44 不正を問われる
ロゼリーナ視点
私は公爵家の次女 長女とは双子でも私は両親に愛されて本邸でお母様のそばで育てられた。それだけでも私が大切にされているのが分かる。
銀色の白い髪と白い肌、茶色の瞳「あなたは本当に可愛らしい」といつも母は言ってくれる。侍女たちも「お美しい」と褒めてくれる。体を動かすのは得意、だからダンスはだれも負けないほど上手だと思う。それなのにお父様もお兄様も私とは踊ってくれない。
「ロゼは輝くばかりの美しさはわたしに似たのね。貴方なら王子様のお嫁さんになれるわね。王太子は結婚しているし第二王子は他国に婿に行く。第三王子はまだ婚約者はいないからロゼが第一候補ね」
鈴を転がすような母の声にロゼは胸がいっぱいになる。
「お姉様がいるわ」
「エリは病弱だから無理よ。ロゼほど華もないわ」
「お母様、お姉様にそんなことを言ってはお可哀そうです」
「ロゼは優しいわね。貴女の優しさは美点だけど、同情は禁物よ。足をすくわれるわ」
お母様はいつもロゼを優先してくれる。ロゼはそれだけの価値があるとお母様は言ってくれる。お茶会も街への買い物もいつも姉ではなくロゼがお母様と出かける。食事だってお母様とはいつも一緒、だから使用人だって、私の言うことは何でも聞いてくれる。公爵令嬢だものそれは当たり前だと思う。
それなのに学園に入ったら当然Sクラスだと思ったらAクラスだった。Aクラスには公爵家や侯爵家の子息が少ない。第三王子はSクラス、仕方がないのでお昼は王子様と共にと思っていたら
「ロゼ、親交を結ぶために同じクラスの方と食べたら?」
「ロゼ、レイモンド殿下と呼びなさい」と言い出した。
どうしてそんなこと言うの?エリもレイモンドを狙っているから、ロゼの邪魔をする?エリは勉強しかしてないから、王子の婚約者には向かないわ。お母様からはっきり言って貰わないと。家に帰って母に話せば母はロゼの味方になってくれる。
「エリ、学園ではロゼのお世話をしてあげて頂戴。姉でしょそんなこともできないの。第三王子を食事に誘うぐらいは貴女でもできるでしょ」ほら、お母様はロゼの味方。エリが悪いのよ。
「母上、双子ですからエリにお世話を頼むのはおかしいでしょ。それに王子を食事に誘う必要が何処にあるのですか?」
「セドリック、貴方は分かっていないのね。ロゼが王子と食事するにはSクラスのエリが声を掛けるのが自然でしょう。そこにロゼが参加してもおかしくないわ」
「だから、ロゼが直接王子に申し込めばいいのではないですか?」
「それじゃロゼが図々しいと思われるわ。きっかけさえつかめはすぐに王子がロゼを気に入るわ」
「ロゼは図々しいですよ。朝の馬車には遅れてくるし、宿題は忘れる。文句ばかりで同じ馬車に乗るのが苦痛です」お兄様は何を言っているの。私が王族になればお兄様だって助かるのに。
「お兄様そんな言い方しないで、ロゼ、寂しいです」
「セドリック、ロゼを泣かさないで、貴女の大切な妹でしょ」
「お母様には娘は一人ですから、僕はエリの兄になります」
「まあ、まあ、あなたは反抗ばかりしてエリの味方をする。だからエリが図に乗るのよ。ロゼが可哀そうでしょ」
食事の手を止め、兄と母が言い争いを始めた。エリは何も言わず静かに食事をしている。憎らしくなって睨みつけてやった。突然父が声を出した。
「静かにしなさい。ロゼはエリに頼らず自分のことは自分でしなさい。セドリックは口を慎みなさい。エリはSクラスに馴染んでいるようで安心している。ロゼの我儘に付き合わなくて良い。良い人脈を作りなさい。それから、マリーナール、子供たちを平等に扱いなさい。エリの個人資金に手を出さぬように。必要なら自分の資産を使いなさい」
「えっ?」お母様は慌てている。
「お母様はエリのお金を使っているのですか?エリはいずれ嫁に行くのに自分の蓄えがなければ嫁ぎ先で困るのではないですか?」
「一時的なことよ。エリも知っているわ。ね、エリ?」
「いいえ、知りませんでした。お父様、私の個人資産の管理をお父様にお願いします」
「エリ!母を信じられないの」
「マリーナール、仕方ないではないか。信頼とはそういうものだ。君がエリの療養中一度も顔を出さなかったのだから「信頼」など生まれようがないだろう」
「あ、あなた、それはエリの事を思って、、」
「僕もお父様もちゃんと訪問していました。感染する病でもないのに信じられません」
「セドリック、言葉を慎め」
なんとも険悪な雰囲気になったけど、ロゼには関係ない。お母様ももっと上手にやればいいのにとロゼは思う。それなのにSクラス男爵の娘が「陣取り」とかいうので、第二王子や第三王子と仲良くしているのが学園のスクリーンに映りだされていた。本当に嫌になっちゃう。エリがとっととロゼを第三王子に紹介しないからこんなことになる。
2学年になってもロゼはAクラス。絶対おかしい。あんな田舎貴族が続けてSクラスだなんて、Aクラスからも不満が出ていたわ。
「Sクラスに田舎の男爵ごときが入れるわけがない」
「きっと、不正をしたんじゃないかな?」
「ロゼ様がSクラスに入るはずなのに」
「不正は糾弾すべきですわ」
「正義の鉄槌を下せば、王家が認めますわ」
「やるべきです。私たちが後押しします」
あの子は不正でSクラスに入った。あの子がいなくなればロゼがSクラスに入れる。王子ともすんなり出会える。お母様に話したら学園に苦情を入れてくれることになった。ロゼが学園でのことを母親に話したことから始まった。
「ロゼリーナがそんなに虐められているなんて何も知らなかった。エリとセドリックは貴女をかばってはくれなかったの?本当に冷たい兄姉ね。旦那様も少しはロゼに気を掛けてくれたらいいのに。ロゼ、私に任せなさい。学園長に苦言を呈しましょう。ロゼはSクラスに戻してあげるわ」
母の行動は早かった。翌日にはロゼを休ませた。ロゼは母と公爵家の紋付の馬車で学園に向かっている。ロゼはこれから起こることに胸がわくわくした。こんな事なら1年の最初に言えばよかった。そうすれば、役立たずのエリにお願いなどする必要がなかった。
ロゼと母の雄姿をお兄様とエリに見せたい。きっと驚くわ。お父様だってロゼを見直すはず。母は馬車の中で怒りを抑えるためか扇子をぎゅっと握りしめている。いつもふわふわとした優しい母にしては少し過激な様子だが、学園長に抗議に行くのだからそれくらいは仕方がない。
今は講義中だから、Sクラスの馬車止めから学園に向かう。これが毎日になればいい。Sクラスの生徒が歩けば自然と周りの生徒が道を開ける。どんなに気持ちがいいのだろう。自分が主役になった姿を想像するだけで顔がにやけてしまう。
そう思って学園の廊下をお母様と学園長室に向かった。廊下には田舎貴族が授業中にもかかわらず廊下を歩いている。あれでSクラスのなどとは言えない。思わず母に声をかけた。
「お母様、あの子が例の子」
「何で講義中にふらふらしているの?学園はどういう教育をしているのかしら」
お母様は突然、あの子の頬を扇子で叩いた。頬から血が滲んでいる。いい気味だわ。少し胸がすく。本当はロゼリが叩き付けたいが、そんなことしたら王子の婚約者にはなれない。王子の婚約者は淑女でないといけないから我慢している。
あの女は何も言わず血の滲んだ頬を押さえた。「おさぼり中」だもの言い訳なんてできない。このことも学園長に言わないといけないと母に口添えしながら学園長室に向かった。振り返れば女の姿は消えていた。今頃どこかで泣いているだろう。いい気味だと思った。
母は躊躇することなく学園調長室に入っる。突然の公爵夫人の訪問に学園長たちが驚いている中母はソファーに優雅に腰掛けながらも物言いは激しいものだった。母の独壇場だった。
「田舎貴族が不正でSクラスに入るとはどういうことですか?」
「公爵令嬢を、ロゼリーナをSクラスに入れるのが当然でしょう」
「講義中ふらふらしている生徒など退学にしなさい」
「学院の管理はどうなっている。そんな事では多くの貴族の子供を預けている親は安心も信頼もできない。ひいては王家の威信にかかわる」
「ロゼリーナは優秀で気立ても良く見た通り美しい。これだけ揃っているロゼリーナをSクラスに入れないのは損失。もともとが間違ったクラス分けをしているのをご存じですか」
「ロゼは第三王子の婚約者になる素晴らしい素質がある」
お母様の褒めの言葉にロゼは頬が赤くなってしまう。その時入り口のドアがノックされた。学園長はドアの外から訪問者を確認して中に引き入れた。
学園長室に父とセドリックが入ってきた。母とロゼリーナは驚いたが援護に来てくれたのかとロゼはほくそ笑んだ。
この事が母とロゼの生活を変えることになるとはこの時思わなかった。
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