29 守り房飾り
おばあ様は貴族のしきたりや家紋などの知識があったから出来た仕事だった。刺繍が上手いだけでは成り立たない。エリザベスは「わたしは初恋の方に刺繍入りハンカチを最初に渡したいから刺繍の練習は頑張るわ」と刺繍糸を選び始めた。
「お嬢様、刺繍糸で「房飾り」を作りませんか?」
「房飾り?どんなもの?」
マロンは簡単な絵をかいて見せた。材料も手間もそんなにかからない。房の上に付ける石飾りを工夫すれば見栄えも良くなる。
「房飾りには悪いことを払ってくれる、「護符」となるそうです。さらに、人と人を結び付ける意味を含む「縁起」の意味にもなるそうです。剣の鞘の飾りにしたり、髪の飾りにしても良いと思います」
マロンは自分の刺繍糸で飾り房を作りその上にはガラス玉を玉の形に紐で組んだものを取りつけてみた。それをマロンの頭の横にいるユキの横にかざしてみた。
「髪飾りにもなるのね。房の長さを変えると見栄えも変わる」
『ウサギのしっぽもふかふかして良いぞ』とユキが囁く。辺境ではよいが王都ではどうだろうか?とりあえず沢山の刺繍糸や輝石が欲しかったので、マーガレットに相談することになった。
「あら、素敵ね。輝石に祈りを込めればちょっとした魔道具になるわね」
「魔道具?」
「そうよ刺繍糸の代わりに魔蜘蛛の糸を使えば耐久性が良くなるわ。魔蜘蛛の糸に魔力を流すとその人の魔力の色が現れるの。すごく魔力の通りが良いから、魔道具にも使われている。切れ端の糸なら山ほどあるはずよ。それを使えばいいわ。刺繍糸と合わせても色の変化があっていいわね。飾り石は貰った本人がつければいいわ。「防御」「治癒」などの付与をしてもらえばよいのよ」
話はマロンたちの手を離れどんどん進んで行った。冬の手仕事のように屋敷の女性たちに広がった。マロンとエリザベスは自分が手渡す人のために作ることにした。魔蜘蛛の糸は細いが何本かで撚りを掛けまとめると丁度良い房になった。
マロンが魔力を流すと淡い黄緑になる。エリザベスが流すと赤い薔薇のような色になった。魔力が薄れれば徐々に色が下の方から透明な色に変わっていく。その変化も見ていて楽しい。中には染色された糸があったので房に混じると単色ではない趣が生まれた。魔蜘蛛の繭は子供の蜘蛛が食い破って出てくるので、端糸が沢山出ていた。マロンは短い魔蜘蛛糸をスライム糊と魔力を少し撚りに加えてると糸が繋がる。貴重な魔蜘蛛糸を余すことなく使えることにマーガレットは驚いた。
昔は魔蜘蛛を討伐してわずかに手にする繭から糸を紡いだ。魔蜘蛛は集団で戦うので死傷者もでる。だからわざわざ糸を求めるものは冒険者の一部だった。「蚕」から作られる糸より貴重品だった。それを数代前の領主が変異した魔蜘蛛を保護し、食料と使用後の繭を交換することが出来るようした。変異の魔蜘蛛は辺境伯と代々契約している。それでも貴重な糸だった。ベテランの織手によって布にされ高額で買い取られ、王宮や高位貴族に売られていった。
マロンはそんなことなど気が付いていない。端糸を繋げ長い糸玉にしてから糸を房の長さの板に巻き付ける。房の頭側を縛り板から外したら頭部した小指大の下を糸束をしっかり持って紐を巻き付ける。房に紙を巻き付け巻き付け紙からはみ出た部分を切って整える。
そこからは贈る相手の事を考え貴石を選んで房の上に取り付ける。エリザベスは家族のために。マロンは、学友のエリザベス、保護者のロバート、護身術のセバス、見守ってくれたマーガレットに作ることにした。出来上がりを見たマーガレットはマロンに提案をした。
「この房の作り方を登録して辺境領の孤児院や就業できない人たちに広げたい。魔蜘蛛糸を使えるのは辺境だけだからきっと名産になるわ。さらに房飾りには色々な付加価値をつけることが出来ると思うの」
お世話になった辺境領で役に立つなら登録などせずに使ってほしいとマロンは伝えた。マーガレットは深いため息をついて、「ロバートさんが心配するわけだわ。新しい技術は正しく評価されるものよ。魔蜘蛛糸端糸を繋げるなど誰も考えなかった。ゴミだったものが宝になるのよ」と忠告された。
エリザベスの手造りの房飾りはオズワルドとダウニールは大層喜んで剣の鞘に飾り付けた。ハリスは友達に渡したいと端糸を紡いだものでよいので20個の注文が入った。女性用は何個必要かと尋ねたら「男用だ」とむくれられた。男性と女性では糸選びから変わるのだから仕方がないのにとマロンは思った。
「お兄様にはまだ思い人がいないのかしら?」ハリスはエリザベスに煽られた。
「エリザベスの作りは粗いから全部マロンが作って下さい」
兄妹喧嘩のとばっちりがマロンに飛んできた。手仕事は嫌いでないので、「友愛」を願いながら房飾りを仕上げていった。それを聞いたマーガレットはマロンの作った房飾りと共に作り方を書いたものを王都に送った。「陣取り」の二の舞になる気がしたからだ。
マロンがロバートに送った房飾りに「健康」と言う願いを込めた。それはささやかな付与魔法が施されていた。そのことは来年ロバートさんに告げられるまでマロンは知らなかった。
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