14 王都から北の辺境に進路変更
マロンはロバートさんの所に明日の出発の準備ができたことと、荷造りが出来たことを報告に向かった。しかしいつもにこやかな笑顔の多いいロバートさんが険しい顔をしていた。見たことのない男性と難しそうな話をしていた。マロンは家に戻ろうとした時ロバートさんに声を掛けられた。
「マロンさん、明日王都に戻れなくなった。ここで待っていてくれれば2週間前後には戻れると思う。本当に申し訳ない。うちの手違いで、ここから北の辺境領に荷物を運ばなければならなくなった」
「仕事なら仕方ないです」
「でも家はもう貸し出すんだよな。住む所がないか?マロンさん、俺と一緒に旅をしないか?辺境領に行ってそのまま王都に向かおう。辺境領など行くことはないだろうから、良い経験になるぞ」
ロバートさんの商会は辺境伯との取引で、年に2回、大掛かりな納品がある。春は冬越し後の食糧、秋は冬越えの準備にといろいろ仕入れて運んでいた。その中に小麦などの食料品や調味料などが含まれる。他にも日常品や王都の流行しているものなど商会に任された物も多い。それだけ信頼されていた。それが今回後発の荷車が来ないことで先に出た商会員が焦ってロバートさんに相談してきたのだ。
さすがに大口の取引だけに失敗は許されない。さらに今から辺境領に向かうのでさえ納期が遅れているので、王都に戻る余裕がない。この街で不足分を買い取り相談してきた商会員と共に辺境領に向かうしかない。時間停止の大きな魔法袋は今いる商会員ロブさんが管理していたので、貴重な物などは間に合う。ロバートさんはマロンに頭を下げた。
「マロンさん、もし余裕があったら魔法鞄に商品を預かってもらえないか?荷物が少ないほど早く辺境領につける。小麦や豆、塩、砂糖、胡椒などは一時的に多量の購入を商業ギルドにお願いした。不足しないよう王都の商会からここに」
もちろんマロンには異議はなかった。いつもマロンたちを気にかけてくれているロバートさんの助けになるなら、お手伝いはしていきたい。ロバートさんが一度荷物を荷馬車に乗せ、街を離れたところでマロンのポシェットに収納することにした。マロンは旅の間の食事の準備をしておくことにした。残していくつもりだった鍋にはたくさんのスープを作り、食器も事情をカリンさんに話して持ち出すことにした。
パン屋の女将さんに差し入れ用と言って、挟みパンに丸パン、女将さんの手持ちのジャムなどを購入させてもらった。野営用に毛布も準備した。水は生活魔法で出せるので心配はない。ロバートさんがいるのでマロンはそんなに心配していなかった。
王都に向かうはずだった4月の終わりに反対の北の辺境領に向かってマロンを乗せた荷馬車は走り出した。マロンの乗った馬車の前には、ロブさんと排斥の出来る冒険者が騎馬で走る。その後ろをマロンとロバートさんが荷馬車で続く。さらに荷物と共に次の荷馬車には護衛の冒険者が5人乗っていた。本来ならマロンの乗る荷馬車にも護衛を乗せるのだがロバートさんが、マロンの秘密が漏れるのを心配して乗せなかった。
「マロン、冒険者の中には魔法を得意とするものがいる。「ユキ」のこともあるし、マロンの「生活魔法」は普通ではないから注意した方がいい。本当は王都で色々調べてから「生活魔法」を使わせたいがそうも言っていられないからな。
あと「ポシェット」は貴重品だ。子供が持つようなものではないから、この茶色の背負い袋を隠れ蓑にして荷物を取り出しなさい。木箱3個分ぐらいの拡張はしてある。グランド商会の身内ならその程度は子供に持たせてもおかしくないからな」
『マロン、箱入り娘だからロバートさんの言うことは聞いておけよ。ユキのことも同じくだ。旅の間は念話で話そう。いつも側にユキが付いてるからな』
荷馬車で走りながら、マロンは荷物の箱の中身をポシェットにどんどん収納していった。家の物も沢山入っているのに、いくら入れても入っていく。いくら「大は小を兼ねる」と言っても驚きだった。
このポシェットの機能を知ったら、欲しくならない者はいない。本当に気をつけないといけない。
「ロバートさん、あの山の麓は火事ですか?煙が沢山出ています」
「あそこは、器を焼いているんだ。あの山と川から上質の土が出るんだ。マロンの家の飾り棚にきれいな皿があっただろう。あれはシャーリーンさんが勤めていた公爵家の子息の成人の祝いに極身内に配ったお皿でな、高名な作家の作品なんだ」
マロンの家には不似合いな物が飾り棚に飾られていた。おばあ様は時々入れ替えをしていた。それらがお勤めしていた公爵家から戴いたものだと初めて知った。寝台の下にあった箱入りの食器や壺、ガラスペン、音の出る箱などをどうしようかと思ったが、急に家を出ることになったのでそのままポシェットに収納していた。高価な品があったんだと驚いてしまった。
『マロン、おばあ様の物は、慎重にしないとだめだな。手放すならロバートさんに見せてからの方がいいよ。他にもきっとあるよ。おばあ様の残した宿題だな』
荷物が軽くなった馬車は速さを増して街や草原を吹き飛ばしていった。
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