が終わった瞬間に緊張の糸が切れた。マロンとエリザベスは無事にSクラスで3学年に進級できることになった。3学年になったら同じ教室で講義を受けることが少なくなる。エリザベス達令嬢は「淑女科」にほとんどが進むが中には「文科」から「領地経営」に進む者もいる。いずれは女領主になる予定のようだ。
男生徒は「魔法科」「文科」「騎士科」に分かれる。レイモンドは「文科」に進むようだ。もちろんユデットのように「魔法科」や「騎士科」を選ぶものもごく少数いる。マロンは「文科」か「魔法科」か悩んだ。「生活魔法」では魔法科の実技では無理があったが、魔法科の先の錬金術や魔法陣を学びたかったからだ。
「マロンは文科に進んで、頑張ってステップすれば錬金術や魔法陣取れるんじゃないの。さすがに「魔法科」で攻撃魔法バンバン飛ばすのは無理だろう」
ハリスの助言で、文化に進むことにした。ハリスは領主になるので文科に進みながら魔法の講義もとっている。文科の基礎の講義の本を貰い学んで、中期試験時ステップ申請することにした。ハリスから借りた本には几帳面な文字で色々書き加えてあった。読むだけでも勉強になる。
「ハリスはなかなか優秀のようだ。火球の大きさを絞りつつ、火力を増やす訓練をしている。よほどエリザベスやマロンの火球操作に感化されたんだな。ローガンの様な爆炎型も大事だが、一点集中型も効果が高い。これを身に付ければ辺境の魔法師の訓練が変わるかもな」
「コユキは随分いろいろの所に出向いているのね」
「おおそうだな。ホワイトに行っていた魔力が余っているからな。何か調べて欲しいことがあったらユキに言ってもいいぞ。任せておけ」
なんだか、悪のボスになっていくようなユキに「いつまでも良い子でいてね」とマロンはユキの綿毛を触りながら願った。ところで、ユキは何処から糸玉を出した?浮き輪をどうやってジルの所に持っていった?お菓子の粉が付いているということはお菓子をどこから見つけた?
「ユキ、あなた、お菓子何処から出したの?」
「え、、マロンから貰っただろう」
「わたしは手渡してないわよ。ホワイトの糸玉もユキが手渡してくれたわよね。あの糸玉はユキより大きかったはず。どうしてかな?」
「じ、ジルが,,」
「ジルはここには来ない約束よ」
「う,,」
「もしかして収納の魔法を手に入れたの?」
「うん、ジルが,,,出来るはずだって言ったんだ」
「それで、?」
「出来たんだ」
「収納と転移?」
「え,,,,なぜわかった?」
マロンはユキにかまをかけた。ユキは風に飛ばされるか、人に捕まって移動する。最初はセバスにくっついてジルの所に行ったが、のんびり寝ていたらセバスが先に帰ってしまった。慌てたユキはマロンのとこに戻りたいと強く願ったら転移が出来た。
翌日ジルのとこに行きたいと願ったらジルの所に行くことが出来た。驚いてユキはジルに相談した。ユキは今は魔力が十分あるし、長い年月森で生きていたら女神の恩恵がある。ただ使い方を知らないだけだった。
ユキはユキ以外の「ケサランパサラン」に会ったことがない。ユキでさえ遥か昔気が付いたら風に飛ばされ獣の毛に留まって移動していた。獣から人に移りあちこちを旅をした。それでも「ケサランパサラン」には会えなかった。だからユキに魔法が使えることを教えてくれるものがいなかった。
きっと「ケサランパサラン」は弱いのかもしれない。小さな体に貯められる魔力はけして多くはない。補充しながら生きていくために魔法が使えるほど魔力はたまらない。魔力のない人の街に出たら魔力を枯渇して消えてしまう。
綿毛を飛ばす植物は多くの綿毛を飛ばしてもそれが芽を出し花を咲かせるのはわずかだと聞いたことがある。ユキと一緒の飛ばされた仲間は散り散りになってしまったんだろう。ユキは豪運の持ち主かもしれない。
「ユキ、きっと、転移は魔力をたくさん使うから」
「うん、分かってる。ジルの所で経験した。気を付けるよ。その代わりお菓子の収納は許してくれ。コユキに魔力を分けるから、マロンのお菓子は役に立つんだ」
3学年が始まった。さすがにSクラスの級友はクラス移動する者はいなかった。エリザベス達は「淑女科」ユデットは迷ったが初志貫徹と「魔法科」驚いたのがアルファリアがマロンと同じ「文科」を選んだ。婚約者のレイモンドも「文科」だった。レイモンドは経済と領主経営を学ぶそうだ。
二人で相談したそうだ。レイモンドは「魔法科」が最初は希望だったが、オルリール公爵家を継ぐにはレイモンドの苦手な書類、法律関係を学んで、アルファリアを助けることを選んだ。いたずら小僧の様な第三王子が随分大人になったと皆で感心した。
「マロン、わたしもステップできる講義があったらステップして、マロンと一緒に「経済」を学ぼうかな。あまりに世間の事知らなさすぎだと思ったの。マロンと一緒にはグランド商会で働けないから経済の仕組みを学ぶことから始めたいわ」
「いいね。辺境は特産品が増えているからこそ役に立つわね」
「兄はお祖父様に似ているから、サポートする人が必要ね」
「エリザベスは王都に残らないの?」
「今の所、王都に残るのは考えられないわ」
「マロンと同じで夢がないわね」
「夢心地なのはあそこの二人だけよ」
「エリザベス、残念な報告。ジョアンはロックフル公爵家の長男と婚約したわ」
「えっ、?」
「エリザベス様、申し訳ありませんが、アンナニーは5年のライナー伯爵家の次男と婚約しました」
「えっ、いつの間に!」
「コーネルだって良い話が進んでいるそうよ」
「でも、ユデットにはないでしょ」
「ないわよ。だから三人で、、エリもいれて四人で仲良くしましょうね」
若い令嬢は恋の話が大好き。婚約者の出会いやお付き合いについて色々聞かれた彼女たちは頬を赤らめながらも幸せそうだった。政略結婚であろうとお互いを尊重しお付き合いを続ければお互いを大切な人と思えるようになるという。卒業まで皆で笑い合えれば良いとマロンは思った。
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