18 夕飯に招かれる
ロバートはオズワルドとの取引のため部屋を移し商談に入った。マロンはメリーに案内され本日宿泊する3階の部屋に案内された。女性の客間は3階で、男性は2階。どんなに親しくても同室や同階には部屋を用意しない。これは淑女としての常識と言っていた。だから辺境伯領館からはロバートさんと馬車が違ったことを知った。まだ成人前でも貴族女性は気を遣うのだと驚いた。
夕飯を家族とともにロバートと一緒に誘われた。「そんなに気を使わないでいい。シャーリーンさんの教育を受けているから心配いらない」そう言われたが緊張してきた。メリーは準備のために「ご入浴」と言い出した。「クリーン」ができるといったが聞き入れず、数人の侍女と共に服を脱がされ、「神の湯」に入ることになった。
青を基調としたタイルで作られた丸い湯船にはたっぷりの白いお湯が入っていた。体は自分で洗えたが、髪は侍女に湯船に入りながら良い香りのする石鹸で丁寧に洗ってもらうことになった。「侍女の仕事をさせてください」と圧を感じた。辺境の侍女はもしかしたら生半可な男性より強いのかもしれない。
「神の湯」は本当に気持ちが良かった。おばあ様にも入れてあげたかった。「生活魔法」ができる前はお湯で体を拭くのが当たり前、入浴自体知らなかった。そんなことを思っていると、入浴室の隣で体に香油を塗り、指や手のひらで体を擦ってくれた。これが気持ち良くうとうとしてしまう。その後髪を乾かし違う香りの香油で髪を撫でつけ見たことがないほどきれいな髪艶になった。
どこからか豪華なドレスが出てきた。フリルやリボンがついたりしている。とても高価なドレスだと分かる。エリザベスからドレスが届いたのだという。マロンは慌てて、おばあ様と作った細かいガラス玉の刺繍の入った薄黄色のワンピースにスカーフで腰にリボンを作り華やかにしてみた。メリーたちは手作りと聞いて驚いていたが、装いとしては合格を貰えたので、お嬢様のドレスは汚さずに帰すことが出来た。ドレスを着替えたらそれに会う髪型と薄化粧をされてやっと、食堂に出向くことになった。
自動ドアを通り過ぎると大きなテーブルの上に香りの強くない薔薇が活けられていた。椅子の前にはカトラリーが並んでいる。思わず指に力が入った。部屋は広いが魔道具のおしゃれなランプが、白い壁を優しく照らしている。柱には彫刻がなされ、光の当たり方で陰影が付きより立体的に見えた。
セバスによく似た男性に案内されロバートさんの横の席に腰を掛けた。目の前にはオズワルドによく似た高齢の男性がマロンを見つめた。マロンは思わず背筋を伸ばした。
「そなたがシャーリーンさんの孫のマロンか?」
「父上、気が早いですよ。驚いて固まってしまいましたよ」
「いつもながら単刀直入だな。いい加減、余裕ある態度ができないのか?」
「ロバートの様な商人面などできない。分かっておろう。「女性に対する言葉遣いを学んでください」とシャーリーンによく怒られたもんだ」
「二人とも怒られましたね。でもそのおかげでダウニールは奥方を迎えられたのですから、怒られ甲斐があったですね」
「それで学園に入る前に数年王都で教育を受けるようにしたのだ。「田舎貴族だの、脳筋貴族」だと言われたからな。そのおかげで息子は何の苦労もなく嫁を貰えたが、王都に行ったきり帰ってこないな」
「父上、それは次の機会に。食事を始めよう」
その声で、奥に控えていた侍女や給仕係が一斉に動き出した。 手慣れた様子で給仕の男性が、各々の人の前のグラスにきれいな琥珀色の飲み物を注いでいく。未成年にはジュースが注がれた。オズワルドのあいさつの後マロンは、ジュースを少し飲みこんだ。食べたことない果物の味がするが濃厚で甘くとても美味しかった。
その後食事が運ばれてきた。白地に深い緑のつる模様に赤と黄色と紺色の小花を散らした縁取りの丸い陶器の大皿に季節の野菜とハムを添えてあった。皆静かにカトラリーを動かし食事を始める。次にコーンのスープ、メインはお肉のステーキと野菜添え、焼きたてパンにバターが添えてあった。最後にカットフルーツが出てきて、未成年は談話室でお茶をする。大人は別室でお酒を飲むらしい。
メリーに案内されたのは柔らかな薄緑の壁紙に明るい緑のカーテンがされた部屋だった。天井には丸いガラスの中に小さな灯りがともされた照明器具が数か所に配置されていた。まあるいテーブルにくつろげるクッションの付いた椅子が5脚ほど並んでいる。この部屋ではハリスが主としてマロンを椅子に案内してくれた。
「マロンさん、緊張したでしょう。でもカトラリーの使い方は完璧でしたね。ロバートさんに習ったのですか?」
「いいえ、貴族家に仕えていた祖母に習いました。今日が初めてのお披露目ですごく緊張しました」
「マロンさんは何歳ですか?エリザベスは9歳なの。来年の春には王都に向かうわ」
「お嬢様と同じ年の9歳です。私はロバートさんと王都に向かい働く予定です」
「「えっ、働く?」」
驚く二人にマロンは自分の生い立ちを簡単に説明した。孤児だったマロンをおばあさまが引き取り育ててくれたが、先日亡くなったこと。おばあ様の知り合いのロバートさんの勧めで王都に向かい仕事か平民の学校に通うつもりだと話した。
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