17 お初にお目にかかります
メリーさんの入れてくれたお茶を飲みながらまだ花の少ない庭を眺めていると、部屋をノックする音がした。商談が終わったロバートさんだった。
「マロン、一息つけたかな?このまま辺境伯家に挨拶に行く。一緒に行こう」
辺境伯領館の素敵な部屋は1刻ほどしか過ごすことは出来なかった。メリーさんはマロンと共に馬車に乗り込み本館の屋敷に向かった。辺境伯領館から離れると森の中の小高い丘に豪華な建物が現れた。確かに辺境伯領館は両隣に兵舎や訓練場などもあって、いかにも辺境と言った趣だった。しかし、辺境伯の本館の建物はその反対に、森にかこまれた優雅なお城のようだった。マロンの驚きにメリーさんが説明してくれた。
「素敵な建物ですよね。私も初めて見た時は驚きました。この土地は辺境を守る武骨な地域と思われていますが、先には王女様が降嫁したこともある由緒あるお家でございます。お屋敷の中もとても素敵なんです。魔石を使ったガラス細工の天井から吊り下げるきれいな照明器具は見事です。寒い冬でも魔石の暖房が完備されています。それも使用人の私達の部屋にもです。
山からの温かい水は「神の湯」と言われています。屋敷全体に張り巡らされた魔道具で、おふろの湯になったり建物全体を温めてくれます。もちろん、平民街にも使われています。庭の温室には色とりどりの薔薇の花が冬でも咲きほこっています。王都の貴族家に負けるようなことはありません」
メリーさんの言葉に、この地を誇りに思っているのが良く分かった。メリーさんは男爵家の娘で、行儀見習いでお屋敷で働いている。来春には婚姻してお勤めをやめることになっている。可愛い赤い耳飾りは婚約者からの贈り物だと教えてくれた。婚約者の髪の色らしい。マロンは思い人には自分の色を贈るのは愛の証だと知った。
メリーさんの話の通り、森の中から突然現れた白亜の建物は圧巻としか言えなかった。外壁は白い石を重ねその隙間を埋めてあるせいで、滑らかな石積みになっていた。山を背に一つの尖塔と茶色の屋根が白い建物を引き立てていた。お屋敷は辺境領の最後の砦としての意味がある。白亜の建物は領民を守るための「要塞」であり「政治や外交」の拠点にもなっている。高い尖塔は遠くを見晴らす見張り台になっている。
本館は左右で構造が違っている。左が公的に使用するため、右側は辺境伯家の家族の私的空間となっていた。マロンたちはセバスに案内され建物の中に向かった。魔物多いこの地では魔石が多くとれる。それを使った魔道具の研究が盛んだといったメリーさんの話しのように、あちこちに魔道具らしきものが見受けられた。ドアの前に立てば自動で開く扉、「ライト」と唱えなくても灯る照明器具、暖炉の形をした暖房器具など驚くものばかりだった。
案内された部屋は客間や応接室とは違う、家族の集う居間の様な温かみのある部屋に案内された。そこには30代だろうか、鍛えられたことが分かる赤い髪の男性とその横に立つ男子と幼い女の子がたっていた。ロバートさんは現在の辺境伯家当主ノイシュヴァン・オズワルドと挨拶を済ませ、マロンのことも紹介してくれた。おばあさま仕込みの挨拶をしようかと思ったが、平民が出過ぎた真似はしない方が良いと思い、深く頭を下げた。
「父は今街に出向いている。ロバートに会えるのを楽しみにしていた。遠い道のり疲れたであろう。新しい魔道具もいくつかある。巨大魔兎の毛皮が今年は多く手にはいった。土産に持っていくといい。父も年を取った長年の友と会えるのもあと少しと思う。しばらく楽しんでいってくれ」
「ロバートおじ様、お久しぶりです」
「もしかして、ハリス様ですか?立派になられました。確か王都の学園に」
「はい、この春で2年になります。騎士科と領主科を受けているので、、」
「それは忙しい毎日ですね。良き領主になるためには仕方ないですね。今は冬の休暇ですか?」
「長期休暇は戻ってきて魔物討伐や訓練を受けています。王都の訓練では、、」
「物足りないのですね。仕方ありません。わたしもここに来た時は驚きましたから。あっ、飴をお持ちしています」
ロバートさんは自分の鞄から色とりどりの飴が入ったきれいなガラス瓶を取り出した。ハリスは目を見開いたが笑顔で、「もう子供ではありません」と声を掛けた。
「おじさま様、ノイシュヴァン家長女エリザベスです。兄はいらないようなので、エリザベスに頂くことは出来ますか?」
ふらつきがするが綺麗な作法で挨拶をした。その時ちらりとマロンを見た気がした。
「エリザベス様、まだお小さい頃にお会いしたことがあります。お兄様がよろしければ飴をどうぞ」
ロバートさんは飴の瓶を5個差し出した。ハリスはそのうちの二つをエリザベスに渡し一つを父親に手渡した。
「エリザベスは食べ過ぎに気を付けなさい。虫歯になると歯の治療は大変ですから。お父様は執務の休憩に食べてださい。飴は頭の働きを助けるそうです。でも食べ過ぎると「豚」になりますから気を付けてください」
「お兄様、一日1つなら「豚」になりませんか?」
笑い声に包まれた暖かな空間。おばあ様と過ごした家族の在り様だと思った。マロンの頭の上でユキが飴を欲しがったのかゆらゆら揺れていた。
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