16 北の辺境領
荷馬車から見る風景が草原から枯草ばかりの風景に変わってしばらくしたころ、遠目に大きな石造りの建物が見えてきた。こんなに離れていても分かるのだから、側に行ったらどんなに巨大なのかとマロンは驚いた。
「あそこに見えるのが辺境伯領の城門壁の外周だ。国の北端で迷いの森からの魔物の侵略と他民族からの守りとして、国境の守護を任された辺境伯が納める領地だ。王都にいると魔物の怖ろしさなど知らないで終わるが、ここがあることで皆が平和に暮らしているんだ。
マロンさん、しっかり覚えておいてください。そのポシェットも魔物の皮から作られています。高度の魔法付与には強い魔物の皮が必要なんです。他にも生活に必要な魔石や薬なども魔物由来の物は多いのです」
マロンの知らない世界が広がっている。荷馬車は見上げるほどの石壁の門の前に停まった。ロバートが前に出て門番の騎士らしき人と話をして、重い扉を開いて中に入ることが出来た。殺風景だった外とは違い大きな通りに多くの店が並んでいる。マロンの街の様な街並みだった。
「驚いただろ。ここだけで一つの国のようになっているんだ。辺境伯は国の要なので公爵家と並んで国の重鎮に位置している。冒険者も数は多い。国境の防衛として一軍隊常駐している。だから治安は良い。さらに山から暖かい水が流れているので、冬でもこの中は過ごしやすいし、農業、酪農も盛んなんだ。そして今までで通り過ぎた村などに運んでいるんだ」
外周より低めの石壁をいくつか過ぎた先に砦の様な大きな辺境伯領館が現れた。マロンはポシェットから荷馬車の箱に積み荷を移し替えた。抱える事の出来ない荷物も手で指し示すだけでよいのは本当に助かる。辺境伯領館の前には体のほっそりとした気難しそうな男性がたっていた。
「あれがセバスと言って辺境伯領館を支えている館長だ。弱弱しそうに見えるが、辺境伯領5本の指に入る強者だ。昔学生の頃、あいつにコテンパンにやられた。それでも随分力を抜いていたらしい」
「ロバートさんは騎士を、目指したのですか?」
「あの頃は、自分の力に奢っていたんだ。それなりに大きな商会の息子だからな。みんなが忖度してくれたことに気が付かなかった。シャーリーンさんに試験ごとに追い抜かれ、女性ながら主席の位置にいる事にも文句ばかり言っていた頃もあった。狭い世界にいると自分の立ち位置が分からなくなることがある。学園生活はそういう意味で、良い学びが出来た時間だと思う。色々な人と知己になり、見識を広げることが出来た」
荷馬車は辺境伯領館の前に停まりロバートさんはマロンを抱き上げ降ろしてくれた。そのままセバスと簡単な挨拶後肩を抱き合った。ロバートさんが辺境に向かったのは随分前だったから久しぶりの再会。思うことが沢山あるのかもしれない。その後、2台の荷馬車から使用人が荷物を運び出し木札を確認して、セバスが采配していた。あらかた荷馬車の荷物が出されると荷馬車は玄関前から引き揚げていった。
「マロン、中に入ろう。冒険者たちはすでに街の宿に戻っている。ロブは一緒に」
大きな辺境伯領館の扉はセバスによって開かれ石造りの広いロビーには古めかしい「鎧」が並んでいた。これらは歴代の辺境伯当主の歴戦の証の鎧だった。見たことないが山のように大きいドラゴン、鳥の魔物のコカトリス、わしの上半身にと翼にライオンの下半身の魔物グリフォンなどの討伐の時に着用していた「鎧」だからこそ痛みも激しいが誉れでもあり。さらに巨大なドラゴンの「鱗」や魔物の皮や牙などもその横に展示されていた。本来絵画などを展示するらしいが、ここが軍や騎士団の本拠地だからこそ「鎧」らしい。
ロバートさんは初めてこれを見た時は心が躍ったそうだ。マロンには理解できないが、怖いがドラゴンなど見て見たいとは思う。おばあ様の話には魔物などの冒険話は何もなかった。辺境伯領館の資料室にはその当時の資料があり、絵も添えられている。ドラゴンの鱗なども保管してある。歴史があるということは凄いことだとマロンは辺境伯領館の広いロビーを見ながら思った。
ロバートさんたちはそのままセバスと奥の商談室に向かった。マロンは侍女のメリーさんに案内され2階の個室に案内された。日当たりの良く、中庭が見張らせる広い個室だった。
「マロンお嬢様、滞在中のお世話をさせていただきます、メリーと申します。ロバート様は当館館長との商談がありますので、こちらでくつろいでください。今お茶をご用意します」
「ありがとうございます。メリーさん、わたしのことは「お嬢様」ではなく「マロン」とお呼びください」
幾分か渋い顔をしたがマロンの説得で「マロンさん」で折り合いをつけた。きっとグランド商会ロバートさんの孫と勘違いしているんだと思う。早めに誤解を解くことにこしたことはない。改めて部屋を見渡せば落ち着きのある壁紙に生成りの厚手のカーテン、ソファーなどは深緑で整えられ、家具は重厚感のある木で作られていた。階段の手すりや鎧ケースも同じ木質をしていた。きっと辺境で多く伐採される木材の中でも年輪を重ねたものが使われている。すべてが高価な作りであることが分かる。
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