28 ハリスの帰還
「マロン、ただいま。「陣取り」すごい売り上げだよ」
辺境伯家の長男ハリスがエリザベスとの再会の抱擁をしながらマロンに告げた。「えっ、、今言うことですか?」と目で問う。その瞬間にハリスの鳩尾をエリザベスが一撃を与えた。
「うぅ、なかなか良い一撃だった。セバスの訓練がしっかり身についているようだな」
「お兄様、今の対応では、お付き合いしている方はいない様ですね。再会の抱擁をしながら別の女性に話しかけるとは紳士のすることではありません。妹の私に謝って下さい。マロンにも失礼でしょ。お祖父さまに似てしまったのかしら?」
「面目ない。エリザベスが逞し、、美しくなっていて兄は嬉しいよ」
「兄様は王都に行っても変わりはないようですね。わたくし来年の春に王都に出向く必要があるかしら?」
「いやいや、淑女は色々知ることが多い。茶会に出て人脈を入学前に広げておかねばならないらしい」
「うふふ、嘘ですよ。王都のサービナ夫人からお手紙をいただいています。マロンと勉強します」
久々の兄妹の再会に言葉は尽きないようだが、騎乗で戻ったハリスは疲れている。エリザベスは部屋に戻り休むように手配をした。ハリスの護衛を兼ねて随行した騎士たちにお礼を述べ、オズワルドから3日の休暇の伝言を伝えた。家政婦長の指導なのかとても堂々とした対応だった。
ハリスを加えた晩餐は実に賑やかだった。寮生活の苦労や失敗の話を面白おかしく話す。以前より社交性が上がったようだとオズワルドが言えば「同じ窯のパンを食べる」といって食事を共にするなどして苦楽を分かち合うことで人間関係が深まったという。それ以上にハリスが持ち込んだ「陣取り」が寮内で大流行りしたのが良かったようだ。
最初はハリスの独り勝ちだが、すぐに戦略を考え対応する先輩たちの方が優勢になった。そこで負け組が集まって先輩たちを負かすために戦略を練ったことで、寮生の結束が高まった。この冬に「陣取り」を持参した寮生が帰省すればあっという地方にも広がると思う。グランド商会は大変だね。そのうち有志で勝ち抜き戦が行われた。最初の優勝者は3年の女生徒だった。
「マロンさん、他に楽しい遊びはないですか?新しい物を仕入れてこいと言われているんだが」
「お兄様、無理は言ってはいけません。明日、雪小屋にご案内します」
「雪小屋?この寒いのにか?」
「雪小屋で食べる「黄金のパン」とても美味しいですよ」
今度はエリザベスがハリスのいない間の事を色々聞かせていた。オズワルドとダウニールが暖かな目で二人を見つめていた。晩餐後は談話室で「数字あて」や「魔物引き」をハリスに披露した。数字の色をもっと増やせば難しくなる。やり方は簡単だが、「記憶力と相手の表情を読み取る心理戦」奥が深いと感心していた。マロンはそんなに感心することかと思ったが口には出さなかった。
ハリスも三日の休暇を貰いその間はエリザベスの相手に大いに楽しんだ。雪小屋が思いのほか暖かだったので野営するのに良いとした。護衛の人まで遊びにつき合わせる訳に行かない。「お兄様は子供ですか?明日一日中過ごしてよいですからお泊りは護衛に迷惑です」とエリザベスに言い切られた。
「エリザベス、「黄金のパン」は寮でも作れるかな?」
「訓練しますか?料理長が指導してくれますよ。使用料はマロン払いですよ」
三人で笑ってしまった。休暇が済めばハリスは訓練に参加し魔物の討伐にも参加した。たとえ屋敷を留守にしてもハリスが近くにいることはエリザベスを明るくした。結果屋敷中が明るい雰囲気に包まれた。
屋敷の庭に作った雪人形は少しずつ増えていった。中には本物に見紛う力作が生まれていた。領内に作られた雪小屋の周りに雪犬や兎、猫が並ぶようになった。そこには夜になると小さな祠に2刻ほど明かりが灯る蠟燭に火をともす。宵闇の中の灯りとそれに映える雪人形や雪小屋、月夜に照らされる雪景色、幻想的風景を作っていた。それを見るために人が出歩けば出店が店を開く。いつの間にか「宵の雪歩き」として定着していった。
ハリスからは他に遊ぶものはないかとせっつかれた。『もう一つぐらいいいんじゃない。辺境で作れるならお礼になるし』とユキが進めてくれた。人差し指大の四角形の棒を交差させながら積んだものを1本ずつ引き抜く。「引き抜き棒」を作ることにした。庭師はとても正確な四角い棒を作ってくれた。そのまま高く積んでも崩れ落ちることはなかった。抜くときに滑りが良いように木の四角い棒を布やすりで磨かなくてはならない。
談話室でのおしゃべりをしながらエリザベスと布やすりを掛けた。エリザベスは自分の作品を兄に持たせるつもりのようだ。そんな時エリザベスから話が出た。
「ここを立つまでに何かお父様やお祖父さま、セバスに家政婦長、侍女に、厨房長、、などにお礼をしたいと思っているの。ハンカチに刺繍でもいいんだけど愛する方から貰っているでしょ。何かないかしら?」
思い人に刺繍したハンカチを贈るのは女性の常識だと初めて知った。刺繍入りハンカチは売るもんだとマロンは思っていた。マロンのハンカチは誰が買うのだろうかと不思議に思ったが、送ってもらわなければ自分で買うのかと納得した。
実はマロンのハンカチは刺繍の上手でない女性が買って大事な人に送るためのハンカチだった。おばあ様の物は貴族の婚約者に送る最高級のハンカチとなっていた。そのため家紋の指定や色の指定のある面倒な依頼だった。
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