31 王都到着
マロンは学園に入ったら寮生活をするつもりでいる。大騒ぎしそうだから、まだエリザベスには伝えていない。今はエリザベスと親しくしているが、身分は辺境伯令嬢と男爵令嬢の元平民。いくら身分は関係ない学園と言ってもそんなことが通らないことはマロンでもわかっている。
マロンがいろいろ言われるのは平気だが、エリザベスやハリスが巻き込まれるのは嫌だった。タウンハウスから馬車で通うのにも気が重い。衣装や持ち物までエリザベスに合わせれば身分に合わない。マーガレットは「貴女のための予算は十分あるのよ」と言ってくれている。セバスと数年別居になるのは心苦しい。マロンが寮に入れば辺境に帰るのを早めることもできるだろう。
エリザベスも王都での貴族階級の付き合いを覚えなければならない。マロンを伴うことは出来ない。おいおい王都の家庭教師から学んでいくだろう。その間にマロンは王都で庶民の生活を学ぶためにグランド商会で働こうと思っていた。ロバートとマーガレットには相談済みだった。
「マロンは働くの?」
「はい、エリザベス様はお茶会や高位貴族の学ぶことがあるでしょ。今年一年はいつも一緒にとはいかないと思うの。以前なら庶民として手に職をつけるつもりだった。今は男爵令嬢になったから、男爵令嬢として仕事をするか、庶民に戻って生きていくか考えないといけないと思ってる」
「エリザベスの侍女になればいい」
「エリザベス様の侍女は子爵以上の優秀なご令嬢がなります。ハリス様の側近だって同じです。気に入っているから誰でも良いわけではありません」
「マロン、、」
「だからと言って、エリザベス様さえ良ければ、これからも長い付き合いをしたいと思っています。マロンの作るお菓子の試食はエリザベス様しかいませんから」
「我儘を言ってはいけないのね」
「エリザベス、マロンと会えないわけではない。ともに学ぶことが違っても良き友ではいられる。マロンをやっかむやつらから俺たちが守ってやればいい」
「あら、お兄様、マロンはセバスの修行で結構の使い手よ。私も火球操作はローガンから折り紙付きです。お兄様を守ってあげます」
「えっ、「業火のローガン」からか?学園の校舎燃やすなよ」
「違います極極小さな火球を自由に動かせるのです。護身には十分ですわ」
話題はエリザベスの「火球操作」に移った。ハリスは、火魔法の中でも中級を身に着けている。それでも2年なら優秀らしい。攻撃魔法は魔法学の中の「魔法応用学」の一講座で各属性魔法で攻撃訓練を習う。騎士や魔法師を目指すものが多く受ける。「魔法応用学」の中には「錬金術」「魔道具師」などの講座もある。
「お兄様、わたしもお兄様と同じ講座に進もうかしら?」
「止めておけ、嫁には行けなくなるぞ。男より強い女はモテないぞ」
「お兄様は懐が狭いのですね。そんな狭量な殿方は好きではありません。マロンはどう思う?」
「わたしもそう思います。人それぞれ得意分野は違うのですからお互い認め合うことが大切ですね」
「わかった。わかった。もう髭の執事、マンローニが見えるぞ。あの髭は威厳を見せるために伸ばしているんだって。セバスやハーマンに力では負けるから、威厳を見せるためだと侍女長が言ってた。侍女長はマンローニの奥さんなんだ。ルリーニって言うんだ。マロンともよく顔合わせるから覚えておくといい」
馬車の中での会話が弾んでいるうちに辺境伯家のタウンハウスに到着した。白い石壁で作られているのには変わりがないが周りのお屋敷と引けを取らない立派な建物だった。馬車停まりの前には一人の男性、執事らしき男性が立っているのは以前と一緒だった。その奥に10名ほどの使用人が並んでいる。
「ハリス様、エリザベス様、お待ちしておりました」
馬車の戸が開くとハリスが降り、エリザベスに手を差し伸べる。エリザベスはその手に自分の手を軽く乗せ馬車から降りた。その後から執事の手を借りてマロンが降りる。
「ノイシュヴァン家長女、エリザベスです。お世話になります」
「後ろにいる女性はエリザベスの「学友」であり、辺境領館長セバスの娘、マロン・オットニー、我々と共にタウンハウスで過ごすことになる」
「マロン・オットニーです。よろしくお願いします」
マロンは軽く膝を折りスカートの裾をもって挨拶をした。マーガレットから使用人は皆貴族籍を持っているが、マロンはノイシュヴァン家の客人枠に入るので過剰にへり下ってはいけないと言われていた。マーガレットは何度も来ているし、辺境領の屋敷の家政婦長と言う職務を任されているので、タウンハウスの使用人の中でトップになる。
荷物の運び出し等を執事に任せマーガレットと侍女長、ルリーニはハリスやエリザベス達を部屋に案内した。長旅の疲れを取るために部屋に備わった風呂に入り、着替えたのち談話室に集まった。1年でやっと慣れた辺境領の屋敷から王都のタウンハウスでの暮らしにマロンは緊張してきた。
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