37 騒がしい初日
担任の話が終わり自己紹介やクラス役員の選出などもろもろに時間を取られ、学園生活の初日が終わる。今日は共に食事をとろうと誘われ、エリザベスと共に上級食堂に向かった。
食堂の入り口までも聞こえる大きな声、あるまじき状況が目の前で繰り広げられていた。一人は同じクラスの公爵家のエリーナ、マロンと同じ茶色髪の静かな女生徒。
「お姉さま、食事を一緒にとりましょう」
「ロゼ、親交を結ぶために同じクラスの方と食べたら?」
「ずるいわ。お姉様だけでレイモンド様とお食事するのでしょう?」
「ロゼ、レイモンド殿下と」
「同級生ですものよろしいでしょう。学園では身分をによる差別はないと言っていたわ」
「それはそうだけど、、」
「お姉様、レイモンド様を誘ってください。同じクラスでしょ」
「・・・・」
皆の迷惑になっていることに気がつかないお嬢様は食堂の人の流れを堰き止めている。エリーナは遠慮がちに自分の体の向きを変えながら妹を誘導している。Sクラスの公爵家のユディットが痺れを切らし声を変える寸前にエリザベスが声を掛けた。
「失礼します。エリーナ様のお妹様ですか?わたくしは」
「私は四公の娘なの。格下の者が私に声を掛けるなんて常識がないのかしら?」」
「「「・・・・」」」
「ロゼリーナ!この方は辺境伯、」
「田舎の貴族が口を挟まないで。身分をわきまえてと言っているでしょう。躾がなっていないわ」
「エリーナ様、もういいわ。マロン、今日はあちらで食事をしましょう。失礼します」
話に聞く甘やかされたお嬢様だ。エリーナ様はローライル公爵家。辺境伯とは同等の身分。それさえも理解していない口調にマロンは呆れた。公爵家なら幼いころから教育を受けているはずなのにエリーナとは大違い。
言い争っても無駄だとエリザベスは見切りをつけたようだ。王子様はとっくに学園を出ているのに。まだ後ろではロゼリーナが騒いでいる。同じ学年ということは双子かな?エリーナもはっきり断ればいいのに。ああいうお子様は躾が難しい。わめくことで自分の我を通す癖がついている。普段からエリーナは折れてばかりいるのかもしれない。
上級食堂の窓側のテーブルでエリザベスとマロンはサンドイッチとスープで昼食を済ませていた。まだ初日なので、一人で食べているものもちらほらいる。エリーナの妹は王子がいないことで諦めたらしく個室で食事をとり始めたようだ。今日は一年生は半日、家から通っているなら家に帰ればよいのにと思ってしまう。「エリーナ様も大変ね」とエリザベスが囁いた。
「エリザベス様、ご一緒してもよろしいかしら?」
同じクラスの女生徒だった。マロンは慌てて席を立とうとしたが止められた。
「エリザベス様と「学友」だったと聞いています。同じクラスですので親しくしてください。ユディット・リチャックです。ユディと呼んでください」
「わたしはアルファリア・オルリール。アルファと呼んでください」
「ジョアン・イーグルです」
「アンナニー・ウエスト、アンと呼んでください」
「コーネル・サウスです。仲良くしてください」
「わたしはマロン・オットニーです」
ユディの明るい性格は人を引き付けるのか、エリザベスを巻き込み一つのグループを形成した。マロンは抜け出せなかったが、高位貴族とは言えそれを振りかざさない様子に安堵した。
ユディはいろいろのことを知っていた。先ほどの「ロゼリーナ」はエリーナと双子の姉妹。第三王子の婚約者候補にユデットとアルファリアの名が挙がっているが自分は魔法師になる夢があると話す。アルファリアは伏し目がちに微笑んでいる。これはアルファリアが筆頭婚約者だとエリザベスと目を合わせた。
アルファリアは控えめだが芯が強い可愛らしい女性だった。自分以外にも侯爵家、伯爵家からも候補が上がっていると伝えてきた。貴族どうしの婚約は色々な意味で正式にお披露目するまでは秘密裏に事を進める。どこから横やりが入るか分からないからとアンナニーが説明してくれた。
エリザベスもマロンも婚約など頭の隅にも入っていなかった。跡取りのハリスさえ女性の影はないようだ。マロンたちがタウンハウスにいる間、学園が終わるとまっすぐ帰ってきていたような気がする。それではいけない気がしてきた。逞しい嫁を見つけないと、一生一人者になってしまう。
エリザベスは「おじさまのとこの息子もいるからお兄様が結婚しなくても心配ないわ。私の子供を養子にしてもいいわ」と言い出す始末。そんなものかと納得したようなしないような気分のマロンだった。
エリザベスは「王都は騒がしいのね」と呑気に囁いたら学園の間に婚約しないと行き遅れになると周りの女生徒に脅されることになった。あまりに考えなしの発言に皆が呆れていた。
それからは王都の令嬢の恋の話や自分の置かれた環境などを楽しく話して時間を過ごした。マロンがSクラスに入っているのには皆が驚いていた。男爵や子爵だと教育に熱心でない家も多い。中には早くに侍女見習いとして行儀作法を学ぶために仕事に出る人も跡取り以外の女性は多いと言っていた。
「両親に恵まれ、エリザベスさまの「学友」で、同じ家庭教師に学びました」
「そんなことないのよ。マロンは出会った時にはもう読み書き計算もできていたし、難しい本を譲り受けていたので読書家でもあったわ。それに、」
「エリザベス様」
「あらら、何かしら、マロン様にはほかにも秘密が、、」
「ユデット様、揶揄わないでください。Sクラスを辞退したくなります」
「うふふ、それは困るわ。何かマロン様に期待してしまいますわ」
「わたくしもそう思います。私達とは違う何かがありますわ」
「あああ、もうその辺で終わりにしてください。お願いします」
皆の笑い声にいたたまれないマロンだった。その後は講義の選択を何にするかの話に流れていった。皆公用語は習得しているので、別の国の言語を選択する。外交に関わるならさらに数か国語は覚えなければならない。行儀作法も国によっては多少の違いがある。外国の賓客を招くときなどは事前に勉強するらしい。
Sクラスの生徒は公用語に隣国の聖国語と貿易が盛んなイリルヤ共国の言語を覚える必要がある。イリルヤは小国が複数集まって大きな国になっているので、小国の名残で、イリルヤ公用語以外にも言語が使われている。なかなか複雑だ。
エリザベスも知らないことが多くあるので、皆の話はためになっているようだ。マロンが商売するならイリルヤ語の他に取引の多い小国語も知っておいた方がいい。いずれは他国に旅に出てもいい。地理や特産、人柄など調べてみようと思った。
女の子のおしゃべりは時を忘れる。気が付いたら3刻も過ぎていた。もう周りに人は少ししか残っていない。慌てて帰り支度をすることになった。それでも初日で随分級友と親しくなれた。明日からが楽しみになった。
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