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15 辺境領への旅 

 いくら荷馬車が軽くなっても、宿に泊まらないわけにはいかない。マロンは宿に泊まったことがない。街や村につく度に護衛の冒険者にロバートさんが、酒代を渡しそれぞれが街に向かっていった。冒険者は自分のお気に入りの宿があるらしい。護衛のいらないしっかりした宿の場合は、緊張の続く旅は疲労を貯めやすいから冒険者の息抜きの時間を取らせるのも雇い主の仕事と言っていた。


「マロン、一人部屋を用意した。「クリーン」は出来るだろう。食事は下の酒場で」


「ロバートさん、野宿するかと思って、挟みパンやスープを作ってきたので部屋で食べます」


「分かった。俺たちは情報を集めるため下で食べてくる。しっかり鍵をしておくんだよ。普段はこんなに急がないんだけど、明日は早いから、食べたら早く寝なさい。思いのほか疲れているから」


 ロバートさんが声を掛け酒場に降りていった。マロンの部屋は寝台に一人用の机と椅子、小さなクローゼットと整理棚があるこじんまりとした部屋だった。内鍵が付いている。汚れもない。きっと、良い宿なんだろうと思えた。マロンはユキにいつものハンカチを机の上に広げた。取り出した鍋からスープをカップによそりハムを挟んだパンを取り出し夕飯にした。


 食事前に手を洗わなければと思ったが、自分に「クリーン」を掛けて済ませることにした。おばあ様は病気の予防には「手洗いと口ゆすぎ」だと言って、外から帰ったら必ず行っていた。


「マロン疲れただろう」ユキがコロンとハンカチの上で転がっている。


「ユキも揺れる荷馬車で髪に捕まってるの大変だったでしょう」


「全然、マロンの魔力を使っているから何でもないよ」


 どう返事してよいのか分からない。


「ユキも情報収集してくるよ」と言うが早いか、小さく開けた窓から外にふわりと出ていった。情報を集めることで安全な旅をする。おばあ様が「知識は力」と言ってたけど、情報も知識の一部かもしれない。おばあ様の筆記帳を取り出し読んでいるところにユキが返ってきた。ふわふわの綿毛が少し汚れている。


「クリーン」を掛ける。


「あと5日ほどで辺境領に着くっていっていた。まだいくつか大きな街を通ったらあとは小さい町か村しかないらしい。夜盗の情報はなかった」


「夜盗?」


「町や村が少なくなれば安全の確保が難しくなるし、貧しい村や町がこれから増える。生きるために夜盗になる者もいれば、盗賊を仕事にしている者もいる。マロンは良い人に囲まれていたから、危険に対して鈍いな」


 ユキに言われてみればそれは言える。ロバートさんが「鍵を閉めろ」と言うのはそういう意味もあったんだ。護衛の人でも商会の人でも信頼は大切だが、だからと言って、すべてを人任せにせず自分で判断しろということだ。これからずっとロバートさんにお世話になるわけではない。王都に行けば知り合いなどいない。自分だけが頼りだ。


「マロン、そんなに深刻に考えるな。旅は始まったばかり、今は外の世界を楽しもう。もう寝るぞ」


 マロンはすぐに寝台に横になりユキと寝ることにした。寝たらすぐに朝が来る。どんな風景が見えるのか楽しみになってきた。


 ロバートさんは、今は辺境に行くことはないが、若い頃はよく出かけていた。目にする風景はそう変わっていないという。食器の街を過ぎたら、色とりどりの鮮やかな布が風に舞っている街を通り過ぎた。織物の街で色染めが盛んなので、いつも色染めされた布が風に揺れている。この地域は雨が少なく風が吹くので、染め物は鮮やかに仕上がる。ここには庶民が着る綿や麻布が作られている


 さらに北に進むと「蚕」の餌の桑畑が見渡す限り広がっていた。「蚕」と言う虫を育てて「絹」と言う美しい織物を作っている街だった。「絹」は貴族からの需要が高いが、手間がかかる上に簡単には生産できないので、超高級品らしい。


 途中オオカミの魔物に出会ったが、護衛の冒険者が軽々仕留めていた。目の前のオオカミの討伐はマロンには刺激的だった。返り血などものともしない。終わった後はロバートさんが「クリーン」を掛けていた。かえって冒険者の方が感謝していた。旅の護衛中の汚れは次の宿で流すか川で水浴びする。血の匂いで他の魔物が来ることもあるので、早く汚れを落とすことにこしたことはない。


「生活魔法」があるって、やっぱり便利だと思う。「マロンは使うなよマロンの「生活魔法」は効果があり過ぎる。しっかり制御できるように「初めての魔法」という入門書をしっかり読んでおけよ。シャーリーンさんが凄く心配していたからな」と言われ、移動中の時間に入門書を読み始めた。外の景色も少しずつ街が無くなり村になり、道の周りは草原だけになった。


 時に野営をするも荷馬車で寝るので困ることはなかった。冬でなくて良かった。この辺りは真冬には雪が積もる地域らしい。マロンの作ったスープや買ってきたパンなどはロバートさんに荷馬車の中で魔法鞄に移し野営地で食べた。


「魔法鞄いいですね」と護衛の冒険者は言っていた。ロバートさんは「時間停止は容量が小さいんだが薬など運ぶ時には助かる。人の命がかかっているから。今回は急ぐたびだから店で食事を作ってもらったんだ。北は春とはいえ寒いからね。暖かいものは体に良いからね」と話していた。色々の立場の人の話を聞くことは楽しいが緊張もするとマロンは思った。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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