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39 「陣取り」は奥が深い

「ああ、、どうして負けるんだ」

 陣取り板に項垂れるレイモンド。マロンはあまりに負けが続くので助言をすることにした。


「レイモンド様、目先の駒を返すことばかりに気がいっています。板全体を見てどこに置けば有効かを考えないと、このように多くの駒がマロンの色に変わります。目の前の駒を捨ててあとから複数の駒を得ることも大切です」


「ああ、、悔しい。もう一度!」

 懲りないレイモンドに級友も声を掛けようがなくなった。


「次がある」

「次に勝てばいい」

「次こそ勝てる」

「マロンは特別だ」

「マロンに勝つのは諦めろ」


 昼休みの時間を確認してレイモンドがマロンに頭を下げる。いい加減諦めて欲しいと思うが、毎晩兄王子たちに特訓を受けているからきっと勝利は近いと本人は張り切っている。疎遠がちだった兄弟は会話が増え、レイモンドは兄たちの優秀さを素直に認めることが出来た。可愛い弟にどう接して良いか分からずいた兄たちはレイモンドの求めに応じることで関係が深まった。「陣取り」は国の平和に貢献していた。


「レイモンド、そう興奮しては勝てる勝負も勝てないぞ」


 急に頭の上から声がした。周りを取り囲んだ級友が二手に分かれた。そこにはハリスともう一人金髪の顔の整った少年がいた。マロンは何も分からず椅子に座ったままでいた。


「兄上、マロン嬢は強いのです。兄上でも勝てませんよ」

「それなら、、」

「アレキ、止めておけ。1年生の午後の講義が迫っている。それにマロンにはおまえでは勝てない」

「ハリスより強いのか?」

「まぁ、いい勝負だ。エリザベス、早く切り上げて教室に向かいなさい」


 時間を忘れていたわけではないが、レイモンドを止める機会を逸していた。慌てて、Sクラスの生徒は教室に向かった。思わずマロンはハリスを睨んだが、ハリスはにこやかに微笑みマロンの肩をポンと叩いた。食堂に残っていた女生徒から「キャッ」と言う黄色い声が聞こえた。教室に向かいながらエリザベスは謝まってきた。


「マロン、ごめんね。でもノイシュヴァン家が負けるわけにいかないでしょ」

 

 エリザベスの気持ちは分かるが、マロンはノイシュヴァン家の者ではない。まあそこに属するオットニー家ではあるが。今回だけだと思っていたがそうはならなかった。Sクラスの生徒は男女に別れ「陣取り」の練習を始めた。


 エリザベスもマロンも自作の「陣取り」を持ち込むことになった。しばらくして、レイモンドがグランド商会から手に入れた「陣取り」がSクラスに常設された。レイモンドは負けたのが悔しいのか誰でも練習できるようにと自前のお金で5組購入していた。


「陣取り」が苦手な生徒にはマロンが提供した「数字札」で「札合わせ」や「数字並べ」、「魔物引き」を楽しむようになった。Sクラスの纏まりは他のクラスに負けないほどになっていた。そこに担任が加わって、さらに拍車をかけた。


「マロンさん、プーランクと勝負をしてください」

「マロン、俺との勝負が先です。教師は教師とやって下さい」

「そこは担任特権でいいではありませんか」

「それでは王族特権で、、」

「先に級友に5戦連勝しましたら勝負をお受けます。担任特権も王族特権も関係ありません」


 教師と王子はクラスの有志に挑戦しては、なかなか5連勝にはなれない。しばらくは穏やかに過ごせると思えばそうはならなかった。


「マロン、第二王子がマロンと対戦したいそうよ」


 エリザベスはハリスから頼まれたようで、申し訳なさそうにマロンに告げた。レイモンドがマロンに1勝もできていないので、兄のアレキサンドルに助けを求めたのが原因。「遊びだから」と言っても聞き入れてはくれないし、手抜きをしようとするとどういう訳か「手を抜こうとしたでしょう。不敬ですよ」とレイモンドは鼻を膨らめる。マロンはレイモンドに勝ち抜くしかなくなってしまった。その結果が第二王子との対戦となった。


 それに乗り気になった担任プーランクが広めの会議室を用意してくれた。そんな事しなくても良いのにと言い張ったが、第二王子でもSクラスには入れないし、食堂では他の生徒に迷惑になると言われれば仕方ない。大会でもないのに見学者などいない、と思ったがそうでもなかった。どうして学園長がいる。プーランク以外の教師も来ている。マロンは項垂れてしまった。


「マロン、ごめん。俺は止めたんだが、アレキは弟に弱いんだよ。「陣取り」が弱いのでなく弟に甘いのだ。3年が1年に挑むなどよせばいいのに、、ごめん。今度街で何かを奢るよ。でもノイシュヴァン家の代表として手を抜いてはいけないよ。王族なんかに負けるな」


 ああ、、似たもの兄妹だ。「お義父様わたしは勝っても良いのですか?負けたら手抜きと言って罰せられますか?」心の中で質問したが答えは帰ってこない。


『マロン、勝負の世界は厳しい。あ奴はハリスといい勝負だ。ゆっくり考えれば勝機は十分ある。辺境の底力を見せろ。マロンは発案者だ。負けるわけにいかない』ユキが囁く。


 ここでなんでユキが乗り気になっている。いつもなら寮でゴロゴロしているのに今日はユキの方が乗り気でマロンの髪飾りのようになっている。ユキとも辺境で「陣取り」を部屋でやっていたので見るのも楽しいようだ。なんせユキは駒を動かせないので、マロンが両側の駒を動かす。一人陣取りしているように見える。


 用意された「陣取り」は魔道具になっていた。会議室の前方のスクリーンに駒の動きが瞬時に映りだされる。こんな事に魔道具を使うなよと思ったが、会議で使う解説用の魔道具を魔道具の講師が弄ったらしい。そのおかげで食堂の時のように生徒に囲まれる事にはならなかった。スクリーンの手前に対戦席は設けられ。横には審判のプーランクが立っていた。


『なかなかかっこいいな。これは名勝負をしないと勿体ないな。見せ場を作れ』


 ユキの無理なお願いを聞きながら、放課後対戦は開始された。マロンは早く終わりたいのでどんどん駒を動かすも、相手のアレキサンドルが一手一手に時間をかけ戦略を練りながら駒を動かす。


 レイモンドが「猪突猛進」ならアレキサンドルは「沈思黙考」のようだ。アレキサンドルは他国に婿に行くことが決まっている。他国と自国を繋ぐ大切な役割がある。確かに「沈思黙考」は大切だ。


 レイモンドでは思慮が足りない気がする。レイモンドは臣下降籍予定と聞いた。しっかりした妻がいれば安泰だろう。そんな事を考えているうちに1刻ほどで勝負がついた。気がつけば会議室には多くの生徒が来ていた。


 前を見ればアレキサンドルが陣取り版を睨めつけている。本来は勝っても負けても笑って終わりにする遊びだとマロンは思っている。それなのに整った顔の眉間に深い皴ができている。皴がそのまま残ったらマロンは多くの令嬢に恨まれると思うと早く終わりたいと願った。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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