43 ホワイト(魔蜘蛛変異種)発見
「芋の薄切りフライ」「甘い芋焼き」はエリザベスとハリスに好評だった。料理長は「芋の薄切りフライ」はお酒の友にもいいと喜んでいた。しかし、油で揚げて、すぐに食べないとしおしおになり油ぽさがさらに強くなる。この「芋の薄切りフライ」をするための容器が必要だと料理長は辺境の魔道具師に依頼を出した。
依頼を出された方は訳も分からず空気を遮断する容器を試作して2個送ってよこした。料理長は1個の試作品に柔らかな布に包んだ「芋の薄切りフライ」を入れて、早馬で送った。すぐに辺境迫家の厨房長からレシピの問い合わせが来た。
もちろん、ハリスもエリザベスも「芋の薄切りフライ」の保管容器を欲しがり10個注文することになった。マロンにも料理長は1個確保してくれていた。寮に持ち帰るように沢山の「芋の薄切りフライ」と「甘い芋焼き」を持たせてくれた。ユキは寮でも食べれると大喜びしていた。
ハリスは昼休みに友達に食べさせ自慢をするつもりらしい。料理長はすぐにレシピ登録に保存容器の説明を加えた。エリザベスはさすがに淑女として学園にお菓子の持ち込みは出来なかった。
寮に戻る朝、タウンハウスのマロンの寝室の枕元にいるユキのフワフワの綿毛から1本の細い金色の毛?がゆらゆらしている。マロンはそっと摘んでみた。金色の毛?は綿毛でなく糸のような手触りだった。ユキはよく寝ているのでマロンは糸をゆっくり引っ張った。
金色の糸の下には真っ白な綿毛の小さな塊が付いていた。ユキの子供?分体?いつからいたのかマロンは全然気が付かなかった。ユキは寮にいることが多かったのはこの子の子育てのため?小さい綿毛をユキのもとに戻そうとした瞬間、小さな綿毛の塊から、白い8本の手?足?が伸びてきた。よく見れば白い綿毛に隠れて黒いくりくりしたまあるい目がマロンを見ている。
「君は魔蜘蛛かな?」
「あっ、見つかっちゃった。マロン、魔蜘蛛の変異種なんだ。親に見捨てられて死にそうだったから助けちゃった」
「どこで?もしかして辺境領の森?」
「そう、人と友好の魔蜘蛛の子供なんだが、体色が白い上に糸を出すことができなくて、仲間はずれにされていたんだ。あの森では死んでしまうから魔蜘蛛の母親が俺に手渡してきた」
森の中で白色は目立つ。天敵の魔鳥の餌食だし群れを危険にさらす。かわいい我が子でも群れから出すのが群れのトップの判断だ。それでも姿形が似ているユキに託すのは親心なのかもしれない。
ユキは魔物の肉など得る方法がないので、自分の魔力を与えた。死にはしないが回復にずいぶん時間がかかった。今は大気中の魔素を取り込んで1人で生きれるようになったが、ユキを親として離れなくなった。ユキも小魔蜘蛛は友か子分か分からないが一緒にいるのは楽しいようだ。魔力を糧に、、もしかしてマロンを糧にしているのか? 寮生活で生活魔法使ったけど支障なかったから良いか。
「今はマロンから魔力もらってないから」
「うんうん」小魔蜘蛛が頷いている。言葉は理解しているようだ。
「学園に行くとき連れて行くと良いぞ。悪意を感知する。いずれ聖魔法が使えるようになると思う。ただ身体が小さいから効果は弱いかもな。名前は、、」
「名前は「ホワイト」。ユキは寮で昼寝?」
「ユキはユキで分体が出歩くことが出来るようになってるから色々調べてくるよ」
「分体ですか?」
ユキはマロンの前で、軽く体を震わせると10本ほどの綿毛がふわりとユキの体から浮かび上がった。
「整列、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」
整列した綿毛は番号順にピッコと跳ねた。ユキは自慢げにユキの前に浮かぶ。分隊では可愛くないので「コユキ」と代わりの名をつけた。コユキたちは小さな隙間から寮の部屋から外へ出かけ外の様子を本体のユキに届けることができるようになったとユキの説明に驚いた。さらに10個のコユキは合体することもできる。数が多ければ遠距離移動も可能になるとユキが威張っている。
「ユキ、コユキに危ないことさせないでね」
「分かっています。でもね、マロンに嫌がらせる奴は俺が潰してやる」
「朝から物騒ね。つぶす前に私に声をかけて。人には人の事情があるから。ユキにクッキーを渡しておくので良い子にしていてね」
マロンは早めに寮に向かうためにタウンハウスから家紋のない馬車で送ってもらった。翌朝には新学期前にいくつかの試験をうけた。試験によりステップ制度を用いていて、いくつかの教科の修了書を得ることができた。ステップ制度で学年は飛び級ができない。その代わり修了書を貰うことが出来た講義の空き時間を別の講義をうけることができたり、休講時間として個人の時間として使うことができる。学園生活は人脈や就職、婚約者を探すなど貴族にとっては学業の次に大切なことのためにあまりステップは使わない。
しかし、マロンは学園の図書館を利用したかった。おばあ様に譲られた本の中に文字の読めないものがいくつもあった。共通語以外の近隣の言語かもしれないので調べる時間が欲しかった。学年中期、後期の試験は当然受ける必要がる。それさえ受ければステップ次第で空き時間を有効に使える。1年の後期試験結果でマロンを含め仲の良い級友はSクラスで変わらない。
「マロンはステップで空いた時間は何するの?」
「図書館で調べ物しようかと思っています」
マロンはおばあ様の本を1冊開いて見せた。多くの者は見たことのない文字であったがエリーナが文字の解析のきっかけを教えてくれた。
「お祖母様の所で見たことがある。「古代語」?と言っていたわ。今は失われた言葉らしい」
「古代語」と言う言葉から名前ぐらいは聞いたことがあるが文字自体は知らないといっていた。それだけでも良い手掛かりになる。マロンは育てのおばあ様が、家庭教師をした時集めた本に数冊文字が読めない本があることを説明した。
「おばあ様と言う方は、学識の高い方だったんですね」
「学園卒業して、王宮で文官として働いて、どこかの貴族家に仕えたと聞いています。収入の半分は本に変わったんだと思います」
「女性文官!なんてすばらしい仕事でしょう。おばあ様の時代では大変だったと思います。叔母が「古臭い爺、、あら失礼。古きを重んじる古老に苦慮しているとよく話しています」
「おばあ様も女性文官としての未来が見えなかったようです。その時声を掛けてくれた貴族家に生涯使えたようです」
波乱万丈の女性の人生に、Sクラスの女性とは自分の身を慮るようだった。マロンは寮に戻り片付けを済ませたのち寮の食堂に向かった。寮の食堂はまだ閑散としていたが数人は楽しそうに話をしていた。
「マロンさん、こんな事言うのは申し訳ないけど、Sクラスを抜けた方が良いのではないかしら」
マロンと時々食堂で顔を合わせる伯爵家のハーナリだった。今回の試験でもロゼリーナはSクラスに上がれなかった。それは試験に不正があると言い出した。試験結果は細かい点数は出していない。だから誰がAクラスの一位かは分からない。
「学園は学ぶ場所ですから。もうステップも受けましたので、今更苦情言われても、、」
「そうよね。ただ、ロゼリーナ様には気を付けて。「陣取り」で王子とも対戦したでしょ。彼女王家に嫁ぐのは自分だと思っているのよ。だからマロンさんが王子に取り入ってると思っているの」
「エリーナ様の方が優秀だと思うけど」
ロゼリーナは 幼少時エリーナと共に体が弱く別々に療養していた。その中でロゼリーナは両親のもとで大事にされていたからロゼリーナは双子の妹でも自分の方が家族に大切にされているし、優秀だと思っている。Aクラスではロゼリーナより下位貴族令嬢の取り巻きに持ち上げらさらにその気になっている。
「Sクラスに田舎の男爵ごときが入れるわけがない」
「きっと、不正をしたんじゃないかな?」
「ロゼ様がSクラスに入るはずを邪魔した」
「不正は糾弾すべきですわ」
「正義の鉄槌を下せば、王家が認めますわ」
「やるべきです。私たちが後押しします」
何とも言えない情報をコユキが集めてきた。マロンは学園内なら口論程度で済むと高を括っていた。しかし、子供の喧嘩?に親が口を出すことで大事になった。2学年が始まって、マロンが図書館に通いだそうとした頃だった。申し訳なさそうにエリーナがマロンに声を掛けてきた。
「マロンさん、うちの母とロゼが迷惑をかけます」
「えっ、お母様が?」
「わたしがいくら説明しても母はロゼの味方しかしないのです。兄に相談しているうちに、ロゼが母と共に暴走して、、今日学園に怒鳴り込もうとしているの。父には連絡を入れているけど間に合うかしら」
「「なぜ?マロンさんが?」」
「聞いたことある。不正をしてSクラスに入っている男爵令嬢って、マロンさんのことだったの?ありえないわ。ステップ使える人が不正などする必要がない」
「だから、間違いだと言っても聞いてはくれない。それにロゼがAクラスでトップの成績だから自分が繰り上がると思い込んでいるの。その自信が何処から来ているのか分からない」
「わたしは不正はしていないから心配しないで。それでも学園の指示に従うしかない。やめろと言われたら仕方がない。元々通えなかった学園だもの」
「マロンさん、あなたは女性文官として孤軍奮闘した女性の孫でしょ。そんな投げ槍はダメよ」
「マロンが優秀なのは領地で二年一緒に暮らしたわたしがよく知っているわ。不正がまかり通るならわたくしが抗議します」
Sクラスにの級友が声を掛けてくれる。もともとマロンは学園に入れる身分ではなかったので、諦めが早かったのかもしれない。ざわざわした教室に担任がひょっこと現れた。
「我が学園は最初にi言った通り実力主義だ。それは真面目に学ぶ者を正当に評価するということだ。どのクラスにも不正は許してはいない。まして身分やお金で成績を買えることはない。すべての試験に魔道具の監視が行われている。わたしたち講師も同じことが言える。不正が発覚した時点で、生徒は退学、学園職員は退職になる。学園を信頼してほしい」
いつもと違い真剣に生徒に話しかける先生は少し頼りがいがあった。マロンは3・4講義が空いていたので図書館に向かおうと歩いていた。きれいに着飾った女性とロゼリーナが歩いてきた。マロンは廊下の隅により頭を下げた。しかし二人は通り過ぎることなくマロンの前に留まった。マロンが顔を上げた瞬間に頬を打たれた。さすがのマロンも突然のことで体ごと横に振られた。
「田舎の男爵ごときが不正で成績を上げるなど、恥ずかしくはないのかしら」
「お母様、扇子が折れてしまいます。学園長の部屋へ行きましょう。貴女、身の程をわきまえてくださいませ。前から注意しているのに耳を貸さないからこういう事になるのよ。荷造りでもしたらいいわ」
茫然とするマロンを置いて二人は通り過ぎていった。講義中であったので、誰も見てはいなかった。顔も知らない夫人に直接話もしたことのないロゼリーナの敵意にマロンは怒りを感じた。先ほどまでは流されるまま学園辞めても仕方がないかと思っていたが、扇子で叩かれた頬からは血が滲んでいる。
こんな理不尽な行為を受け入れたら、これからもそのような行為のたびに自分を押し殺す癖がつく。義父が鍛えたのは体ばかりではない。学園でまだ学びたいことがある。マロンは意を決して講師室の隣の救護室に向かった。
マロンを出迎えた救護室の女性は、すぐに傷の手当てをして、治癒魔法をかけてくれた。もちろん治癒前の様子は記録器で撮影された。さすがにマロンではここまで綺麗には治らない。それでも、治癒師としてはまだ修行中だと言っていた。いつか治癒魔法の指導を受けたいと申し込もうとマロンは思った。
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