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46  火球騒動 

 マロンが頬を打たれたことは誰も知らないと思っていたらエリザベスは知っていた。エリーナが話したようだ。


「マロン、大変だったね」

「マロンさん、妹と母がご迷惑をかけました」


「大丈夫よ。治癒魔法で綺麗に治っているわ。わたしも学園の廊下だと思って気が緩んでいたの。身体強化で扇子をへし折ればよかった」

「ええ、?身体強化?扇子をへし折る?」


「エリ、辺境領では、貴族子女でも自衛のために護身術を習うのよ。王都の貴族は習わないの?」

「えっ、習わないわ」


「なんか面白い話してるわね。貴族令嬢は魔力があっても魔法を使うことはないのだけど、マロンとエリザベスは魔法が使えるの?」


「わたしは小さな火球を2個出して攻撃を掛けることが出来るわ。魔兎には何の効果もなかったけど、人には多少効果があると思う。でも、マロンは凄いの。マロンの養父は辺境の元騎士なの。もちろんとても強い方なの。今でも騎士団の訓練に参加しているし、「辺境伯令嬢はわが身を守れなくてどうする」と言われて、護身術の訓練が大変だったの」

「マロンさんも?」


「まぁ、でも養父がエリザベスに訓練中打ち身痣作った所で中止になった」


「わたしは護衛騎士や侍女もいるから、中止になったけどマロンは続けていたでしょ。わたしよりマロンの方が大変だったわ。四肢の身体強化に、体術に火球や風の刃を出すなんかも習ったはず」

「マロンさん二属性?」


「いいえ、違うの。わたしは元々庶民の「生活魔法」のスキルがあって、水・火・風の初級程度の魔法が使えるだけ。逃げ足を鍛えるための身体強化だから大したことはないわよ。魔法師になろうとしているユデットにはかなわないわ」


「「見て見たい」」

「マロンを困らせないで、学園内は魔法は禁止でしょ」


「エリザベスが先に話したんでしょ。聞けば見たいと思うの仕方ない事ですよ。ましてユデットの前で話せば止めるのは無理なことよ」

「訓練棟に行けば大丈夫よ」


 未知のものに興味津々のユデットが中心になって、放課後訓練棟に行くことになった。「エリザベスが余計なことを言うから」と言えばマロンが「身体強化?扇子をへし折る」なんて言ったからと言い返された。そんな話は耳をそばだてた級友たちにすぐに広がった。


 貴族令嬢は魔力を持ち得ても結婚を有利にするしかなかった。女性が魔法を使うなど基本考えられていない。ユデットみたいに魔法師をめざすなど特別の場合しか教育を受けない。それでも同じクラスの令嬢が魔法を使うことに驚きながらも見て見たいと思うのは仕方がないこと。


 魔法を使い始めた男生徒は興味津々、面白いことはすぐに広がった。「今日のSクラス落ち着きがありませんね。講義に集中してください」と講師から忠告を受けた。マロンもエリザベスのせいではないが、気が咎める。


「マロン、エリザベス、早く行きましょう」

「訓練棟の予約は?」


 抜かりのないユデットが忘れることもなく、一番小さい魔法用の訓練室を予約していた。ユデットは黙っていればお淑やかな貴族令嬢なのに、すべての思考と行動が脳筋よりの所がある。ユデットとレイモンドが結婚したらレイモンドはぺしゃんこに尻に敷かれるのは確実。


 ユデットは魔法師になりたいのでレイモンドは眼中にない。もったいない話だとエリザベスは言ったが、そのエリザベスも王族には興味がない。


 マロンは皆に背を押され初めて魔法訓練棟に足を踏み入れてた。一番小さいと言ってもSクラスの教室の10倍ほどの広さがある。天井から的がいくつも下がっている。的は自在に撃ち手からの距離を移動できる作りになっていた。


「全属性に対応してるから、火でも風でも水でも大丈夫よ。凄いのよ、先輩たちは大きな火球をぶつけて的を燃やしたり破壊していたわ。私も専攻科に入ったらバンバン的を壊す予定なの。

マロンは一番前に的を置きましょうか。10メーテル(10m)でいいかな?」


「わたしよりエリザベスさんの方が先にお願いします」

「仕方ないな。マロンも絶対やってよね」

エリザベスはマロンに一声かけて、1個の小さい火球を的に当てると的は破壊された。


「エリザベス、もっと的を遠くにしてもいい?」

ユデットはさらに的を遠くにしたが、エリザベスは的を破壊した。訓練室の半分ほどの奥に置いた的は破戒できなかった。しかしエリザベスは二個の小火球を出して再度挑戦して的を破壊した。


 ユデット達が目を見張るのが分かった。普通火球は大きいほど効果があると言っていたので、エリザベスの小火球の的の破戒は驚きだろう。エリザベスはマロンに場所を譲り渡した。


「わたしはエリザベスさんのように魔力があるわけではありません。がっかりしないでください」


 マロンは指先に身体強化を掛け魔力を集める。エリザベスより小さな火球が真っ直ぐに的を撃ち抜いた。エリザベスのように的が粉々にはなっていない。よく見れば的の真ん中に穴が開いていた。


「素晴らしい。周りに影響を与えず一点に魔力攻撃を与える。二つの火球を操るのも凄い。魔力の温存に向いている。他に何かできないか?見せてくれないか?」


 突然見学席から男性の声がした。「フルメン先生」と誰かが言った。マロンとエリザベスは顔を見合わせた。これ以上魔法科の先生に見せる技はない。


「動く的は撃てるかい?」


 固定されていた的が急にゆらゆらと動き始めた。エリザベスとマロンはそれぞれの火球で的を撃ち抜いていった。マロンは打ちにくい動きの的を選んで火球に捻りを加えることで方向を変え的を撃ち抜いた。動いた的は30個ほどあったがあっという間に的が破壊された残骸が床に落ちるか、穴の空い的がふらふら揺れていた。部屋中がシーンと静まり返っていた。フルメン先生の声だけが大きく響いた。


「お嬢さん二人は誰に師事していたか聞いても良いかな?」


「2年の北の辺境伯が娘、エリザベスです。魔導師のローガンに師事していました。辺境では子供の頃より魔法の扱いを学びます。それが女性でも同じです。撃ち漏らしの魔獣や蛮族に対して手を拱いてはいられません。貴族の務めと教わりました。魔獣も人も動きます。動く的を撃つことは普通のことです」


「「業火のローガン」か、なるほど、良き師に会えたが、あ奴は女性には厳しかったろう」

「いいえ、とても楽しかったです。新しい魔法に今でも夢中になっていました」


「ほおお、まだまだ若いの。魔力とは貴族が有することが多い。魔力がある同士の婚姻によって魔力は受け継がれる。だがそれだけではないとも言われてる。


 魔力がある者が魔導師、魔法師として国に仕えたり、在野で冒険者として生きていく。今は戦争がないが、一時は多くの魔導士が戦地に赴き死んで国を守った。


 今の魔導師、魔法師は国の守りに、魔道具の開発、街の整備など多方面で活躍している。しかし、辺境では他国の侵略、魔物の討伐などで実践の戦いが求められている。王都に暮らしていれば生涯魔物には遭うことはない。


 しかし、魔道具を動かす魔石、君たちの着る服の糸、宝飾、毛皮に薬の材料、防具など多くの恩恵をうけている。忘れてはいけない事なんだ。君たち辺境の貴族がいることで我が国が守られていることに感謝することを忘れないで欲しい。


 ローガンは凄い大きな火球を出すんだが破壊力が凄すぎて王都では彼の才能を生かせなかった。今頃は生き生きしてるであろうな。君たちは魔法の道には進まないだろうが、身に着けた能力は大切にしなさい。観覧席の生徒は良い物を見せてもらったと感謝しなさい」


「マロン、ローガン先生と知り合いみたい」

「そうだけど、どうして魔法科の講師がここに居るの?それだけでない。観覧席、、」

「ああ、いっぱいいるね。失敗したかも。強い女性はもてない、、」

「そこですか?早く帰りましょう」


 マロンとエリザベスが訓練棟を出ようとすると、そこにはハリスが待っていた。「大事になってるからついてこい」と言って、幾人かの体の大きい男生徒に守られ無事にカフェにたどり着いた。


「随分火球を上手く操れるようになったな」凄みのきいたハリスの声はやや不満げだった。


「わたしたちは自衛のためだから大きな火球はいらないから、魔力を小さく集めて小さな火球に変えただけ。あとは自在に動く的に撃ち抜く練習しただけ。

 でも、マロンは放たれた火球を自在に動かせるの。これは難しいとローガン先生は言っていたわ。魔力が強すぎると直線状にしか力が働かない。マロンの微妙な魔力量が良い働きをしていると言ってたわ。


 ローガン先生は「ヒート」も、小球も夢中になって訓練したけどお兄様と同じで破損した器の山とまる焦げの大地が残った所で諦めたわ」


「しばらく五月蠅くなるぞ。魔法にこだわりがある奴は粘着質な奴が多い」

「えっ、お兄様、怖い事言わないで」


「エリザベスよりマロンだ。魔法を曲げる。大より小が有効。追いかけられるぞ。俺も追いかけたいがきっと「ヒート」と同じで難しいか?出来ないだろうな。でも一通りやらないと納得しない奴らだからな」


「どうしよう?私が無理を言ったから、ごめんなさい」


 カフェに集まったユデットは泣き顔になっていた。しかし他のSクラスの生徒はマロンたちに教えてもらおうとうずうずしている。その筆頭がレイモンドとアレキサンドル。ハリスも困惑していた。そんな中カフェに響くパンパンと手を打つ音が響いた。


「カフェでは静かに。御用の方は会議室を用意しました移動してください。エリザベスさんとマロンさんは必ず来てください」

「エリザベス、なんか既視感が、、」


「わたしも同感。今回もマロン一人でお願いします」

「いいえ、逃がしませんよ。わたしの穏やかな学園生活が消えそうだ、、」


 ハリスに連れられカフェからの移動は多くの生徒を巻き込んだ。「野蛮な山猿」と誰かが囁いた。マロンの耳には聞こえた。「野蛮な山猿」がいるから国は守られている。馬鹿にするなとマロンは力が入った。大きなスクリーンがある会議室。見覚えがある風景だった。


「ではフルメン先生司会をお願いします」

なぜだかフルメン先生がこの場を仕切ってくれるようだ。王子たちが暴走しないのが助かる。


「魔法に興味ある者は先ほどの訓練棟の出来事を知っていると思う。今、先ほどの様子を映し出す。これを見ておかしいと思うものはよく見なさい。魔法は確かに大きな力だ。魔球の大きさと効力は必ずしも比例しない。つまり大きな火球では50メーテルの的を撃ち抜けない場合がある。火球に魔力をさらに込める必要がある。これは5学年の魔導科に進んでから学ぶ。


 同じ大きさと同じ形の小石と鉄の塊ならどちらが破壊力が高いか?考えれば解ることだ。これらは魔法科を選択後に学ぶ内容だ。魔力量が男性より少なく体力、体型が弱い女性だからこその工夫から生まれたものと考える」魔法科の先生の話は続いた。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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