47 火球騒動のおまけ
「辺境では他国の侵略、魔物の討伐などで実践の戦いが求められている。王都に暮らしていれば生涯魔物には遭うことはない。
しかし、魔道具を動かす魔石、君たちの着る服の糸、宝飾、毛皮に薬の材料多くの恩恵をうけている。
多くの訓練と研鑽を積むことから得られた結果だ。
決して、彼女たちに聞けば簡単に出来ると思わないこと。ただ、彼女たちに聞きたい気持ちは分かる。
ここでその場を設けるから質問のある者は手を上げなさい」
上手く纏めてくれるのかと思えばそうはならなかった。
「どうしたら火球を小さくできるか」
「どうしたら曲げれるのか」
「火球の威力のあげる方法を知りたい」
「魔力量は高いのか」
「辺境で訓練すれば使えるようになるか」
「火球以外でも出来るのか」
「自衛のために他に何か方法はあるか」、、、
「随分出ましたね。先ずは辺境伯令嬢のエリザベスさん、お願いします」
困ったエリザベスはハリスとマロンを見た。ハリスは意を決してエリザベスの前に出た。
「わたくしは辺境伯嫡男、5学年のハリスと言います。妹の代わりにお話しします。
先ず火球を小さくする方法は、指先に身体強化を掛け出力を抑えながら小さな火球を作りそこに魔力を込め続けます。火球を大きくするのは簡単ですが小さくするのはとても難しいです。
先ず小さい火球を作る訓練を重ねてください。妹は火属性ですから属性魔法の使い手の方が火球の取り扱いが上手くいくかもしれません。簡単ではありません。私も訓練中です。
その火球の大きさのまま魔力を追加します。これには魔力操作が大きくかかわります。
一度に魔力を加速すれば火球は一気に巨大化しますし、簡単に破裂します。
小火球の大きさに変化を与えず魔力のみ送り込み火球の中の魔力を圧縮することが大切です。
貴族であれば魔力暴走を防ぐため幼い頃より訓練していると思います。その延長上に今があります。
今は魔力封じを使って、魔力を押えますが、辺境では自力で魔力を抑えることを学んでいます。
魔力量は個人情報なので伝えませんが、妹も私も高位貴族並みにあります。
マロンは多くはありませんがそのためか、繊細な魔力操作が得意です。
その結果が火球を曲げることにつながっていると師事している先生が言っていました。
ローガン先生は「業火のローガン」と言われていますが、魔力が強すぎて曲がらないと言っていました。ですので、高位貴族ほど曲げるのは難しいそうです。
でも近い未来曲げれることを知ったことで魔球を自在に動かす研究が進むかもしれません。
辺境に行っても魔球操作が高くなることはありません。学びは何処でもできます。ただ、目的と意欲の問題だと思います。妹もマロンも1年以上の時間を訓練に費やしています。
自衛については皆さまの家でも女性なら相応の訓練をされていると思います。それ以上はお家の方と相談してください。
我が家では国を守るために厳しい環境の中、父も領民も騎士も兵士も一丸となって訓練を重ね戦っています。田舎貴族と笑う者がいようとそんな事はどうでもよいのです。
辺境伯と言う立場と責務を遂行することが貴族としての全てです。そのために父は娘であっても民の盾になれと教えています。
エリザベスもマロンも穏やかな学園生活を望んでいます。問い合わせはわたくしか、フルメン先生にお願いします」
スクリーンの映像が消えた。マロンとエリザベスは「ふ~~」と一息ついた。ハリスさんには本当に助けられている。感謝しかない。
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「迷惑をかけたね。さすがハリス君だ。妹思いの良い兄だ。君はどちらができる?」
「先生、それではみなと同じではないですか。マロンの様なことは出来ません。ローガン先生が言っていましたが、マロンの魔力が特殊な環境にあったせいではないかと言ってました」
「特殊?」
「本来魔力量は生まれた時からあまり変わりません。訓練等で増えても倍になることはないと聞いています」
「通説は確かに大きく変化はしない」
「マロンは平民の魔力量から少しずつ増えているようです」
「今の魔法は属性魔法でないのか?」
「本人は違うと言っています。「ちょっと器用な生活魔法」と言っています。
先生は水の入ったコップを手で包み込むだけで暖かくできますか?マロンは「ヒート」と言って温めることが出来ます。
「ヒート」とは属性魔法ではありません。「ヒート」とは生活魔法の中では多くの魔力を使うので使える人は少ないのではないでしょう。先ほどの火球も本人は「着火の大きい物」と言うと思います」
「「ヒート」」バリンと陶器のコップが破壊された。さすが先生だけあって、大破裂にはならなかった。
「わたしもローガン先生も破壊したコップが山になりました。最後には自腹を切りました。先生は気を付けてください」
「マロン君は見せてくれないかな?」
「マロンには穏やかな学園生活を送らせてあげたいので、お断りします。
「ヒート」ができたらお声かけ下さい。属性魔法では取得できないのだと思っています。
マロンは何も思っていませんが、「生活魔法」のスキルを蔑む貴族もいます。公言しないでください」
ハリスは出来る限りエリザベスとマロンを守りたかった。母の愛情を受けることなく成長しているエリザベスが心折れぬようにと思っている。
父は優しいが、それを上手く言葉に伝えられない人だ。しかし母と別れてからはエリザベスに歩み寄ろうと努力している。いずれは父が再婚することになってもエリザベスを無下にする人は選ばないだろう。
それでも再婚したら家督は自分が貰うつもりだ。どんな時もエリザベスの後ろ盾になるつもりだからだ。
マロンは色々な商品を作り出している。知られれば何処から手が出るか分からない。本人の自覚がない。危機意識が低いのが問題。セバスもそれを知って色々訓練を積んだようだが、少し方向性が違うような気がする。
毎回何かしら問題を起こす二人だ。本人がその気でなくても男爵令嬢でSクラス、成績優秀で王族にもひるまない。良くも悪くも本人の思いとは外れ目立っている。
もう少しマロンもエリザベスも静かにしていて欲しい。マロンたちが卒業するまではハリスは王都に残ろうと思っている。出来るなら二人の婚約者を見届けたい。兄としての責務と思っている。
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穏やかな学園生活はそうも簡単にマロンには送れなかった。同じSクラスのレイモンドと共に数人のクラスメイトが陣取りと同じように絡んできた。
「マロンさん、どうしたら小さな火球を出せる?」
当たり障りのない所から攻めてくる。レイモンドをはじめ一緒にいる男生徒はみなそれなりに高位貴族。自宅には魔法師の教師がいるはずだ。
「皆様には高名な魔法師の教師がいると思います。その方に指導を仰いでください。わたしは元から大きな火球が出せないのです。大きな火球を知らないものが、おおきな火球を小さくするなど分かりません」
「そう言われると、、じゃあどうして小さな火球しか出せない?」
「魔力量がないからです」
「魔力量がないのにあの出力は?」
「分かりません。ただ、魔力を最初はゆっくり流し込み火球の大きさを変えない事かと」
「属性魔法は何?」
「レイモンド様、貴方は失礼なことを聞きますのね」
「人のスキルの詮索は禁止されています」
「人によっては自慢気に話す方もいますが、誰もがそうではありません」
「レイモンド様はアルファリア様のスキルを問いただしたのですか?」
「そんな失礼なことはしない」
「ではなぜ?マロンさんのを聞くのですか?」
「いや、、」
「皆様はご自分の家庭教師に教わればよいことを、マロンさんに押し付けないでください」
「魔法師の先生も言っていたではないですか。一朝一夕ではなく日々の訓練から生み出されると」
「自分は努力しないで、人の功績の上に胡坐をかくつもりですか?」
「いや、僕たちはそんなつもりではない」
女性陣の剣幕に男性陣はしどろもどろになっていった。手っ取り早く手に入れ自慢したいという子供のような考えに女生徒たちは呆れていた。遠巻きにしていた男生徒は静かに席に戻っていった。
「本当に子供よね。この中から婚約者を探すなんて無理だわ」
ユデットが囁く。幾人かの女生徒は頷く。
「仕方ないのよ。この年頃はまだ女性の方が精神的にも身体的にも男性より成長が早いんですって」
「3歳上の兄なんて、今でもおやつのお菓子で取り合いしますのよ。2歳下の弟とたいして変わらないわ」
「えっ、だって、お兄様って、エンリケ様ですよね。素敵な方ですよ」
「外ではしっかりしているように見えますが妹の私からしたら弟が二人いるように思います」
「エリザベスさんのお兄様は?」
「確かに兄は美味しいお菓子に弱い事や陣取りなどに夢中にはなるけど、頼りになります」
「そうよね。この間も立派に話されていたもの」
「いいわね」
「エリーナさんはどうです?」
「うちの兄は、、しっかりしていると思う。父にも自分の意見をはっきり伝えるし、わたしや妹も甘やかさないわね」
「セドリック様もとても素敵ですが厳しい方なのですね」
「自分にも厳しいけど相手にもそれ相応のものを求めるわ。わたしは兄から合格点など貰ったことがない」
さすがにお年頃の女生徒だけあって、身近な級友の兄たちは学年にいて会うことや見かけることがあるので素顔の話は楽しいようだった。ハリスやセドリックなどは次期当主だけあって人気が高いが、四公夫人となると求められるものも高い事は知っている。憧れと現実の違いをしっかりわきまえているSクラスの女生徒だった。
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