38 色々ある学園生活
マロンは生活魔法を生かして寮生活を快適に過ごしていた。義母に持たされた魔道具も本当に便利だった。大きく立派な魔道具が価値があると言われていたので、今までは形は大きく、きれいに装飾され見栄えの良い物を生産していた。義父は私のために魔道具の小型化を進めた。「ヒート」の手軽さが欲しかったようだ。「ヒート」のようにはいかないが、小型化は魔導具の普及に大きく貢献した。
使用する魔石が小さくなることで魔石が手に入りやすくなる。場所を取らず、持ち運びが便利。少人数に適している。価格も正規品より安い。従来の魔道具の大きさに使う希少金属が極わずかで良いからだ。基本の設計をあぶるだけなので開発に時間がかからなかった。
マロンは小型魔石コンロでお湯を沸かし2杯の紅茶と作り置きした焼き菓子で朝を迎える。贅沢な習慣だが辺境で過ごして身につけたものだ。「クリーン」一つで身支度が始まる。私服で朝食を取り、制服に着替え学園に向かう。少し離れているが同じ敷地なので良い運動になる。
学園の長い廊下を歩けば突き当たりに教室がある。入り口で登録確認のバッチが光る。Sクラスは王族を含め高位貴族が多いから安全のために出入りの確認がなされる。学園内に護衛の騎士や侍女を伴わせない代わりに魔道具で警備をしているといわれている。
魔道具のない時代は一人の生徒に護衛や侍女を連れていたらしい。今の数十倍の人数が学園内を移動する。人が多ければ争いは起こる。貴族の護衛同士が言い争いになったり、侍女の揉め事も多かったようだ。主の身分を護衛や侍女が引きついてしまうことが大きな要因。魔道具は便利なだけでなく人の多さによる争いを失くした。
マロンはSクラスでなくてもよかったが、クラス分け試験が優秀な結果だった仕方がないが、どんどん深掘りした講義を受けることが出来るのは良かった。級友とも親交を深めたので居心地が良くなった。
しかし、マロンはクラス内で落ち着いて講義を受けれるが教室を一旦出ると、何処からか湧いてきた見知らぬ令嬢に取り囲まれることが増えた。Sクラスの唯一の男爵令嬢、配下に置けば有効に使えると思っているようだ。マロンにとって派閥もなければ弱みもない。ただ取り囲まれるのが嫌になる。
「○○様を紹介して」
「○○様のお好きな物は?」
「○○様は婚約者がいるか?」
「○○様をカフェに連れてきなさい」
「何であなたがSクラスなの。不正ではなくて」、、、
なんとも五月蠅い子供達だ。まだ、同年齢なら良いけど上級生が加わると「派閥?」が出来上がる。学園に来る目的が何なのか問いただしたい。だからこそ寮生活はありがたい。学外で会えば何を要求されるか分からない。さすがに学内では騒ぎは起こさないと思いたい。
学園の開始前になると馬車で通う生徒が専用の馬車降り場から教室に向かってくる。馬車はクラス別に送迎場所が決まっている。当然Sクラスは優遇されていた。Sクラスの生徒が歩けば自然と両脇に生徒が分かれ道を譲るのが決まりのようだ。
それはマロンがエリザベスと馬車から降りても同じらしいが、後から何を言われるか分からないので、決してエリザベスと馬車に乗らない。そんな面倒くさいことがあっても教室に入れば学ぶ楽しさに後のことなど忘れる。学園にも級友にも慣れた頃、ユデットが宝石をあしらった「陣取り」を持ち込んだ。
「この「陣取り」と言う遊びが兄様たちに凄く流行っているの。大会も開いたそうよ」
「学校行事?」
「違うわ。有志だそうよ。今年も大会があるみたいなの。大会に参加しません?わたし、兄に勝ったことありませんの。悔しいわ」
「あっ、それは男子寮で流行りだした遊びだ。確か辺境領で作られたもののはずだ。先読みしながら駒を動かす「頭脳戦」の遊びだ」
隣から男子生徒が声を掛けてきた。さらに第三王子のレイモンドが口を挟む。一斉にエリザベスに視線が集まる。エリザベスがちらりとマロンを見たがマロンは首を振る。(お願い、発案者だと言わないで)
「それならエリザベス嬢は兄上のハリスさんと良く戦ったのですか?」
「ええ、兄は自分専用の石でできた「陣取り」を使っていました」
「僕もアレキ兄さんに最近手ほどきを受けています」
「「「やって見せて欲しい」」」
騒ぎが大きくなり、昼食後食堂の隅で対戦することになった。クラス中が見守る中での対戦にマロンはエリザベスに「頑張れ」と心から声援を送ることにした。
「申し訳ございません。わたしは初戦しか兄には勝てていません。わたしより強い者がいます。その方を推薦します。マ・ロ・ンさん」
一斉にマロンをみんなが見つめる。この状況でお断わりなど出来ようもなく、王子との対戦になった。もちろん「手抜きはダメよ。すぐにばれるわ。必ず勝って。発祥地の威厳を示すのです」エリザベスの鼻息が荒い。それならエリザベスが出ればよいが、きっと大負けしそうだ。「発案者」と言われないだけ良いかと思うことにした。
昼食が終わり、人が少なくなった食堂の隅にSクラスの生徒が集まり、その中心にマロンとレイモンドがいる。ユデットの高価な「陣取り」を挟んで黒と黄色に色分けされた駒をそれぞれが手にする。息をのむなか戦いは始まったと思ったら、あっという間にマロンの黄色い駒が版を埋めていく。
「ちょっと待った」
「ちょっと待ったはありません。レイモンド様」
エリザベスの声が響く。いつの間にかエリザベスが審判になっていた。その後すぐに勝者が決まる。
「勝者、マロン・オットニー」
「も、もう一度お願いします」
マロンに頭を下げる王子の姿はどうなんだろう。思わずエリザベスを仰ぎ見れば、「ニヤリ」と笑うエリザベスとユデットいた。
「レイモンド様、再戦は構いませんが負けましたら、カフェでお茶を奢ってくれますか?兄は食後のお菓子を賭けていました」
「も、もちろんだ」
マロンの意思など関係なく、再戦が開始されたがマロンが負けることはなかった。さすがにもう一戦には時間が足りない。皆に背中を叩かれ慰められる王子を横に。「やったね」とほくそ笑むエリザベス達。女性は明日にもレイモンドからお茶を奢ってもらうことにしたようだ。
王子にお茶を奢らせることは不敬ではないのかと言ったらユデットが「大丈夫よ。わたし幼馴染だから約束破ったら幼い頃の恥ずかしい事言いふらすわ」と言い出した。王妃様とユデットの母親が学友だったらしく今でも親交があるので、幼い頃はよく遊んだらしい。
子供の頃の遊び友達は恋の対象ではないから、婚約者は辞退したいらしい。しかし、勝気なユデットにはレイモンドは今も勝てないだろう。毎日対戦してそのたびに何かを奢らせるのも楽しいかもと話しているのを聞くと、マロンも暢気に対戦しているわけにはいかない。どうやって対戦を断るのが良いか悩まされることになった。
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