36 学園入学
「マロン、元気だった?」エリザベスの明るい声にマロンは自然に微笑んだ。
「三日前に会いましたよね。寝坊しなかった?」
「大丈夫よ。厳しいお目付け役がいるから寝坊などできない。そ・れ・に、朝から準備が大変なの。マロンがいたら楽できたのに」
「貴族令嬢の常識を学び、令嬢の生活に慣れましょうね」
「マロンは「生活魔法」で、ちゃちゃと済ませたんでしょう。ずるいわ」
今日は学園の入学式。お揃いの制服に身を包んだマロンとエリザベスは講堂で落ち合った。制服は色と形の指定はあるがあるだけなので、身分に合わせ作ることが出来る。さすがにエリザベスとマロンのものは魔蜘蛛糸から作られている。特産品なので仕方がない。
マロンの制服には艶消しをしてもらった。身分に会わないからだ。マーガレットは残念がったが、「魔蜘蛛糸を使った制服には変わりない」と説き伏せた。
2年間ほとんと離れることなくマロンとエリザベスは共に過ごしたのだから、離れたことは淋しくないとは言わない。でも、新しい学園生活の期待の方が高い。エリザベスと話したのち、エリザベスの友人が集まってきた。マロンはそっとその場を離れた。
エリザベスは王都に来てお茶会を通じて交友深め、同じ学年の友人を持つことが出来た。これからは高位貴族としての社交が始まる。マロンは出しゃばるつもりはない。
「今年も入学生が多いらしいわ」
「第三王子様がいますから」
「3年に第二王子様と続いていますからしかたないわ」
「側近や婚約者候補にするためにこの時期貴族家は子沢山なの」
「あらら、あけすけね」
「そんなことはないわよ。優秀な子供を養子にしている家も多いいのよ」
12歳にして、王族の側近や婚約者になるために教育を受けてきていることにマロンは驚いた。辺境の家庭教師やサービナ夫人から受けた講義はそれに見合うものなのかマロンには分からない。うかうかしていると最下層のクラス入りになってしまう。お世話になった方々に顔向けは出来ない。入学前の試験はほとんど答えを書けたがマロンは入学式の後のクラス分けが心配になってきた。入学受付で手渡されたマロンのカードが黄色に光った。
「カードの色と数字に従い速やかに着席するよう」
講堂全体に声が響いた。マロンのカードは色だけだった。エリザベスは黄金色に光り数字が書かれている。王族を頂点として席次が決まっていたようだ。在校生の代表が誘導を始めた。さすがに騒ぎ出す生徒はおらず、すぐに入学式が始まった。
マロンの周りは男爵以下の貴族と平民のまとまりのようだ。学園長の挨拶、王太子の祝いの言葉、第三王子の宣誓と式辞はいくつもあり長い時間かかったが、ほとんど覚えていない。やっとすべてが終わった。さすがに王族が舞台に立つと女生徒のため息が漏れた。確かに黄金の髪に紺碧の瞳、背は高く顔の作りも整っていたと思うが、ため息つくほどかとマロンは思った。
「カードの色がクラス分けの色に変わる。カードの色の旗を持ったところに移動しなさい。教室まで誘導する。知ってはいると思うが先の試験結果でクラスは決められている。我が学園は実力主義であることを忘れないように」
ざわざわと生徒の声と移動による音が講堂に広がる。マロンは赤い色の旗に向かった。エリザベスが手を振っていた。そこには先ほどの第三王子らしき人もいた。
「やっぱりね。きっとマロンと同じクラスだと思った。基礎教育の仕上がりが試験の結果に出ると兄が言っていたから、だから家庭教師やサービナ夫人が厳しかったのね。お兄様がSクラスに入るのは当たり前だと言っていたわ」
気軽に言っているエリザベスはいいが、マロンはどう見ても浮いた存在だ。一番後ろの席から一番前に移動するなど目立ってしまう。そこにキラキラ第三王子までいるから、周りからの視線が痛い。引率者に案内され講堂を離れ長い廊下を赤い旗を持った誘導者が歩く。広い廊下の左右にいくつもの教室が配置されている。後ろから来た生徒は順に教室に分かれて入っていった。
最後にSクラスの教室があった。通り過ぎた教室と何も変わっていないが、入り口のドアを通り過ぎるたびに胸に付けた学年バッチがきらりと光った。教室は広く一人ずつの机は真新しい。机の横には魔法鍵の付いた荷物入れになっていた。
「入学おめでとう。自分の机は学びの場となる、大切にするように。机の横の黒い突起に魔力を流してください。個人登録になります。荷物入れと連動しています。魔力を流せないものは担任に申し出るように。学園内は多くの魔道具が配置されている。君たちを守るためのものだ。見つけても子供の様な悪戯をしないように。学園は、、、」
教壇の前に現れたスクリーンには先に紹介されていた副学園長が映し出されマロンたちに話しかけている。生徒は顔を見合わせながら魔力を流した。黒い突起が一瞬光り個人登録が終わった。これはマロンの寮の部屋の鍵と同じだった。その後も学園の細かい規則などを説明しているが、生徒はそれほど耳を傾けていない。顔見知りとのおしゃべりに夢中のようだ。その時教壇の隣のドアから緑の髪の線の細い男性が入ってきた。
「入学おめでとう。副学園長の話に飽きた頃だろう。自己紹介をしておく。一応担任のプーランク、錬金薬学を担当している。このクラスはほぼ基礎教育は終了しているが、慢心せず学ぶように。一年後の試験でクラス替えがあることを忘れるなよ。三年後は専門科に分かれるので、学生らしい生活はこの二年間しかないだろう。多くを学びおおいに楽しみなさい。四年次錬金薬学に、、ここには進む者はいないか?まあ困ったことがあったら相談しなさい」
頼りなさげなプーランク先生がこれからの講義や学園生活の注意点などを話し始めた。プーランク先生はSクラスの担任だが、講義は各専門の講師が行う。なかには専門教室に移動することがあるし、講義内容では他のクラスと合同もあるので、揉め事を起さぬようにと念押しされた。
食堂は伯爵以上が利用する個室付きの上級食堂と一般食堂に分かれている。個室使用は予約を必要とする。別に君たちが一般食堂を利用しても良いんだ。もちろん、マロンは一般食堂を利用するつもりだ。エリザベスの招待なら上級食堂が利用できるが利用するつもりはない。
入学当日は半日で終わり明日より正規の講義が始まる。Sクラスは他のクラスより講義内容が難しくなる。公用語から数か国語の取得、魔法操作、他国の歴史に文化の理解等数段進んでいる。礼儀作法は高位貴族と下位貴族では習うものが違うなど頭が痛くなりそうだ。ハリスが働きながら学ぶ余裕がないとはこの事かと納得した。このクラスに入った以上マロンには過剰な知識になるが無駄にはならないだろうと前向きに取り組むことにした。
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