32 学園入学前 1
王都のタウンハウスでの生活は辺境領での暮らしとは違って慌ただしかった。ハリスは「数字札」「引き抜き棒」をもって学園の寮に戻っていった。「黄金のパン」はまる焦げにしたことで諦め、食べる専門になることにしたようだ。学園の休みの日はタウンハウスに戻り。エリザベスやマロンに学園の勉強を教えてくれた。
ハリスはローガンと同じでマロンの「ヒート」に夢中になった。寮で火事を起さないためにタウンハウスに戻っては陶器のコップを破壊していた。マンローニは安い陶器のコップを多量に用意しなければならなかった。粉々になった物は穴に埋めると長い月日で土に返る。「お兄様のお小遣いで買ってくださいね」とエリザベスにまで言われていた。
王都に来て1つ月ほど過ぎたころから、マロンとエリザベスはサービナ夫人の指導を受けるようになった。行儀作法はほぼ問題ないが、社交に向かっての指導が始まった。「手紙の書き方」「飾り文字」「文具の選び方」王都の紙店には多種多様の紙が売られていた。「身近な人に出すための便箋と封筒」「目上の方に出す便箋と封筒」「謝礼の便箋と封筒」など驚きの数に覚えるのだけでも大変だった。
エリザベスは高位貴族なので使用できる種類は高級品一択。マロンは平民が使うものか下位貴族の使うもの、エリザベスに出すものでは大きな違いがある。さらに、手紙や文書の封筒に封印する封蝋を作成しなければならない。ロバートが大事な書類に使う商会紋のようだ。
それに飾り文字は普通の文字に装飾を施したものだが、くねくねとした羽ペンの動きで、文字の細さや太さを変え、植物の蔓のような曲線をまきつけたり、文字に陰影や葉、星などの記号を添えて書き上げる。サービナ夫人の手本を真似て書き始めるも最後には何が書かれているか分からない図柄になってしまった。
女性は婚姻して家を出ることが多いので、封蝋は家紋にはこだわらない。好きな花や蔓をいれたり名前を飾り文字にして仕上げていい。そのためにも飾り文字の習得が先のようだ。未成年のエリザベスは正式な手紙などはノイシュヴァン家の専用の便箋と封筒に簡易家紋が書かれた封蝋が使われる。子供同士のお茶会などは自分の封蠟を使い分けがされている。
貴族女性の社交の中心は、王族や貴族が様々な名目で開かれる、音楽会、舞踏会、お披露目会、親睦会などの集まりへの参加や女性が中心となるお茶会の参加になる。それに参加するためには芸術にも素養が必要になる。もちろんダンスは必須。マロンはおばあ様の教育の助けがあっても貴族とはこんなに学ぶものだと知らなかった。後押ししてくれる養父母に恥をかかせないよう真面目に学ぶことにした。
エリザベスがサービナ夫人と共にお茶会などに参加するようになると、空き時間が出来たので、グランド商会のロバートを訪ねることが出来た。
「驚いたよ。マロンが貴族になるとは、貴族をやめたシャーリーンは驚いているだろうね。でも学園に行くなら貴族籍があった方がいい。セバスの勧めだ。良い判断だったとおもう。ところで、「引き抜き棒」の遊び方を教えてくれ。登録は出来たがいまいち意味が分からない」
マロンは四角い棒を交互に三列ずつ積み上げたものから片手で棒を引き抜く。引き抜いた棒を最上段にのせて高さを競いながら崩したものが負けになる。どこを引き抜き何処に並べるかはよく考えなければならない。理解したロバートはさっそく息子と対戦し負けてしまった。
マロンは「数字札」の代わりに幼い子供でも遊べる「絵札合わせ」を提案した。表に絵をかき、裏に文字を書く。果物の絵と名前、花の絵と名前、文字を学ぶきっかけになる。そんな話をたまに平民街に出向いてはマロンも忙しく過ごした。
「マロンさん、お嬢様が小さなお茶会を開くことになりましたがお菓子作りが得意と聞きました。何か案はありませんか?お茶会に出す料理はその家の評価になります。まだ子供のお茶会ですが、良い結果を出してお嬢様に自信を持ってもらいたいと思うのです」
もちろんマロンに異存はない。さっそく筆記帳で調べることにした。
「マロン、前に作ってくれた卵のふわふわ、とろりとした「ぷ・り・ん」は出来ないかな?」
「あれは「ヒート」で作ったから沢山は出来ないけど10人くらいなら保管庫を活用すれば間に合うかもしれない」
エリザベスは「ぷ・り・ん」が大層気に入っていた。一番つらい時期に食べた癒しのお菓子だった。筆記帳に料理の名前が書いてあったが、どんな意味かは分からないが、新しい名前が浮かばなかったのでそのままの名前を使っていた。辺境領の厨房でも試したが黄色い中に泡ができてしまい滑らかさが出なかった。マロンの「ヒート」で一定の温度を保つときれいに仕上がった。料理長に相談してみることにした。
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