21 新しい生活
復活したロバートさんは、家族のいないマロンが経済的に困らぬように薄焼きパンのレシピと「陣取り」を商業ギルドに登録してくれることになった。これは利用する者が一定の値段で使用権を購入する仕組みになっている。個人の値段と商売で使う値段が違うらしい。黙って真似た物を作って商売をすると「神罰」が下るらしい。「商業の女神の加護」から外れ、商売が上手くいかなくなるということらしい。
ロバートさんからは、他にはないかと問われたので、「思いつかない」と言っておいた。おばあ様の筆記帳は恐ろしいと感じた。読むのは良いけど、使用は慎重にしないといけない。
「陣取り」は木材も石も豊かにある辺境領の産業として取り組むことになった。「絶対儲かる」とロバートさんの一言で決まった。今までは、帰りの馬車は軽かったが、「陣取り」を乗せて帰ることになった。先ずは、手軽な廃材から始まり高級木材、川の石から山の白石、黒石を磨き上げた高級品まで作るようだ。「もしかしたら、魔石を使ったりして」とマロンが口走ったら、「それも良い」と貴石を使ったものまで試しているようだ。
ロバートさんは、出来上がった「陣取り」をもってハリスと共に王都に向かった。王都の商業ギルドで登録をするようだ。その時に辺境領での使用の手続きも済ませることになっている。登録料を差し引いて収益はマロンのギルドカードに振り込むことになっている。ハリスは学園で「陣取り」遊びをして購入はグランド商会でと話を進めることになっている。二人とも商売上手だ。
マロンはロバートさんと帰るつもりだったが、エリザベスの我儘で「学友」枠で残ることになった。ハリスがいなくなればエリザベスが淋しがる。マロンと共に講義を受けたいとエリザベスが願い出たからだ。オズワルドは父としてマロンに残留を願った。マロンは家庭教師から学ぶことに興味を持ったので、ロバートさんと相談して王都に行くのを一年延ばした。
さらに魔法の授業にも参加が許された。さすがに教科書だけでは不安であった。ロバートさんには「マロンの生活魔法は不思議だから、とりあえず、水・灯・風・土に限定しなさい。「ヒール」が「治癒」にレベルが上がるとまずい。教会に取りこまれる。あくまで「生活魔法」の延長上にした方が良い。王都に来たら魔力量を一度は測った方が良いかもしれないな」と言われた。ロバートさんには心配ばかりかけてしまう。過労で倒れなければよいがと、薄焼きパンをたくさん作って持たせることにした。
ロバートさんを送り出した後は、そのまま、エリザベスの「学友」をしながらメリーから侍女の仕事を教わることにした。エリザベスは兄がいなくなったことでことのほか寂しかったようで、夜になるとマロンの所で過ごすようになった。父親は領政で忙しく、魔物討伐に出向いていても時間を作りエリザベスに会いに来てくれていた。時には「陣取り」をして遊ぶこともあった。
マロンは「学友」の時はワンピースを着るが、侍女見習いの時は紺色の侍女服に白いエプロンをつけている。お屋敷の掃除は範囲が広いし天井は高い。窓ガラスなどマロンの背では到底届かない。そんな時は生活魔法の使える使用人が担当してくれる。これも一つの特技として就職に有利に働く。マロンの就職の範囲が広がった。メリーさんはお茶の入れ方から、それに付随する所作をなど細かいことを教えてくれた。
エリザベスの一日は、朝洗顔の用意をした侍女に起こされ、洗面を済ませると目覚めの紅茶を飲む。紅茶にも朝、昼、夜、食前、食後、就寝前など時と場合で茶葉の種類や濃さ、温度を変える必要がある。さらに主の好みも考慮しなければならない。それらを覚えるのは大変だ。そして、朝食に向かう前の着替え、貴族令嬢は自分では着替えないというか着替えられないことを知った。朝から髪を整え化粧も済ませる。家の中にいるのに、マロンには真似はできない。さすがに侍女が必要なことが分かった。
その上、朝食が終われば、講義のために着替える。昼食はお部屋で食べ、午後の講義を受ける。そして「午後のお茶」と言う講義を受ける。この時もお茶会用のドレスに着替える。部屋の入り方、座る位置、立ち居振る舞いにティーカップの持ち方から飲食の仕方まで指導され、お茶を飲んだ気がしない。
さらに夕食の晩餐用にドレスを着替える。就寝前は侍女の手伝いで入浴して、肌を整える。就寝前に暖かいミルクを飲んで就寝。何と忙しい一日。何度も着替えるのには訳がある。時と場合でドレスの種類、形も違う。それに見合う靴や装飾品なども的確に選ばなければ侍女失格。そして、貴族女性は侍女以上の知識を持たなければ恥をかくのは己のみでなく、家門に傷がつくという。
貴族にとってお茶会は淑女の戦闘だと教師は言っていた。その戦闘服がドレスであり所作が剣である。そして会話術が頭脳戦だという。貴族とは何と怖ろしい所なのかと思ったが、エリザベスは当たり前のように受け入れていた。メリーもそれを受け入れている。生まれながらに身に着けていくことなんだと思った。
マロンはおばあ様に指導されているので、教師からは「随分所作が綺麗ね」と言われ喜んだが、「平民としては」が付いていることを知った。おばあ様のおかげで座学の講義は思いのほか付いていけていただけで安心してしまった。いつも真剣に学ぶエリザベスの姿には、辺境伯家の令嬢として高位貴族令嬢でいなければならない重責を背負っていると思えた。
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