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35 甘い冷菓と入学の準備

 久々にマロンとエリザベスが二人で寝て起きた朝は、顔を合わせるのが気恥ずかしかった。侍女の朝の迎の前にエリザベスは部屋に戻った。タウンハウス中がエリザベスの動向に気を掛けているのが分かっていたので、昨夜でエリザベスは気持ちを切り替えた。ソフィーナがいなくなった今、エリザベスがタウンハウスの女主人になる。たった一晩でエリザベスは大人の階段を上った。


 マロンはそんなエリザベスのために「甘くて、柔らくて、冷たい」物を作るために朝食後厨房を訪れた。朝の忙しさがひと段落した時間を狙った。しかし、目ざとい料理長がマロンに駆け寄ってきた。


「何を作りますか?必要なものはないですか?」


 料理長はすぐにマロンの側でワクワクしているのが良く分かる。「陣取り」を売り出すぞと張り切るロバートさんと同じだ。「ぷ・り・ん」が上手くできるようになり、エリザベスから「お褒めの言葉」をいただいたせいかやる気に満ちている。


「今日は「甘くて、柔らくて、冷たい」物を作ります」


「この冬にですか?」


「温かな「黄金のパン」に乗せるととても美味しいです。ここには魔道具の保冷庫がありますか?」


 辺境伯領で作られる魔道具はタウンハウスにも多く設置されている。温度の違いで数個設置されていた。一番温度の低い保冷庫をさらに庫内温度を低くしてもらう。卵を黄身と卵白に分けて、卵白とあわあわの実を混ぜたあとはホォーク2本で泡立て、途中砂糖を追加する。泡立った砂糖入り卵白に黄身を入れて掻き混ぜ冷やした器に流し込んで冷え冷えの保冷庫に保存する。1刻ほど置いて冷えたミルクを追加してよくかき混ぜる。さらに保冷庫に入れて3刻ほど置けばできるはず。


 おばあ様の筆記帳には時々「?」が書かれている。記憶が薄れ思い出せないのかもしれない。失敗しても冷たい飲み物にしてしまえばいい。撹拌は料理長にお任せする。「これくらいでいいですか」と聞いてくるが、マロンも手探りなので、曖昧に返事してしまう。それでも料理長は長年の感なのかマロンが思い浮かべる形にしてくれる。


 エリザベスのお茶の時間に「黄金のパン」と新作の入った冷え冷えの「甘くて、柔らくて、冷たい」物を運び入れた。もちろん料理長は見学している。


「お嬢様、「黄金のパン」の上に「甘くて、柔らくて、冷たい」これを乗せると」


「わー、溶けていく」


「食べてみて、すぐに溶けちゃうから」


「うっー、温かくて、冷たくて、甘くて、美味しい!はじめてよ!凄く美味しい」


 エリザベスの満面の笑みにマロンはほっとした。保冷庫の温度調節が良く分からなかったので不安はあった。少し柔らかに出来上がったが、充分に美味しい冷菓が作れた。その後はサービナ夫人、マーガレット、マンローニ、ルリーニなどの人達にも試食してもらうことになった。


 雪の積もる辺境領では作るのは簡単だが、王都のように暖かな土地では作るのに特別に冷える保冷庫が必要になる。氷魔法が出来る人がいればよい助けになるが、冷菓のために魔法を使う者はいない。レシピ登録には辺境の魔道具を必要とすると書き添えられた。


 タウンハウスの料理長は保冷庫の温度設定の変更を辺境の魔道具師に依頼した。それに答えた魔道具師は保冷庫を使って水を凍らすことに成功した。氷魔法でなくても氷ができるのは画期的なことだった。辺境では氷室で夏用の氷を沢山保管していたので、魔道具として今まで作る必要がなかった。しかし、手軽に氷を作れるようになると、夏の飲み物に氷を浮かせることが王都の貴族のなかで流行りとなった。


 年が明けマロンたちは入学の準備に入った。学園は5年間、1・2年は基礎教育。3年以降は選択コースに分かれる。騎士科、淑女科、魔法科、文系科さらに4年になるとそれぞれの科が細分化される。学ぶためには広くから狭くに。そして学園は学問ばかりでなく、社会に出ていくための小さな社交場でもあった。「人脈を広げる」も目的だった。学院での出会いが就職にもつながる。学院を卒業すれば王都に残る者以外はそれぞれ領地に帰る。王都と地方繋ぐ大切な繋がりでもある。学園での友好は一生のものになる。


 マロンはタウンハウスをでて、寮生活をすることにしていた。ハリスから部屋の構造や必要なものを色々聞いていた。エリザベスは寮を出たハリスと共に馬車で学院に通う。タウンハウスに残るよう二人から言われたがマロンの希望が分かっているので無理強いはしなかった。学園が休みの日はタウンハウスに来ればよいとマロンの部屋はそのまま残すここになっていた。マーガレットはマロンが入寮したら辺境領に戻る。


 マーガレットは遠慮ばかりしているマロンに学園で必要な制服にパーティー用のドレス(一人で着れるもの)と装飾品。日常服に靴を数種類、魔石コンロ、保冷庫、洗濯庫、暖房器具まで準備してくれていた。規格外の「生活魔法」は伝えていないので申し訳ない。大切にポシェットにしまっておくことにした。


「無理はしないで、困ったことがあったら連絡をくださいね。ルリーニによく頼んで置くから」と言って、マーガレットはマロンを抱きしめてくれた。両手に持てるだけの荷物を見て、マーガレットは「何か足りない物はないかしら?」と言い出す。ポシェットの事を話しても心配は尽きないようだ。マロンは有難いと思った。


 マロンは入学式前にタウンハウスを後にして学園の寮に入った。学園の外から通えないものが寮を利用する。基本下位貴族が多い。平民はほとんど王都出身だから数は少ない。


 貴族の部屋としてお湯を沸かす程度の炊事場、トイレ、お風呂、寝室と学習机、居間と充実されていた。10年前くらいに前に建て直されたせいかマーガレットから聞いた話より良い環境だった。食事は寮の続きにティールームと合わせて作られていた。朝と夕はここを利用する。昼は学園の食堂がある。


 生活魔法で洗濯も掃除も完璧にこなせる。これなら5年間住むに問題ないとマロンは安心した。女性の寮なので騒がしい声はしない。上の階には上級生が暮らしている。学年が上がれば上の階に上がることになる。そのままでもマロンは構わない。


 空いた時間に学園へ向かう通学路の確認のため、寮の出入り口から歩き出した。生徒が何十年も通う道なので、敷き詰められた石は滑らかになっていた。両脇に雨水が流れる溝が作られ、木々の間に生け垣ができている。花が咲き誇ることはないが雑草もなくすっきりした景観になっていた。


 学園の門は今日は閉じられていた。ここにおばあ様も通った。おばあ様を知っている講師はもういない。どこかにおばあ様の足跡を見つけることが出来たらマロンは楽しいと思った。学園の門を確認し寮に戻れば、門の前には荷馬車が何台も並んでいる。マロンと同じ寮生だろう。


 メイドや従僕が荷物を馬車から降ろしている。今日だけは男性が女子寮に足を運び込める。たとえ親、兄弟、親族でも部屋に上がることは出来ない。お預かりしている貴族令嬢に間違いがあってはならない。ここにも魔道具が設置されている。すべてがおとなしい令嬢ではないだろう。中にはやんちゃな令嬢もいるのではないかと楽しみになる。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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