26 領主館長セバス
マロンが就寝前に「ライト」の小玉を出して訓練をしているのをセバスは知っていた。器用に「生活魔法」を操るマロンは特別だった。ロバートから頼まれていたことからマロンを気にかけていた。魔法師のローガンから聞いた「ヒート」は平民の使う「生活魔法」では出来ない。
「陣取り」「料理のレシピ」などを生み出す特異な才能も隠しきれるものではない。小さな火球を的に当てた時は驚いた。平民がそこまで魔力操作に長けることはない。ロバートに手紙を出すと「辺境にいる間だけでも身を守る術を教えてやって欲しい」と返信が来た。ロバートは剣技が今一だったことを思い出した。
セバスは辺境騎士の中ではずば抜けて剣技が優れていた。剣に氷の魔力をまとわせることで、切ったそばから魔物の体を凍らせることが出来た。今は現役を退き辺境領主館長をしている。ロバートとは元辺境伯のダウニールが学生の時からの付き合いだった。
ダウニールは根っからの辺境の騎士だった。当主にならなけらば立派な辺境の騎士になっただろう。単なる「脳筋」だ。しかし、辺境伯になるには剣技だけではこの地を治めることは出来ない。それを王都の学院で嫌と言うほど学んできた。脳筋のダウニールと付き合ってくれたのが商家の三男だったロバートだった。
ロバートはダウニールに足りない人とのかかわり方や話術、身のこなしなど社交術を手伝ってくれた。学園に入ったころ、ロバートには兄二人がいたが、結果的にはロバートが商会を継ぎ盛り立てた。ダウニールとロバートの友好はそのまま辺境伯家と王都の大商会の繋がりになった。
ロバートは学院1年の長期休みに辺境に来て、実践の剣技に打ちのめされた。そこで騎士を諦めることになった。それでも身を守るために辺境に来るたびに兵舎で訓練に混じっていた。セバスは同い年であったせいかダウニールとロバートと三人で過ごすことが多かった。
ともに年を重ねてもその付き合いは変わらなかった。しかし、ダウニールが息子オズワルドに当主を譲り自分が領館長になり、ロバートは息子に商会長を渡した。これで、人生の終わりを迎えると思っていた。それなのに、ロバートは新しい商機に目を輝かして王都に戻った。ダウニールは覇気ある孫のハリスを鍛えることに燃えていた。
それならお嬢様の心を支えてくれたマロンに戦う術を教えよう。マロンは何も知らないがオズワルドは一人娘のエリザベスの事をことのほか心配していた。まだ幼いエリザベスを置いて王都から戻らぬ妻、ソフィーネの扱いに苦慮していた。
辺境の女主人の仕事は単なる家政だけでなく、戦いに出る男たちが安心して戦いに出ていけるように女たちを取りまとめる必要がある。怪我をした兵士や騎士の家族の面倒や親を失った子供たちの環境を整えることも考えなければならない。貴族奥様ですとして社交だけに力を注ぐことは出来ない。王都の美しいドレスや宝飾が好きなソフィーナがなぜオズワルドと結婚したかが不思議だった。
しかし、王都に未練のあるソフィーナがハリスの王都行に付き添って行ったまま帰ってこないとは誰も思わなかった。可愛い一人娘を残しているのに。オズワルドは辺境を長く離れることは出来ないがそれでも王都のタウンハウスに何度か訪れても良い結果は得られなかった。
先に見切りをつけたのが長男のハリスだった。具体的に何があったか分からないが、タウンハウスがあるにもかかわらず寮生活をはじめた。オズワルドは「母親離れだ」と笑っていたがそのうちエリザベスの様子が変わった。屋敷中が腫れ物を触らぬように見ていた。その中でマロンがエリザベスを解きほぐした。
母親のことを避けていた親子がじっくり話すことが出来た。オズワルドの気持ちも固まったようだ。あとはソフィーナがどう判断するかだ。ここに戻るなら今まで通りお手伝いはする。もし戻らぬなら、ハリスの嫁に期待したい。マロンの様な肝の座った令嬢を見つけてきてほしい。
魔兎の討伐も震えながらもエリザベスとマロンは最後まで立っていることが出来た。新兵でも恐慌で泣き叫んだり意識を失うこともある。辺境伯の重要性を分かってもらえれば充分だった。
セバスの最後の仕事の一つに、マロンへの恩返しを加えた。不思議な「生活魔法」にナイフ捌きと体術を教えよう。ドレスを着ていても男などに負けるわけにはいかない。俺が教えれば王都の男になんか相手にならない。久々にワクワクしてきた。
セバスはダウニールよりは脳筋ではなかったが、訓練の思考は脳筋だった。家政婦長にマロンの訓練について話し合いを持たされたのは言うまでもない。セバスの妻は家政婦長のマーガレットだった。セバスに勝ち目はない。それでも
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